わが子がキレる本当のワケ|NHKスペシャル

NHK総合テレビの「NHKスペシャル」でニッポンの家族が非常事態!?~第1集 わが子がキレる本当のワケ~が放送されました。原因も分からず突然キレる息子、口を閉ざし引きこもる娘、そして四六時中とりつかれたようなスマホ依存。こんな思春期の子供の悩ましい行動に多くの親が強い不安を抱えています。国の調査によれば思春期の子を持つ親の93%が我が子に不安を抱えていると言います。家庭内暴力はこの10年で倍増。インターネット上でのイジメやトラブルは深刻な社会問題にもなっています。さらに思春期が始まる年齢が年々早まり、いまや女子では平均12歳に。逆に思春期が終わるのは25歳過ぎという驚きの事実も最新研究から分かってきました。

 

最新科学で解明!わが子がキレる理由

子供たち自身にも説明できない思春期の暴走はなぜ起きるのでしょうか。その理由がアメリカの最新研究で明らかになってきました。カリフォルニア大学デイビス校で10代の若者30人の脳の活動をMRIで分析する実験が行われました。すると、思春期の脳は大人より敏感に反応する場所があることが突き止められたのです。それは偏桃体。怒りや悲しみなどの感情を生む中枢です。この偏桃体が若者に怒りや恐怖の表情を見せると大人よりはるかに激しく反応しました。思春期の脳は「負の感情」にとても敏感であることが分かったのです。そのため、より強いストレスや苦痛を感じやすいのです。ではなぜ思春期には過敏で暴走しやすい脳になるのでしょうか。

そもそも思春期とは子供の体から大人の体へと性的な成熟が起こる時期です。その変化を引き起こすのが性ホルモン。ところが、最近の研究で性ホルモンが体だけでなく脳にまで入り込み劇的な変化を生じさせることが分かってきました。特に大きな変化が起きるのが偏桃体なのです。

シナプスに性ホルモンが作用するとシナプスが増えます。シナプスは神経細胞同士がつながる接点です。シナプスが増えると新しい神経細胞のネットワークがどんどん作られていきます。脳の偏桃体で神経細胞の繋がりが増えると細胞の興奮で生まれた感情がたちまち広範囲に広がり感情が増幅されます。そうして引き起こされるのが思春期特有の感情爆発だったのです。わが子が豹変する理由は体だけでなく脳まで変化させる性ホルモンの仕組みにあったのです。

 

ネット社会が思春期を暴走させる!?

スマホなどインターネット上のやりとりでは思春期の過敏な脳に思わぬ事態が起きることも分かってきました。

「これを送ったらどう思うだろうと想像する前に打たないと、そもそも空気読めないやつになってしまう。それがきっといじりからいじめになってより深刻になってしまう。トラブルの見積もりの甘さがあるのではないか」(静岡大学教育学部准教授 塩田真吾さん)

なぜ、子供たちのネットでのやり取りは時に歯止めなくきついものになりやすいのでしょうか。中学生に脳の活動をとらえる装置を取り付けた状態でメッセージのやりとりをしてもらう実験をしました。会話の相手は別室の大人。わざとネガティブな言葉を投げかけました。大人でも思春期の子供でもどちらでも活動が高かったのは言語を司る部分です。一方、前頭前野は大人では活発に働いていましたが、中学生はあまり働いていませんでした。前頭前野は感情や衝動を抑制する機能を担っています。大人はこの部分が働いて冷静にやりとりできると考えられます。ところが、思春期の脳はこの抑制機能が十分働かず感情的な言葉をそのまま返してしまいやすいと考えられます。子供たちのネットコミュニケーションは仲間との絆は深まるけれど、トラブルも起きやすいのです。

 

思春期の過敏な脳にとってストレスになりうるのはネット上のコミュニケーションだけではありません。様々なメディアから流れ込む情報の洪水。塾通いや部活などに追われる子供たちの忙しさ。また核家族化などによって人間関係が希薄になっていることも影響を与えると考えられています。現代の思春期の子供たちは様々なストレスにさらされているのです。

 

なぜ人間にはやっかいな思春期が?

なぜ思春期などというやっかいなものがあるのでしょうか。ちなみに多くの動物は思春期にあたるような時期はありません。過敏で暴走しやすい脳に変化して感情を爆発させるような思春期があるのは人間だけなのです。

ケニアに大昔の暮らしを今にとどめるマサイ族が暮らしています。マサイ族では思春期の若者たちは親から借りた牛やヤギを連れて他の場所で暮らしていると言います。年上の若者から放牧の技術など生きる術を見よう見真似で学びます。いわば大人になるための準備期間。それこそが遥か昔から受け継がれた思春期本来の意味だったのです。でもなぜそんな大切な時期に子供たちの脳は過敏で暴走しやすい状態に変化してしまうのでしょうか。

鍵を握るのは感情爆発を引き起こす性ホルモン。実は記憶力を劇的に高めることが分かってきました。記憶の中枢である海馬は、思春期には性ホルモンの作用で神経細胞同士のつながりが増え、記憶できる容量が増大するのです。さらに感情爆発を引き起こす偏桃体は、海馬のすぐ隣にあります。偏桃体で強い感情が生まれると、それが海馬も刺激して記憶を強力に促すことが分かったのです。やっかいな感情爆発には学ぶ能力を高める起爆剤の役割があったのです。思春期に高まるのは記憶力だけではありません。思春期はリスクのある行動をとる時に側坐核など快感の中枢が激しく反応します。だから、思春期には危険で無謀なことをしやすいのです。

実はマサイ族の若者集団は敵が襲ってきた時には牛や集落を守る戦士になります。怪我や死のリスクを恐れず勇敢に戦えるからです。また、干ばつなどが起きると危険をおして新たな生活場所を探す冒険に出ます。思春期の若者たちは部族が厳しい環境を生き抜く力となっているのです。こうした思春期の脳の性質を存分に発揮させる不思議な仕組みが最近解き明かされました。

カリフォルニア大学サンディエゴ校教授のジェイN・ギードさんは、1000人以上の子供の脳を調べ思春期に脳がどう成長するか初めて突き止めました。思春期に入ると脳は後ろから前へと成熟が進みますが前頭前野は未発達なままです。16歳頃から発達し始めます。脳のブレーキである前頭前野を最後まで成熟させないことこそが人間の思春期の戦略だとギードさんは言います。

「前頭前野の成熟に時間がかかることは短所だと考えられてきました。しかし、それによって起こる思春期の衝動はとても重要です。リスクを恐れずに新しいことにチャレンジするからこそ多くを学び自立できるのです」(ジェイ・ギードさん)

そして、前頭前野が十分に働き始めるのは25歳過ぎであることも分かってきました。あえて長い期間ブレーキを効かせないという思春期の脳の戦略。それは人間の進化においてとても重要な役割を果たしたとギードさんは考えています。




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