日本の研究者が執念を燃やし、30年かけて全く新しい電池を開発しました。それが全固体電池。リチウムイオン電池の3倍もの電気を溜められ、高温でも使え、充電時間を3分の1にまで縮められるのではないかという夢の電池です。
リチウムイオン電池の仕組み
+極と-極に挟まれて存在するのが電解質。この部分には液体が使われています。電球を繋ぐと-極にあるリチウムが電子とリチウムイオンに分かれ、電子が回路を通ることで電気が流れます。同時にリチウムイオンが液体の電解質を通って再び+極で合流します。
さらに、充電器を繋ぐと逆の反応が起こり充電もできるのがリチウムイオン電池の画期的なところです。
ただし、問題もあります。1つは漏れてしまうこと。それを防ぐため丈夫な箱やセパレーターが必要になり、電池自体の大きさが大きくなってしまいます。さらに、液体に中には色々なものも溶け込んでいるので、高温になると化学反応を起こして余計な物質が電極についてしまいます。すると、リチウムイオンが移動しづらくなり劣化にもつながります。
それが固体になると
この液体が全て固体になると、リチウムイオン以外は移動できなくなり、熱があっても影響が出なくなります。
開発に30年 全固体電池
全固体電池を開発したのは東京工業大学 科学技術創成研究院の菅野了次(かんのりょうじ)教授です。30年以上に渡って電解質となれる固体を探し続けてきました。
実は、菅野さんが全固体電池の研究を始めて10年した頃、リチウムイオン電池が実用化されました。開発者の一人、吉野彰さんは日本国際賞を受賞。今やノーベル賞候補の一人にも挙げられています。
そんな中、菅野さんは全固体電池さんは全固体電池にこだわって研究を続け実用化の一歩手前まできました。その背景には3つのブレークスルーがありました。
①固体電解質の発見
リチウムイオンを動かすためにどうしても必要な電解質。これが液体であれば塩が水に溶けるようにリチウムイオンも簡単に動くことができます。
しかし、これが固体となるとほとんど反応を起こさないためイオンが全く動きません。何とかしてイオンを通すことができる特殊な物質を作り出さなくてはならないのです。
候補となる材料は山ほどあります。菅野さんは30年もの間、材料を手探りで配合し続けてきました。材料と分量を少しずつ変えて、作った電池は1000種類以上。
そして、ついに2011年、固体の電解質を見つけたのです。リチウムとゲルマニウム、リン、硫黄を組み合わせたものでした。
実用化に向けての課題
ゲルマニウムは価格の高い元素なので、これを使いやすい元素に置き換えるのが次の課題でした。
②ゲルマニウムを使わない固体電解質
注目したのが周期表の周りあるシリコン、ガリウム、ヒ素、スズです。近くにある元素は近い性質を持っているからです。
そこで、これらの元素を使って固体電解質を作る研究を進めました。しかし、ゲルマニウムを他の元素に置き換えるとイオンの導電率が半分以下になってしまうこともありました。なかなかうまくいかない中で、研究員が不思議なことにことに気が付きました。
塩化リチウムを使った時にイオン導電率が少し良くなるように思えたのです。塩化リチウムは塩素とリチウムの化合物です。この塩素は電池にとって不純物でしかないため注目していませんでした。しかし、ゲルマニウムの代わりにシリコンを使い、ほんの少し塩素を添加したしたところ、それまでの性能をしのぐ固体電解質が2016年にできたのです。
そして、電池の性能を調べるとゲルマニウム入りのものの3倍もの電気を流すことができたのです。
界面の問題
イオンの動きが素晴らしい固体電解質ができたものの、それを使って電池を作ると思ったほど電気が流れませんでした。
③界面の問題解決
物質・材料研究機構の高田和典(たかだかずのり)拠点長は、固体電解質が硫黄が含まれている硫化物であることが問題ではないかと考えました。
+極に使われているのはコバルト酸リチウムという酸化物。一方、固体電解質は硫黄が含まれた硫化物です。これをくっつけると酸化物の方がイオンを引きつける力が強いため、もともと固体電解質にあった界面のリチウムイオンを引き抜いてしまいます。すると、空間ができて不均一になります。これがイオンにとっての壁になってしまうと考えたのです。
そこで高田さんは+極と固体電解質の間にイオンが引き抜かれるのを防ぐチタン酸リチウムの膜を入れることにしました。膜がない場合、出力は200W程度でしたが、膜をつけただけで600W、3倍以上になりました。
「サイエンスZERO」
1分で充電完了!?
誕生!夢の全固体電池
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