寄生生物が世界を変える! 寄生虫で難病を治す!?トキソプラズマでがん治療!?|サイエンスZERO

生きるために特殊な能力を獲得した寄生生物。その一つから意外な効果の物質が発見されました。見つけたのは筑波大学生命環境学教授の繁森英幸(しげもりひでゆき)さんです。

 

寄生生物でアルツハイマー病を予防!?

ヤセウツボは葉緑素を持たないため光合成ができません。代わりに他の植物の根に寄生し、水分や栄養分などを吸収して成長します。一方、寄生された植物は弱っていってしまいます。

 

繁森教授はヤセウツボに寄生するからこそ持つ独自の物質があるに違いないと考えました。ヤセウツボをエタノールに入れて抽出し分離・精製。すると、フェニルエタノイド配糖体という化合物を多く取り出せることが分かりました。これはアルツハイマー病に効果があるという物質です。

 

アルツハイマー病は脳内にあるアミロイドβが集まってきて蓄積。周囲の細胞を死滅させます。アミロイドβは集まると繊維状になります。しかし、フェニルエタノイド配糖体を添加するとアミロイドベータは繊維状になりません。このことからアルツハイマー病の予防に繋がると考えられるのです。

忌み嫌われている寄生植物から何か有用な物質が取り出せることができるのであれば、新たな面で注目できるのかなと。そういう作用が見つかった時には非常に感動しました。

(繁森英幸教授)

失明の危機を救った

当時、アフリカでは20歳を過ぎる頃から視力が低下し、失明にいたる風土病が蔓延していました。原因は寄生虫ミクロフィラリアです。ブヨが人に幼虫を産み付け、それが人の目の中に侵入すると失明に繋がるのです。

 

この病気の根絶に挑んだのがノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智(おおむらさとし)さん。寄生虫を生物の力で退治しようと考えました。

 

元になったのは大村さんが集めた5万本にも及ぶ土壌のサンプル。この中から薬に使えそうな微生物を探すという地道な研究を続けました。

 

そして、静岡県のゴルフ場の土壌から新種の菌ストレプトマイセス・アベルメクチニウスを発見。この菌からイベルメクチンという治療薬を開発。この研究によって世界中で年間3億人が失明の恐怖から救われたと言われています。

 

発想の転換!寄生虫で難病を治す

寄生虫の特殊な能力を人間の医療に活用できないかと考えているのが、タフツ大学医学部のジョエル・ワインストック教授です。

 

私は何年も潰瘍性大腸炎やクローン病の研究を行ってきました。昔はアメリカやヨーロッパでも非常にまれな病気だったのですが、徐々に増えてきたのです。これはなぜか?原因を突き止めようと考えました。

(ジョエル・ワインストック教授)

 

これらは腸や消化管が炎症を起こす病気で自己免疫疾患と呼ばれています。本来なら、異物を認識し排除するための免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織に対して過剰に反応し攻撃を加えてしまうという病気です。

 

ワインストック教授はあることに気づきました。患者の数がアメリカやヨーロッパで多く、発展途上国では非常に少なかったのです。上下水道が整備されていない途上国では、人々の体内に様々な寄生虫が入り込んでいました。

 

そして、一年以上かけて様々な寄生虫を調べ見つけたのが豚べん虫です。豚べん虫は豚やイノシシには下痢などの症状を起こさせますが、人間にはほとんど害がありません。

 

ワインストック教授は、豚べん虫の卵を大腸炎の患者に服用させる臨床試験を行いました。すると、29人のうち約80%の患者で炎症が緩和。体内に残った豚べん虫も2週間ほどで体の外へ排出されます。

 

非常に驚きました。これは寄生虫を人間に使った初めての研究でしたから。とても良い結果だったので、この治療に自信を持てるようになりました。寄生虫の存在は悪で、我々を病気にすると考えられています。しかし、そのうちのいくつかは我々を健康にしてくれます。私たちは寄生虫と共生していくべきなのです。

(ワインストック教授)

 

寄生虫でがん治療

ダートマス大学医学部のデビッド・ブジーク教授は、トキソプラズマでがんを治療しようと考えています。

 

私たちはトキソプラズマを用いて卵巣がんやすい臓がんなど、いくつかの種類のがんの治療に取り組んでいます。

(デビッド・ブジーク教授)

 

トキソプラズマは、まず樹状細胞に優先的に侵入します。そして、タンパク質を分泌して機能を調整。すると、がん細胞を攻撃するT細胞が活性化することが分かりました。

 

ブジーク教授はトキソプラズマのこの性質を利用し、活性化したT細胞にがん細胞を攻撃させがんを治療しようと考えたのです。

 

しかし、トキソプラズマは免疫力が落ちている患者の体内では増殖する恐れがあります。そこで、ブジーク教授は遺伝子を改良し、体内で増殖しないトキソプラズマのワクチンを開発。このワクチンを卵巣がんのマウスに投与したところが、がんの増殖を抑えることに成功。1カ月後にはほとんどの腫瘍がなくなりました。

 

現在は安全制のテストを行っていて、3年後には人間による臨床試験を目指しています。

 

トキソプラズマは地球上に人類が誕生した時から共に進化してきました。トキソプラズマは人間よりも人の細胞の働きを熟知しています。寄生虫の生物学を理解することは新しい治療法を生み出すことにつながるのです。

(デビッド・ブジーク教授)

 

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