ダチョウ 飛べない巨人|地球ドラマチック

NHK・Eテレの「地球ドラマチック」で飛べない巨人 ダチョウが放送されました。人類が登場するはるか以前からアフリカの砂漠を放浪してきた巨人、地球上でもっとも大きな鳥がダチョウです。鳥なのに飛べないという型破りな生態ですが、走る能力は抜群で時速70km以上のスピードで大地を駆け巡ります。脚は鳥類で最も長く、卵のサイズは最大。オスとメスの繁殖活動は華麗でありながら抜け目なく何ともユニークです。

 

すべては子孫を残すため

西アフリカの大西洋沿岸に位置するナミブ砂漠は5500万年以上前から地球上に存在する世界最古の砂漠です。砂漠の東の端は今、乾季のピークを迎えています。日中の気温は50℃を超えることもあります。南から吹く暑く乾いた風が大地をジリジリと焦がします。

ダチョウのオスには群れの全てのメスと交尾する権利があります。しかし、それにはメスを守り抜かなくてはなりません。鳥類で最も背が高く、最も重いオスのダチョウは大体約3メートル、体重は最大150kgにもなります。巨体を支える大きく力強い脚は1歩で8メートル以上進むことができます。指は2本で、長い方には10cmの尖ったかぎ爪があり、キック力は大人のオスライオンを倒せるほどです。多くの鳥と違い、ダチョウの耳は羽で覆われておらず鋭い聴覚があります。眼球の直径は5cmで、陸の動物で最大です。眼球を保護するための第三のまぶたがあり、砂が舞う砂漠でも視界を良好に保てます。メスを狙う相手に目を光らせるには欠かせません。

ダチョウは他の鳥のように囀ることはできません。そのかわり低い音を出して自分こそが縄張りのボスであると知らせます。ヨーロッパから来たハンターはダチョウの声をしばしばライオンの吠える声と聞き違いました。

オスは雨季に間に合うようにメスと交尾をしてヒナをかえさなくてはなりません。しかし、交尾はすんなりとはいきません。長ければ2週間かかることもあります。メスは羽を軽くばたつかせて追いかけっこを仕掛けます。砂漠のあちこちへとオスを誘いだして、オスのスピードと足技を試します。ダチョウの追いかけっこには意味があります。異性を射止めるためなのです。

ダチョウの卵のうち無事にヒナがかえるのは12%です。さらに、ヒナが1歳の誕生日まで生き残るのも同じくらいの確率です。ヒナが生き延びるためには雨が十分な食糧をもたらしてくれる雨季の間に生まれなくてはなりません。

 

カギは雨季の到来

カラハリ砂漠では、若いダチョウのカップルがナミブ砂漠のダチョウとは違う選択をしました。このカップルはもう何か月も前に繁殖のかけに出たのです。生後の1週間ちょっと経ったヒナたち。じきに雨季が来れば完璧なタイミングで生まれたことになります。雨が降れば周囲は新鮮な緑で覆われます。それまではわずかな草、種、昆虫で飢えをしのがなくてはなりません。この一帯にはダチョウの家族が数多く暮らしています。沢山のひなたちが食べ物を求めています。

 

カップルで巣を守る

ダチョウは安全な木の上に巣を作ることができません。そのため、地上で卵を用心深く温め続けるしかないのです。ダチョウは危険を察知すると頭を砂に突っ込むという古い言い伝えがあります。これは母親が敵に見つからないように頭と首を地面に近づける行動に由来するのかもしれません。巣にいる間は食べ物も水も暑さをしのぐ木陰もありません。新たな命を誕生させるのは骨の折れる仕事です。そのためメスとオスは交代で巣を守ります。夕方になるとオスが巣に戻り、夜の間はメスに代わって卵の世話をします。巣を離れた母親は水を探しに行きます。6週間にわたりメスとオスは卵とわが身の安全のために交代で巣を守り続けます。

日中は焼けつくような暑さの砂漠も日が落ちると凍える寒さにまで冷え込みます。オスが夜明けまで卵を見張る間、メスは可能な限り睡眠をとります。

 

生まれてはみたけれど

6週間後、卵からヒナがかえります。ヒナは42日間、卵の中に閉じ込められていましたが、生まれた時には今にも走り出しそうな勢いです。卵を割って出てくるのはヒナにとって最初の大仕事です。卵の殻は親が座っても割れないほどの厚みがあるからです。卵からかえったばかりのヒナは丸々と太り、体内は卵黄で満たされています。数日間は卵黄から栄養を摂取できますが、やがて食料を探すために別の場所へ移動しなくてはなりません。

子供たちは両親のそばで何とか草や種を口にできていますが、間もなく食べ物は底をついてしまいます。ヒナたちが地面を漁る間、両親は長い首を使って食べ物を得ます。ダチョウは鳥類で最も長い首の持ち主。高い木の上に届くだけではなく、脚を曲げずに地面に頭をつけることもできます。ダチョウは時にはトカゲや昆虫も食べます。

ダチョウには食べ物を噛み砕く歯がありません。歯の代わりに小石を利用します。飲み込んだ小石は胃の中の砂嚢という部分に入ります。砂嚢に溜まった小石で食べ物をすりつぶすのです。

