私たちの生活を支える工業製品ですが、その材料は加工のしやすさから金属やプラスチックが担っています。しかし、それらの資源にもいつか限界がきます。
そんな問題を解決するのが、木を金属やプラスチックのように自由に成型するという技術です。将来、この技術が実用化すれば木材で車のボディを造ることが出来たり、ありとあらゆる工業製品が木へと変わる可能性を秘めています。まさに原材料革命を起こそうとしているのが、産業技術総合研究所の金山公三(かなやまこうぞう)さんです。
金山公三さんの秘密兵器は、世界初のプレス技術。木材を自由に成形できる流動成形です。この不思議な技術はどうやって生まれたのでしょうか。
まず金山公三さんが最初に目をつけたのは、木材を粉末にして固めることでした。ところが、粉末をプレスしただけでは工業製品に求められる強度には程遠いです。金山公三さんは条件を変え実験を繰り返しました。
するとある日、いつもと違う結果が。調べてみると今までにはない硬い塊が出来ていました。あらゆる観点から分析すると、ポイントは木の細胞の間にあるリグニンという成分にあることが分かりました。
ある薬剤を染み込ませ熱を加えてプレスするとリグニンが柔らかくなります。すると、一つ一つの細胞が分離し滑り動きます。さらに、熱を加えると木はその形のまま固めることが出来るのです。
金山公三さんは偶然発見したこの現象を技術として確立。流動成形技術の誕生でした。この金山公三さんの技術を使えば沢山の木片からおちょこを作ることも出来ます。
流動成形を生み出した金山公三さんですが、元々は木材ではなく金属加工の世界でその名を轟かせていました。転機となったのは20年前、上司から呼び出され「金属の次に来る最先端の素材を研究してくれないか」と相談されたのです。金属加工一筋だった金山公三さんは戸惑い悩みました。
その時、頭に浮かんだのが尊敬する大先輩の「資源というのは地中深くにだけあるのではない、人間の頭の中にこそある」という言葉でした。考え抜いた金山さんが辿り着いたのは最先端の素材とは真逆にも思える木材でした。
木を自由に成形できれば金属に代わる資源になると考えました。しかし、周りの目は冷ややかだったといいます。そんな中、金山公三さんを応援してくれたのは奈良県森林技術センターの伊藤貴文さん。伊藤さんの支援もあり、やがて金山さんは多くの研究者たちの協力を得られるようになりました。そして2012年、木材の常識を覆す流動成形の鍵となる技術が完成しました。
これまで研究してきた流動成形はプレス加工。これから本格的に木材を工業製品の材料にするには金属と同じように押し出したり引き伸ばしたり、細長く成形できる技術が必要不可欠です。そんな流動成形の次なるステージに建材メーカーが協力を申し出ました。
「夢の扉+」
この記事のコメント