神の数式2「超弦理論」~宇宙はなぜ生まれたのか~|NHKスペシャル

NHK総合テレビの「NHKスペシャル」神の数式2~宇宙はなぜ生まれたのか~が放送されました。去年ドイツで開かれた理論物理学の学会に世界中から天才たちが集まりました。理論物理学者というのは、その頭脳と数式だけでこの世の森羅万象を解き明かそうという人々。今挑んでいるのは、この宇宙はどこから来たのかという史上最大の謎、巨大な重力で全てを飲み込むブラックホール、光さえも出てこられないその憶測をもし数式で書き表せたら宇宙の全てを読み解けると言います。それはいわば神の数式。実は私たち人類はすでに神の数式に最も近いといわれる数式を手にしています。その一つが第1回で放送された「標準理論」です。ミクロの素粒子を完璧に表した数式です。もう一つは広大な宇宙を支配する重力の数式「一般相対性理論」です。この2つを進化させ一つに束ねることが出来れば、それこそが神の数式。アインシュタイン以来100年に渡る物理学者たちの見果てぬ夢でした。

 

アメリカ・コロラド州に物理学者たちの聖地ともいえるアスペン物理学センターがあります。ジョン・シュワルツは神の数式に最も近づいたとされる人物の一人です。シュワルツが生み出した新たな数式は「超弦理論(ちょうげんりろん)」と言います。これまでの常識ではミクロの点だとされてきた素粒子が震える弦のような存在だというのです。

 

137億年前、ビッグバンと呼ばれる爆発である1点から始まり膨張している宇宙。そして、その事実はある偉大な数式によって予言されていたと言います。20世紀が生んだ物理学の巨人アルバート・アインシュタイン。その名を歴史に刻んだ数式が一般相対性理論でした。巨大コンピューターもない時代に遠い宇宙の動きを正確に表すことに成功。宇宙誕生の謎を解き明かすと期待されました。一般相対性理論は重さやエネルギーがあると空間がゆがむというシンプルな式です。アインシュタインの理論では星の重さによって時空が歪み、その歪みにそって他の星が動いています。その時空の歪みは星が小さくて重いほど角度が急になり強い力が働くのです。アインシュタインはこの数式を使い「巨大な重力が存在するところでは光さえも曲がる」という大胆な予言をしました。つまり数式が正しければ大きな星の裏側に隠れて見えないはずの星の光が重力によって曲げられ見えるはずだというのです。そして予言は見事に的中しました。

 

宇宙誕生の謎を解き明かすと期待された一般相対性理論ですが思わぬ落とし穴が見つかりました。指摘したのはスティーブン・ホーキング。巨大な星が爆発した後に生まれ、強い重力で全てを飲み込むブラックホール。その最も深い部分こそがアインシュタインも見逃した盲点だったのです。アインシュタインの理論では小さくて重いほど空間の歪みが大きくなります。しかし、とてつもなく重く小さな点があったらどうでしょう。空間はある1点に向かって無限に沈み込んでいきます。これが理論上のブラックホール。ブラックホールを表す数式では奥底に近づく程、空間の歪みが大きくなります。ところがブラックホールの奥底では距離がゼロに。分母がゼロになると無限大になってしまいます。無限大は数式上、計算不能ということを意味します。つまり、一般相対性理論の数式はブラックホールの奥底では通用しないということなのです。

 

これまで数式が解き明かしてきたのはビッグバンから10の-43乗たった後からの世界です。137億年前に誕生したとされる宇宙。誕生のまさにその瞬間だけが人類に残された最後の謎なのです。そしてビッグバンの瞬間と数学上まったく同じとされるのがブラックホールの底。謎を解く唯一の鍵なのです。宇宙の全てを記した神の設計図に物理学者たちがたどり着くためには無限大の問題を解消しなくてはなりません。そこで物理学者たちに大胆な発想が生まれます。一般相対性理論に素粒子の数式を組み合わせてはどうかというものです。

 

一般相対性理論と素粒子の数式を合わせて神の数式を求めようとした物理学者がマトベイ・ブロンスタイン。ブロンスタインは貧しい家に生まれ独学で物理を勉強しました。一般相対性理論と素粒子の数式を19歳で完璧に理解していたと言います。ブロンスタインが挑もうとしたブラックホール。しかし、その奥底を計算する前に証明しなければならなかったのが、身の回りのミクロの空間で2つの数式がうまく融合するかということ。ブロンスタインは空間を素粒子よりもはるかに小さい超ミクロのサイズに区切って、そこに働く重力を計算。すると分母にゼロが表れてしまいました。計算不能を表す無限大。これが意味するのは、私たちの身の回りのものはミクロにみると不安定で無限大を生み出すブラックホールのようなものが満ち溢れているのではないかということ。無限大の問題を解くどころか、身の回りにも大量の無限大があふれているというさらなる難問を掘りこしてしまったブロンスタイン。1937年7月、ブロンスタインはソ連の秘密警察に逮捕されてしまいました。すぐに銃殺され森に埋められました。

