病の起源 心臓病 ~高性能ポンプの落とし穴~|NHKスペシャル

NHK総合テレビの「NHKスペシャル」病の起源 第4集 心臓病について放送されました。5000年前に栄えた古代エジプト文明。人々は死者の体をミイラとして保存しました。この時、全身の臓器は取り出したものの心臓だけは体に残していました。心臓は魂が宿る臓器だと考えられていたからです。医師たちが、この太古の心臓を調べたところ心臓病の起源が明らかになってきました。3500年前の王女のミイラは心臓を動かすために必要な血管が痛んでいました。人類は古代文明の時代から心臓病に苦しんでいたのです。700万年前、アフリカで誕生した人類は、過酷な環境を知性を武器に生き抜き高度な文明を築き上げてきました。しかし、その影で私たちの体には病気の種が埋め込まれていたのです。心臓の働きに異常が起き、突然私たちの命を奪う心臓病。いまや世界の死因の第1位です。毎年700万人以上が亡くなる恐ろしい病です。

 

3億年前、地上を支配していたのは爬虫類でした。爬虫類の心臓は隙間が多くスカスカです。筋肉の密度が低いため大きな力は生み出せません。そのため爬虫類は活発に動き続けることが出来ないのです。2億2000万年前、哺乳類が誕生しました。最初の哺乳類は体長20cmほどのか弱い存在でした。天敵から生き延びるには高い運動能力を必要としました。それを可能にしたのが進化した心臓です。哺乳類の心臓は細胞がぎっしり集まった強靭なものになりました。そのために筋肉に必要な酸素や栄養を届ける専用の血管も発達させました。爬虫類の心臓ではスポンジ状の筋肉に血液が染み込んでいきます。一方、哺乳類は血管を張り巡らせ筋肉の細胞一つ一つに血液を届けるよう進化しました。哺乳類は心臓の筋肉が強力になったことで長時間動きまわれる高い運動能力を手に入れたのです。そして人類も強力な心臓を受け継ぎました。しかし、高性能な心臓には弱点があります。それは一部に異常をきたしただけで命に関わってしまうことです。

 

7000万年前に人類は二本の足で立ち上がりました。この直立の姿勢にはメリットとデメリットがありました。大きなメリットは両手が自由になったことです。沢山の食料を集め、遠くから持ち帰ることも可能になりました。一方、デメリットは他の哺乳類より心臓に異常をきたしやすくなったことです。重力の影響で下半身に溜まりやすくなった血液を全身に巡らせるため心臓は負担を強いられるようになったのです。

 

交感神経は全身の血管をコントロールしています。立ち上がると下半身に血液がたまり交感神経が働きます。すると、血管は細くしまります。この仕組みによって下半身に血液がたまらないようにするのです。交感神経は立ち上がっている限り活発に活動します。しかし、交感神経が長期間活発に働くと血管は細くしまった状態が続きます。すると心臓は血液を送り出すのに大きな力が必要に。血管が細い状態が続くと心臓の筋肉が疲弊し心臓病のリスクが高まってしまうのです。

 

心筋梗塞は人類が特に発症しやすい病気であることが分かってきました。それはゴリラなど類人猿の研究から浮かび上がりました。ゴリラは血液中のコレステロール値が高く平均でもヒトの1.5倍もあります。当然、心筋梗塞になると考えられます。ところが、類人猿の死因で心筋梗塞はほとんどありません。N-グリコリルノイラミン酸(Gc)がヒトを心筋梗塞になりやすくしていると考えられています。Gcが血管内に入ると炎症が起きてしまい血管の壁が傷みます。そこからコレステロールが入り込みやすくなり大量に溜まっていくのです。ところが、Gcが炎症を引き起こすのはヒトだけでゴリラなど他の哺乳類ではGcが体内に入っても炎症は起きません。それは本来Gcはヒトの細胞には存在しない物質だからです。そのためヒトでは異物と認識され免疫反応によって炎症が起きてしまうのです。

 

3700万年前のアフリカに暮らしていた人類には他の哺乳類と同じように体内にGcがありました。しかし遺伝子解析の結果、約270万年前にGcを失ったことが分かってきました。この頃からヒトの脳は巨大化。脳の巨大化はGcを失ったことが関わっているのではないかと考えられています。脳は神経細胞から成長を促す物質が出ることでネットワークを発達させていきます。しかし、Gcがあるとこの物質が出にくくなり脳の発達が抑制されると考えられます。人類の脳はGcを失ったことで成長が促され巨大化した可能性があるのです。そして6万年前、人類はアフリカを出て世界中に進出し以前とは全く違う文明社会を築きあげました。きっかけは農耕や牧畜による食料生産革命でした。食料を安定して得られるようになったのです。しかし、このことがGcを体内に大量にもたらしました。牧畜が始まり私たちはGcを含んだ肉をかつてないほど大量に食べるようになりました。そのGcが血管で炎症を起こすようになったのです。Gcを失った人類の進化が皮肉にも心筋梗塞を招いていたのです。

 

今、日本では心臓病へのリスクを下げるため妊婦への栄養指導に力が入れられています。こうした指導が行われるのは進化の中で胎児の段階から心臓が痛みやすくなったことが分かってきたからです。妊娠期に栄養不足に陥ると子供が成人後、心臓病になりやすいことが明らかになりました。第二次世界大戦中、オランダはドイツ軍による食料封鎖を受け、妊婦たちは深刻な食糧不足に苦しめられました。当時生まれた人たちを追跡調査したところ、飢餓を経験した母親の子供は心臓病になる割合が2倍も高いことが分かりました。心臓の筋肉の細胞は胎児期にだけ分裂し、その後は増えません。胎児期に細胞が死ぬと本来より細胞の数が少ない心臓になってしまうのです。胎児期に心臓の発達が妨げられるのは脳の進化と深く関わっていると考えられます。栄養が十分に届いていると脳も心臓も順調に発達していきます。ところが、栄養が少なくなると脳に優先的に栄養を送ります。そのため心臓が十分に発達できないというのです。胎児期の栄養不足が心臓病をまねくのは脳の巨大化の代償だったのです。

 

今、心臓病の新たな治療が始まっています。これまでは心臓病の患者は安静にと指導されてきました。しかし、最近では心拍数や血圧を管理しながら運動を続けると心臓病の再発を減らせることが分かってきたのです。立ち上がったことで心臓に負担がかかるようになった人類ですが、実は歩くことで負担を軽減してきました。その秘密は足の筋肉にあります。足を動かすと筋肉が静脈をしめつけ血液を上に押し上げます。足はまさに第二の心臓。足を鍛えると患者の弱った心臓を補う効果が高まります。治療に運動を取り入れることで心臓病の再発は3割も減ることが確認されています。また低出力体外衝撃波治療という動きが悪くなった心臓を蘇らせる治療法も行われています。衝撃波を当て、新たな血管を生み出そうというのです。これまで国内では40人ほどが治療を受け、そのほとんどで改善が見られています。




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