 

華麗な羽の使い道

ナミブ砂漠ではダチョウたちが50℃を超える気温に耐えています。羽を逆立てて翼を広げ肌を外気にさらします。さらに、むき出しの首から熱を逃がします。ダチョウが生きていくために何より重要なものは羽です。日中の暑さが和らぐと羽を使った華麗なダンスショーが始まります。オスは求愛行動のダンスで自分がいかに魅力的かをメスにみせつけます。

19世紀のロンドンやパリではダチョウの羽が大流行しました。ダイヤや金に匹敵するほど価格か高騰し、社交やファッションの世界でもてはやされました。もともと羽はオスのダチョウが求愛行動をするための武器でした。数週間にわたりダンスによる求愛行動は毎日のように続きます。そして羽の魅力に惹きつけられた多くのメスと交尾を行います。

 

卵を守るための戦略

無事に交尾を終えたダチョウは巣作りの時期に入ります。せっせと巣を作るのはオスの役割です。長い脚を独特な形に折り曲げると自分の縄張りのあちこちに浅い穴を掘ります。交尾は複数のメスと行いますが、オスは1羽のメスのためだけに巣を作ります。メスは大切な卵を産む場所について明確な意思を持っています。ナミブ砂漠のダチョウはカラハリ砂漠のダチョウとは異なり、雨季の到来は遅いと予測しました。カラハリ砂漠ではすでにヒナが生まれていますが、ナミブ砂漠ではようやくメスが最初の卵を産もうとしています。

群れで最も強いメスは優位雌と呼ばれます。群れの中で順位の低いメスたちが優位雌の巣に卵を産むために集まります。最初に卵を産んだ優位雌は他のメスたちが産卵するのを認めるどころが促しているようにさえみえます。こうして優位雌の巣は時には20個以上の卵であふれかえります。優位雌のいっけん優しさに満ちた行動は何世紀にもわたり研究者の関心の的でした。そして近年、メスのダチョウが実は抜け目のない鳥であることが分かってきました。

卵の白い殻は砂漠の強烈な日光を反射し、中にいるヒナが茹らないように守ります。しかし、真っ白に輝く卵は弱点にもなります。遥か遠くにいる敵から簡単に見つかってしまうからです。メスは卵が狙われやすいことをよく認識しています。そこで優位雌はしたたかな手を打ちます。自分の産んだ卵だけを巣の真ん中に置くのです。メスは殻についた模様によって自分の卵を見分けることができます。

 

雨は間に合うのか?

カラハリ砂漠のヒナが卵からかえってから15日が経ちました。体内に蓄えられた卵黄はすでに底をついています。体が弱り疲れ果てたヒナたちは瀕死の状態です。日中は太陽が地面の水分を奪っていきます。ヒナは生きるため必死で枯れ葉をついばみます。ヒナたちに恵の雨は訪れません。夜が明ける頃には全てのヒナが息絶えてしまうのでしょう。

 

生き抜くために

ナミブ砂漠のダチョウは雨季の到来は遅くなると予測して、カラハリ砂漠のダチョウより数か月後に交尾を行いました。ヒナがかえるたび親鳥は卵の殻を食べます。カルシウムが豊富だからです。卵のニオイが敵に漏れるのを防ぐ意味もあります。小さなヒナが世界最大の鳥に成長するには長い時間がかかります。

子供のいない若いメスがヒナをいじめます。つつかれたヒナは死んでしまう危険があります。なぜ大人のメスがこのような行動をとるのか、なぜ親鳥が止めないのか詳しい理由は分かっていません。ヒナたちはすぐに学習し近づかなくなります。こうして生きる上での厳しい現実を学んでいくのです。しかし、楽しい授業もあります。砂浴びです。砂浴びで羽をふわふわに保ち、皮膚についた寄生虫を落とします。

ダチョウは捕食者から逃げるさい、飛ぶことができません。そのため最速のスプリンターになるための練習が欠かせません。

 

雨はすべての源

長く続いた乾季が終わり、ついに雨季がやってきました。雨は生き残るために欠かせないものです。どしゃぶりの雨が新鮮で豊富な食べ物をもたらします。乾ききった大地が生まれ変わりました。ヒナたちは砂漠の厳しい環境を耐え抜き生き延びてきました。生まれた時のヒナはわずか500gですが、半年後には体重は100倍に増え、背の高さは10倍に成長します。

 

遥か昔に地球に登場して以来、ダチョウはいくつもの困難に立ち向かってきました。灼熱の太陽、乾季の水不足、獰猛な捕食者たちの脅威、そして最大の難関は繁殖時期の選択です。ヒナが生きるか死ぬか、全ては交尾のタイミングにかかっています。交尾からヒナがかえるまでの期間は80日以上。カラハリ砂漠のダチョウは決断が早すぎたためにヒナは生き残ることができませんでした。一方、ナミブ砂漠のダチョウは雨季の到来を見事に当て、大きな褒美を得ました。それでも生まれたヒナたちはこれから待ち受ける多くの困難を一つずつ乗り越えていかなくてはなりません。

 

OSTRICH-A LIFE ON THE RUN
(オーストリア 2015年)


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