病の起源 がん|NHKスペシャル

NHK総合テレビの「NHKスペシャル」病の起源~がん~人類進化が生んだ病が放送されました。

今、私たちの2人に1人ががんになります。人類が進化したからがんになりやすくなったということが最新の研究から分かってきました。700万年前アフリカで誕生した人類は、過酷の環境を知性を武器に生き抜き高度な文明を築き上げてきました。しかし、その影で私たちの体には病気の種が埋め込まれていたのです。がんは体の中でとめどなく増殖を繰り返し命を脅かします。なぜ体の中でこのような細胞が生まれるのでしょうか。実はその宿命は人類が誕生する遥か昔に生まれていたのです。

 

5億5000万年前、単細胞生物しかいなかった地球に沢山の細胞からなる多細胞生物が誕生しました。多細胞生物は細胞が傷ついたり寿命を迎えると新たな細胞を作り体を維持しています。しかし、この仕組みにはリスクが伴います。細胞が分裂する時、コピーミスが起こり違う性質の細胞が生まれるのです。コピーミスした細胞からがん細胞が誕生。増殖を繰り返し体を蝕んでいきます。多細胞生物はこの宿命から逃れられないと考えられています。

 

人とチンパンジーの遺伝子は99%同じですがチンパンジーのがんの死亡率は2%以下です。かたや人では日本人の場合30%ががんで亡くなっています。人とチンパンジーは700万年前に共通の祖先から分かれそれぞれ進化していきました。遺伝子の違いはわずか1%ですが、姿や行動にはずいぶん違いがあります。特に人と違うのはメスが妊娠できる状態になるとオスに知らせるため生殖器を膨らませることです。人には見られない特徴です。

 

がんの増殖と脳の巨大化に関わったといわれる物質がFASと呼ばれる酵素です。細胞の材料となる脂肪酸を作り出します。ほぼ全ての生物が持っています。人のFASは他の動物と比べ大きく変化しています。人のFASの脂肪酸を作る能力がパワーアップしたと考えられます。脳の細胞の中でパワーアップしたFASが大量の脂肪酸を生産。細胞が活発化し細胞同士のネットワークを広げていきました。この仕組みによって脳が巨大化していったと考えられるのです。しかし、がん細胞はFASが作る脂肪酸を使って分裂を繰り返しています。脳の巨大化の過程で獲得したと考えられる細胞を活発化させる仕組みを利用していたのです。がんは人類進化の過程で獲得した仕組みを取り込んで盛んに増殖しているのです。

 

繁殖戦略や脳の巨大化がもたらしたがんのリスクですが、6万年前さらにがんのリスクを高める出来事が起きていました。それは太陽との関係です。人類は誕生以来強い日差しが降り注ぐアフリカの大地で暮らしていました。しかし、6万年前、人口の増加がきっかけでアフリカから新たな環境に進出していきました。出アフリカです。ヨーロッパからアジア、アメリカ大陸へと世界中へ分布を始めました。人類は日差しが弱い地域でも暮らし始めたのです。

 

大腸がんの死亡率と紫外線の量を調べると、紫外線量が少ない地域ほどがんの死亡率が高いことが分かりました。紫外線ががんの発症リスクを左右しているのはなぜなのでしょう。紫外線が当たることで皮膚で作られるビタミンD。ビタミンDは紫外線量の多い地域ほど大量に作られ、少ない地域ではわずかしか作られません。体内のビタミンDの量が少ないことが、がんになりやすい原因だと考えられるのです。赤道から離れた緯度の高い地域で暮らすことは、日光を浴びてがんを抑制するという自然の仕組みを台無しにしてしまったのです。人類はアフリカから世界中に広がり大きな繁栄を手にしましたが、その代償ががんだったのです。

 

エジソンが発明した電灯は人々が夜でも活動できる暮らしをもたらしました。しかし、長い進化の中で夜は眠る暮らしをしてきた人類にとって、この変化ががんのリスクをさらに高めたことが明らかになってきました。注目されるきっかけとなったのは夜間の仕事を続ける看護師にがんが多いことでした。昼間だけ働く看護師の乳がんのリスクを1とすると、夜10時以降の勤務を月に数回行っている人は1.8倍、常に夜に働いている人は2.9倍に達していました。

 

デンマークのヒラボー病院で看護師をしているギテ・ラーソンさんは30年以上に渡って夜間勤務を続けてきました。3年前、ラーソンさんは乳がんが見つかり手術を受けました。今も再発を防ぐ薬を飲み続けています。ラーソンさんは夜勤をする看護師に乳がんが多いことは知っていたと言います。でも自分がなるとは思わなかったそう。夜間勤務がなぜがんのリスクを高めるのでしょう。

 

アメリカ・ルイジアナ州にあるデュレーン大学のデビッド・ブラスク博士らはそのメカニズムを探ってきました。ブラスク博士たちが注目したのは血液中に含まれ睡眠など体のリズムを調整しているメラトニンの量です。夜間働く人は昼間だけ働く人の5分の1しかメラトニンが分泌されていません。がんを移植したラットにメラトニン量の違う血液を注入し、その差を調べました。その結果、メラトニンの少ない血液ではがんが大きくなっていたのに対し、メラトニンの多い血液ではがんはほとんど大きくなっていませんでした。メラトニンががんの増殖を抑制していることが明らかになったのです。夜寝ている人の血液には沢山のメラトニンが含まれています。しかし、夜に電気をつけるとメラトニンは作られなくなり、がんの増殖を防げなくなってしまうのです。本来暗い夜の間に体内で行われていたがん抑制システムを台無してしまっていたのです。

 

700万年前アフリカで誕生した人類は、昼は太陽の下で活動し夜は寝るというがんの増殖を抑える仕組みを働かせてきました。しかし、その後の進化の過程で人類はこの仕組みを崩し続けているのです。しかし、日本では働いている人の5人に1人が夜間勤務をしています。




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