マネーワールド ~資本主義の未来~ 第3集「借金に潰される!?」|NHKスペシャル

今、世界を膨大な借金が覆いつくそうとしています。各国で発行された通貨は、金融機関を通じて個人や企業、そして政府に貸し出され空前の規模の借金になっているのです。IMFが発表した世界の借金の総額は過去最多となる164兆ドル。資本主義のシステムに大きな危機が迫っていると警鐘を鳴らしました。

 

今、世界各国の政府が借金で追い詰められています。これまで借金をエネルギーに成長を続けてきた資本主義。手元の資金が少なくても借金で経済活動を増やし成長を勝ち取ってきました。しかし、その借金が逆に成長の足枷となっているのです。

 

借金は成長のエネルギー!?

例えば、農家がリンゴをお客さんに売って儲ける場合、利益を大きくしたいと思っても儲けがなかなか増えません。そこで農家は銀行からお金を借りて、苗木を買い収穫量を増やしました。すると、売ったお金で借金を返し利益も増やすことができます。

 

これをみんなが繰り返し行っていけば、社会全体の利益が大きくなる。これが経済成長です。借金は資本主義にとっていわば成長のエネルギーなのです。

 

資本主義の限界!?膨らむ個人の借金

歴史上類を見ない程に増え続けている世界の借金。そのうち約3割の5500兆円が個人の抱える借金です。中でも個人の借金が大きな社会問題となっている国の一つがアメリカです。

 

現在、学生ローンの返済が滞っている人の数は690万人にもなっていると言います。これまでアメリカの力強い消費を牽引してきた個人のローン・借金。自動車や住宅をローンで購入することで市場が拡大。経済成長を促してきました。しかし、今こうした経済の循環が成り立たなくなっています。

 

学生ローンの総額はこの15年で7倍に増加。逆に29歳以下の若者の消費は年々下がり続けています。限界を超える借金を背負った若者が急増した結果、消費が冷え込み景気を悪化させているというのです。

 

私たちの分析では、個人の借金が増えすぎると経済全体が衰退し失業が大幅に増加することが分かってきました。個人の借金が3,4年の間に大幅に増えた国ではその後金融危機が起き大不況に陥ることが分かってきたのです。

(シカゴ大学経営大学院教授アミール・サフィ)

 

こうした個人の借金の急激な膨張が世界中で起こっています。中でも深刻な状況にあるのが韓国です。

 

資本主義の禁じ手「借金帳消し」

2000年代以降増え続ける韓国の多重債務者は380万人。人口の1割程に達しています。若者の失業率は10%にのぼり、自殺に追い込まれる人も数多くいます。こうした中、韓国政府は資本主義の常識を覆すような驚くべき政策をうちだしました。

 

何と、個人の借金を政府が帳消しにするというのです。対象となるのは10年以上借金を返済できていない人。政府はお金を貸した金融機関から返済を求める権利を安く買い取ります。そして、個人が抱えている借金を条件に応じて減額、あるいは帳消しにします。

 

人々を借金から解放して再び消費の場に戻し経済成長につなげようという狙い。この政策が始まると政府の窓口には申請者が次々と訪れました。残っている財産はないかなど1ヶ月近くかけて厳しい審査が行われます。

 

今は日雇いです。建設現場や農園の仕事で生活しています。日雇いだけでは食べるだけで精一杯です。私の意志だけではどうしようもないです。

(借金の帳消しを申請したイ・ヒョンウ)

 

イ・ヒョンウさんは、かつて故郷で食堂を営んでいました。経営が悪化したのはアジア通貨危機の後の不況で客足が激減したためでした。

 

当時、韓国政府は経済成長を促そうと国民にクレジットカードでの買い物を勧めカードローンの利用を呼びかけました。

 

あの頃はとにかく金融業者たちが街でチラシを配ったり、その場でお金を貸してくれたりしました。

(イ・ヒョンウ)

 

しかし、経済が持ち直すことはなく多くの人が返済できない借金を抱えることになりました。イ・ヒョンウさんも、銀行やカード会社3社から借りた総額700万円を返済できなくなったのです。

 

イ・ヒョンウさんは借金の9割が免除されることになりました。

 

染みついた汚れが落ちた感じです。すっきりしています。気分上々!

