今や国民病とも言われる花粉症。日本人の5人に1人がスギ花粉症に苦しんでいます。富山県森林研究所主任研究員の斎藤真己(さいとうまき)さんは、花粉を全く飛ばさない杉「無花粉スギ」を開発しました。
無花粉スギ誕生のきっかけは19年前。元富山県林業試験場研究員の平英彰さんは、スギの雄花を棒で叩き花粉を調査していました。
ある日、いつものように調査をしていると偶然花粉が飛ばないスギを発見。そこで平さんが共同研究を持ちかけたのが当時斎藤真己さんが在籍していた岐阜大学の研究室。
斎藤真己さんは希望に燃え学会で無花粉スギがもたらす未来について熱く語りました。しかし、1本だけ見つかっても意味はないと理解されませんでした。
スギ花粉が増えた原因
戦後の復興期、木材需要の高まりにこたえて全国に大量に植えられた杉の木。ところが、その後安い外国産の木材を使うようになり林業は衰退。放置されたスギは樹齢30年を超え大量の花粉を飛ばすようになったのです。
斎藤真己さんが無花粉スギに出合った90年代はすでに多くの人が花粉症で苦しんでいました。
無花粉スギの研究
斎藤真己さんは大学院を卒業後、富山の森林研究所に就職。一人、無花粉スギの研究を続けていく覚悟を決めました。
花粉を作る遺伝子をAA、無花粉になる遺伝子をaaとすると、通常のスギはa(スモールエー)を持ちません。しかし、斎藤真己さんはA(ラージエー)とa(スモールエー)両方の遺伝子を持つスギが存在するのではないかと考えました。それと無花粉スギをかけあわせれば、遺伝の法則によって生まれてくるのは半分の割合で無花粉になるはずです。
斎藤真己さんはAaの遺伝子を持つスギを探すため、全国の研究機関から花粉を取り寄せ無花粉スギの雌花と受粉させました。取り寄せたスギ花粉は300品種以上。花粉がとれる苗木になるまで3年。一つの掛け合わせにつき50本以上を育てるため、毎年何千本もの苗木が出来ました。斎藤真己さんはその全てから雄花を取り、無花粉がどうか調べ続けました。
一方、無花粉スギの発見者である平英彰さんは10万本以上のスギを調査し、新たに15本の無花粉スギを発見。周りに理解されにくい孤独な研究に取り組む斎藤真己さんにとって、己の意地を貫く平英彰さんの姿勢は何よりの励ましになりました。
スギの交配を始めて5年が過ぎた頃、無花粉スギになっている苗を発見。斎藤真己さんは同じスギを掛け合わせて出来た苗木116本を調べました。すると通常のスギが52本、無花粉スギが64本できていました。5年がかりで仮説を実証したのです。
斎藤真己さんは66本の無花粉スギの苗木を育て木材としての性質を確かめることに。しかし、それには10年スギの成長を待たなくてはいけません。しかし、毎年何本もの無花粉スギが雪の重みに耐えられず折れ曲がっていきました。一度曲がってしまったスギは真っ直ぐに成長することはないので、木材としての利用価値はありません。
そして、雪に負けず真っ直ぐに育つ1本の無花粉スギが誕生。この無花粉スギと他の品種を掛け合わせついに林業用の無花粉スギ「立山森の輝き(たてやまもりのかがやき)」が誕生しました。
斎藤真己さんが我が子のように育てたスギが2012年11月に初めて植樹されることになりました。この日植えた苗木が花粉を飛ばさない立派な杉林に育つのは50年後の未来です。
無花粉スギの発見から20年、斎藤真己さんはようやく実用化の第一歩を踏み出しました。富山県は今後5年間で8万本を植樹する予定です。
「夢の扉+」
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