 

ブロンスタイン亡き後、半世紀に渡って神の数式への挑戦は続きました。神の数式への挑戦が大きな転機を迎えたのは1974年。無限大の謎を解く数式を見つけたとうたった論文が登場したのです。論文を書いたのはジョン・シュワルツ。ジョン・シュワルツとジョエル・シャークは誰も見向きもしなかった時代遅れの分野「弦理論」を研究していました。例えば物質の最小単位である素粒子。弦理論では粒子は点ではなく様々な形をした震える弦のようなものだと言います。この一風変わったアイディアは見捨てられた古い物理学の数式を元にしています。そうした中、2人は弦理論を進化させ超弦理論を提唱。その数式が無限大の問題を解決することになりました。ミクロの世界で飛び交う粒子同士の間の力は粒子の間の距離(r)2乗分の1と表すことが出来ます。粒子が点だとすると互いにぶつかった瞬間、距離rはゼロになります。つまり無限大が表れるのは粒子同士の衝突の瞬間だったのです。しかし、超弦理論では粒子を点ではなく輪ゴムのような形の弦だと考えていました。輪ゴムのような形だとすれば広がりがあります。そのため、粒子同士がぶつかっても、その輪の大きさ以下にはつぶれないのです。衝突しても距離rはゼロにはならず無限大はでなかったのです。超弦理論は半世紀近く物理学者たちを悩ませてきた無限大の問題を解消しました。そして宇宙誕生の謎にせまる可能性を開いたのです。

 

しかし、物理学者の主流派の学者たちは超弦理論に目もくれませんでした。超弦理論の数式を成り立たせる条件が現実ではありえないものだったからです。私たちの世界は縦、横、高さの3次元に時間を加えた4次元の世界だと考えられてきました。しかし、超弦理論の数式が成り立つのはこの世界が10次元の時だけだったのです。異次元の存在に多くの物理学者たちも耳を疑いました。超弦理論が認められない中、重い糖尿病を患い故郷フランスへ戻ったシャーク。シャークは何かにとりつかれたかのように異次元の研究に没頭していったと言います。次第に仏教の世界に傾倒し瞑想にふけるようになっていきました。そしてシャークは34歳の時、糖尿病の治療薬を大量に注射して亡くなりました。

 

シャークが亡くなった後もシュワルツは超弦理論の研究を続けました。最初の論文の発表から10年後、超弦理論に大きな転機が起こりました。イギリスのマイケル・グリーンが研究に加わったのです。シュワルツとグリーンは異次元の問題について、そもそもこの世が4次元でなければならないという証明はないため、数式が10次元と示しているのだから自分たちの常識の方が間違っているのかもしれないと考えるようになりました。そして2人は超弦理論の数式に一般相対性理論と素粒子の数式が含まれているかを検証しました。複雑な計算をすすめると全く無関係に見える2つの数式が導かれ始めました。そして数式に矛盾が生じていないか最後の計算をしている時、496という数字が数式に次々表れました。496は完全数の一つで古代ギリシャ時代、天地創造と関係があるとあがめられていた数字です。その数が一斉に表れたということは数式の中で広大な宇宙とミクロの世界が美しく調和しているということを意味していたのです。そして超弦理論から一般相対性理論と素粒子の数式が矛盾なく導き出されました。シュワルツとグリーンの計算の結果は瞬く間に世界中に伝わりました。そして世界中の物理学者たちが超弦理論の研究を始めました。超弦理論は物理学の最前線に躍り出たのです。

 

ジョセフ・ポルチンスキーは超弦理論をさらに進化させることに成功。超弦理論といえば小さな振るえる弦のような粒子が飛び交うミクロの世界。ポルチンスキーはコインランドリーで洋服が細い糸が沢山集まって出来ているのをみて、ミクロの世界でも粒子である弦は一つ一つではなくまとまっているのではないかと思いつきました。数式から導き出されたのは弦が一つ一つではなく膨大な数が集まって膜のように動いている現象。ポルチンスキーの発見をうけて世界中でブラックホールの熱について計算が行われました。そして膜の数式を新たに加えたことで超弦理論はブラックホールの熱を計算することに成功しました。




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