(イ・ヒョンウ)

 

借金の重荷から解放されたイ・ヒョンウさん。早速、政府の思惑通り消費にいそしむことになりました。いわば禁じ手とも言うべき手段に踏み込んだ韓国政府。借金帳消しの対象を119万人まで広げる予定です。

 

通貨がジャブジャブに!?資本主義の歴史的転換

「お金が供給されれば経済はそれを上回る成長をする」

高度経済成長期の日本がまさにそうでした。借金をして設備投資やインフラ建設に邁進。新たな生産や消費が生まれ企業も国も個人も経済成長を謳歌していました。

 

ところが1971年、そのサイクルに転機が訪れました。ニクソンショックです。

 

それまで、各国の政府が発行するお金には実際に存在する金の裏付けが必要で、発行できるお金の量には制限がありました。しかし、この制限が撤廃され自由に通貨を発行できるようになったのです。

 

70年代以降、新たな成長を呼び込もうと通過の供給量が劇的に増やされていきました。80年代になると、日本では余ったお金が不動産市場に流れ込み急激なバブルとその崩壊をもたらしました。

 

90年代、世界はそれでも成長を求め通貨の供給量を増やし続けました。そのお金はアジアなどの新興国市場へ流れ経済を成長させますが、ここでもバブルが崩壊

 

そして2008年のリーマンショック。100年に一度とも言われたこの危機に対し、冷え込んだ経済を立て直そうとまたもや世界中で空前の量の通貨供給が行われました。しかし、その狙いほどの成長が起きていない中、あり余ったお金は世界中の個人、企業、政府へと貸し付けられ膨大な借金となっているのです。

 

資本主義の限界!?膨らむ政府・企業の借金

今、世界各地で借金に追い詰められる政府が続出しています。プエルトリコでは政府の借金が膨らみ財政が破綻の危機に。小学校が閉鎖されることに住民が抗議しています。

 

観光やアメリカとの貿易を主な収入源としてきたプエルトリコ。リーマンショック後、深刻な景気後退に陥りました。景気を回復させようと政府が海外の金融機関などから借り入れたお金は年間予算の8倍にあたる700億ドル。しかし、景気は回復せず残った借金の返済のため、教育や医療など公共サービスを大幅に削減。住民の不安と怒りは頂点に達しています。

 

お金を貸した人たちは利子をつけて回収することしか考えていません。このような状況になってしまい貧しい人から(公共サービスを)さらに取り上げないといけないなんて最悪です。

(プエルトリコ ヤブコア市長ラファエル・スリージョ)

 

こうした事態は世界各国で起きています。積み上がる国家の借金は世界で総額6000兆円にものぼり、過去最悪の水準です。

 

特にヨーロッパでは過剰な借金がもとで政府の財政が危機的になる事態が相次いでいます。2009年、ギリシャでは追い詰められた政府が年金カットや公務員削減を強行。国民の猛反発と社会の混乱をもたらしました。

 

財政不安はポルトガルやスペイン、アイルランドなどヨーロッパ各国に波及。イタリアでは借金の返済をめぐって国が二分されました。

 

借金だけが増え経済が低迷を続ける現実…

 

今の資本主義は借金が増えていくことが前提になっています。しかし、その返済のために常に前の年よりも成長しなければいけないなんて持続不可能です。

(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授デヴィッド・グレーバー)

 

政府だけではありません。企業の借金も深刻です。

 

今、企業の借金が世界で最も多くなっているのが中国です。中国では高い経済成長を維持するため国が大量の通貨を供給。その多くが借金として中国企業に貸し出されました。総額2000兆円。世界中の企業が抱える借金の3割を超えます。

 

しかし、過剰な設備投資やインフラ建設が多く、返せる見込みのない借金が増え続け、今後世界経済を揺るがすと危惧されています。

 

無限に借金を作りだせば、この世界のシステムは崩壊します。信じられないような苦しみを世の中に与え、この世界を破滅へと導こうとしているのです。

(デヴィッド・グレーバー教授)

 

世界でダブつくお金 成長市場で何が?

借り手を求めて世界にあふれ出た大量のお金。今、成長を見込める市場としてアジアに流れ込んでいます。

 

この10年で70%の経済成長をとげたタイ。平均収入はその間に1.7倍に増加。ローンを組んで買い物をする若い世代が急速に増えています。

 

旺盛な消費を牽引しているのは消費者金融です。中でも日本から進出した消費者金融はタイのシェアの4割を占めています。カードローンの普及は景気を下支えする一方で、深刻な社会問題を引き起こしています。

 

タイの上限金利は28%。今、7人に1人が返済困難に陥っています。しかし、貸し倒れが起きても高い利息で回収できるためビジネスとして成り立つと言います。

 

彼らは返済能力を重視していませんから、抱えている負債額など気にしません。パーソナルローン(消費者金融)の金利は28%、クレジットカードは20%の高い金利です。

(タイの弁護士デーチャー・キティウイッタヤナン)

