全く新しいコンセプトの自動車が来年登場します。使われるのはタフポリマー。
実は日本でこれまでの常識を覆すタフなポリマーが開発されたのです。
誕生!タフポリマー
タフポリマーの生みの親の一人が、東京大学大学院 新領域創成科学研究科の伊藤耕三(いとうこうぞう)教授です。伊藤さんはポリマーがどのように壊れるのか、その仕組みなどを調べていました。
ポリマーの構造を詳しく調べると、様々な長さの分子が複雑に絡み合っていました。これを押しつぶすと力が集中するところができ、そこで分子がちぎれます。力が集中する場所は連鎖するように広がり、一瞬で壊れてしまうのです。
強いポリマーを作るには、力が一点に集中するのを防げば良いことは分かっていましたが、その方法がなかなか見つかりませんでした。
そんな時、伊藤さんは中国で行われた学会から帰る飛行機で、一人の研究者と運命的な出会いを果たしました。それは大阪大学大学院 理学研究科の原田明(はらだあきら)特任教授でした。原田さんは、世界で初めてポリロタキサンという分子の合成に成功し、当時世界中から注目を集めていました。
伊藤さんは原田さんに教えてもらって、まずはポリロタキサンを作ってみることにしました。材料はシクロデキストリンとポリエチレングリコールです。どちらもありふれた物質です。これを水に溶かし混ぜます。たったこれだけでポリロタキサンができるというのです。
シクロデキストリンの輪は外側に水となじむ性質があり、内側は水となじみません。一方、ポリエチレングリコールも水と馴染まない部分があります。そのため、同じく水に馴染まないシクロデキストリンの輪の内側に入ろうとするのです。しかし、このままでは輪が抜けてしまうので両端をとめる必要があります。
そこで、アダマンタンという物質を使いました。大きな分子なのでアダマンタンを軸の両端につけて輪が抜けないようにするのです。これでポリロタキサンが完成。輪と軸が結合していないため、輪は軸の間を自由に動くことができます。
これを使って誕生したのがタフポリマーです。従来のポリマーより100倍以上の強さを誇ります。
タフポリマーの固体化に挑戦!
ゲル状のタフポリマーは、ポリロタキサンが水分子の中にある構造になっています。固体にするには、この水分子を取り除き何かで埋めなければなりません。
伊藤さんは、輪の部分に毛のような分子をつけて空間を埋めれば、水を取り除ける上にポリロタキサンの動きも妨げないと考えました。そのために使ったのが、イプシロンーカプロラクトンです。
ポリロタキサンに混ぜると輪の部分に結合していきます。すると、水がなくても空間が埋まります。こうして、ゲルより硬い固体のポリマーができるのです。
タイヤもタフに!ゴムづくりに挑む
強くて薄いタイヤを作ろうと研究しているのがタイヤメーカー中央研究所の角田克彦(つのだかつひこ)フェローです。角田さんが目指しているのは簡単にはちぎれない強いゴムを使ったタイヤです。そのために、まずは標準的なゴムがどのように千切れるのか徹底的に調べました。
標準的なゴムにハサミで切れ目を入れ、一定の速さで引っ張ると、引っ張る力が約30kgになったとき一気に裂けました。角田さんは、この時の亀裂の形に注目しました。持ちこたえている時の亀裂の先端は丸くなっています。一方、スピードが速くなる瞬間は先端が尖っています。一点に力が集中することで、裂けるスピードが一気に速くなっていたのです。
角田さんは、タイヤの原材料や加工方法を見直し亀裂の先端がとがらないようなゴムの開発を進めました。そうして出来たのが、新素材を使ったタフなゴムです。
タフなゴムは引っ張っていっても亀裂が進んでいきません。先端部分も全く尖っていませんでいた。測定の結果、250kgの力で引っ張っても耐えられることが分かりました。
角田さんは、タフなゴムと標準的なゴムをそれぞれベルト状にして重機にはかせて悪路などを走らせる耐久試験を行いました。標準的なゴムは細かくちぎれた部分が沢山みえますが、タフなゴムはあまりちぎれていませんでした。詳しく調べたところ、タフなゴムはすりきれる割合が40%に抑えられることが分かったのです。
「サイエンスZERO」
自動車までできる すごいぞ!タフポリマー
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