今、ミクロの世界が新たなステージへ進もうとしています。顕微鏡では、これまで小さなものを見るのと引き換えに視野の広さを諦めざるおえませんでした。ところが、ここ数年で革新的に性能が上がった撮像センサーが問題を見事に克服。謎に満ちた生命現象を広範囲にわたって観察できるようになりました。
一方、顕微鏡でも見ることが難しい超ミクロの世界に驚きのアイディアで挑戦する研究チームがいます。観察が不可能だった脳神経のナノサイズの構造を詳細にとらえることに成功しました。
驚きの顕微鏡映像!生体イメージング
自治医科大学の西村智(にしむらさとし)教授は、血液や血管、リンパなどについて独自の方法で研究しています。研究に用いるのは、生きた体内を細胞レベルで観察する生体イメージングです。
生体イメージングを用いて数々の驚きの映像を撮影してきた西村教授ですが、どうしても超えたい壁がありました。それは、従来の顕微鏡では避けることができない視野の狭さです。生命の営みを観察する生体イメージングでもどかしさが募っていました。
小さいものを見ようと拡大するほど観察できる範囲が狭くなる、顕微鏡の宿命とも言えるこの壁をどうしたら超えられるのか、西村教授は新しい顕微鏡システムを一から組むことを決意しました。これまで医療の現場や研究に従事してきた西村教授にとって全く違う分野への挑戦でした。
西村教授は革新的に性能を上げてきた撮像センサーに目を付けました。使うのは最大級の解像度を持つスーパーハイビジョン8Kカメラのセンサー。従来の顕微鏡の視野は狭く生体内で起こる現象の一部しか観察することができませんでしたが、8Kカメラの視野は従来の顕微鏡の約120倍。広視野で高精細な映像を撮影できます。広い視野が全体像をとらえ、なおかつ一部分を拡大したとしても研究観察に値する十分な情報を有しています。マクロとミクロをかねそなえたこれまでにない映像なのです。
驚きのアイデアで物理限界を超えろ!
アメリカ・マサチューセッツ工科大学メディアラボのエドワード・ボイデン教授は、物理限界に挑んでいます。ボイデン教授は脳神経について研究しています。
脳の中では数えきれないほど多くの神経細胞が複雑に絡み合い密集しています。小さな細胞にいたっては数ナノメートル。その大きさは回折限界よりも小さく一つ一つの神経細胞を見分け脳を詳細に解析することは困難を極めます。そこで、ボイデン教授たちが考えたアイディアは、小さくて見えないならば見るものを大きくしてしまえという奇想天外なものでした。ボイデン教授たちが編み出したのは膨張顕微鏡法です。
紙オムツに使われる吸水性ポリマー、ポリアクリル酸ナトリウムは高い吸水力を持ち水分を吸うことで元の数百倍にも膨らむ素材です。この特性をいかし観察したいものを大きく膨らませるのが膨張顕微鏡法です。
例えばマウスの脳を観察する場合、まず下処理を施します。サンプルの中に浸透させた吸水性ポリマーを脳神経のたんぱく質を結び付けます。そして、膨張しやすいようにたんぱく質を柔らかくする薬剤につけます。下処理が終わったサンプルを水を加えて膨張させます。元の4.5倍にも膨らみます。
ボイデン教授たちは日本の大手電機メーカーと協力し、顕微鏡で得たデータを繋ぎ合わせ巨大な3D画像を作ることに挑戦しています。
「サイエンスZERO」
ミクロの限界を超えろ!解き明かされる生命の神秘
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