 

ダブつくお金は借り手を求めてさらに奥へ。未だ市場すら整っていないアジアの辺境にまで及んでいました。

 

ミャンマーのミャアウン村、住民は自給自足の生活を続けています。村の集会所に集落の女性ほぼ全員が集められていました。住民を集めたのはタイに本社がある外資系金融機関のスタッフ。借金を返済させるために毎週集会を開くと言います。

 

私たちの返済のシステムはどんなもの?グループローンでしょ?お金を返せなければどうする?連帯責任で返します。

(外資系金融業者)

 

担保を取らない代わりに借り手はグループを組み、仲間が連帯責任で返済する決まりです。こうした仕組みはNGOが貧困対策として始めましたが、最近は外資系金融機関が次々と参入。把握できただけで日本を含め10カ国、41の企業や団体に及びます。

 

旦那が捕まえたネズミをさばいて売っているの。

(集会に来ていたス・ミャモン)

 

1日の平均収入は1000チャット(70円)田畑も持たないスさん一家が借金をしたのはバイクを買うためでした。収入のほぼ1年分30万チャット(約2万1000円)を借金してバイクを買ったのは、5キロ先の町で1匹20円程のネズミを売るためだったと言います。

 

毎週7000チャット(500円)返済しているの。(1週間で7000チャット稼げるの?)稼げるわけないでしょ。

(ス・ミャモン)

 

スさんは返済のためにさらに借金を重ね、外資系の金融機関3社へ多額の利息を支払い続けることになってしまいました。

 

この会社からは30万チャット(2100円)を借りました。金利、そのようなことは書いていないと思います。1週間に7000チャット返すとしか聞いていません。

(ス・ミャモン)

 

金利は30%と書いてありました。

 

低金利と言われましたが、意味は分かりません。

(ス・ミャモン)

 

借金を背負って買ったバイクでしたが雨期が長くあまり使っていないと言います。

 

明日はまた返済日ですが5000チャット(350円)しかありません。足りない分は村中をまわって借りないといけません。

(ス・ミャモン)

 

新たな経済への模索 「身の丈」資本主義

マレーシア首相のマハティール・ビン・モハマド(93歳)が15年ぶりに首相の座に復帰したのは、国が抱える膨大な借金への危機感からでした。

 

(膨大な借金を抱えた)国を再建しないといけません。今まで政府はないに等しい状態でした。

(マハティール・ビン・モハマド首相)

 

前政権は中国から融資を受け、国土を縦断する高速鉄道建設の契約を交わしていました。マレーシアの経済成長を促す狙いでしたが、利息を含めた支払い総額は2兆5000億円にのぼるとされています。

 

首相は身の丈を超える借金は国を危うくすると、この契約の白紙撤回を宣言しました。かつて日本をモデルに国の経済成長に尽くしたマハティール首相。今度は過度な借金に依存する成長ではない新たな経済モデルを掲げようとしています。

 

借金を抱えすぎて返済ができなくなってしまうとトラブルが起きやがて崩壊を招いてしまいます。一方、もしお金を身の丈にあった範囲で上手に使えば、無理をすることなく幸せになれるのです。

(マハティール・ビン・モハマド首相)

 

イスラム金融

この身の丈の資本主義を実現するために首相が国策として力を入れているのがイスラム金融です。その基本理念は過度な成長を求めた無理な貸し出しはしないことです。

 

イスラム金融では貸し手が借り手から利子を取りません。事業がうまくいかなくても借金を取り立てず、一緒に解決策を考えます。その代わり事業が成功した時に利益の一部を手数料として受け取ります。

 

スヒミ・ハシムさんは15年前、勤めていた家電メーカーから独立。電子基板を作る会社を起業しました。しかし、4年前に売り上げが激減。この時、イスラム金融はすぐに返済を求めず親身になって事業計画の見直しに知恵を出してくれたと言います。

 

イスラム金融では資金繰りが難しくなった場合に、返済額を減らしたり期限を遅らせてくれるんです。私たちは銀行を信頼し、銀行も私たちを信頼する。心地よい関係です。

(スヒミ・ハシム)

 

2017年、イスラム金融で融資を受けた貸出先の倒産割合はわずか1%です。

 

「NHKスペシャル」
マネーワールド
―資本主義の未来―
第3集「借金に潰される!?」

マネーワールド 資本主義の未来第1集「お金が消える!?」
第2集「仕事がなくなる!?」
第3集「借金に潰される!?」

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