ゲノム編集|サイエンスZERO

NHK・Eテレの「サイエンスZERO」でシリーズ・ゲノム編集(1)が放送されました。ゲノムとは、すべての生物の細胞におさめられた膨大な遺伝情報。いわば生命の設計図です。それを自由自在に切り貼りできる驚異的な遺伝子操作技術がゲノム編集です。ゲノム編集によって、がんやエイズなど治療が難しい病気を遺伝子レベルで撃退できる可能性も見えてきています。

 

ゲノム編集で「新たな生物」が誕生!?

和歌山県白浜町で世界中が注目する驚くべき生物が誕生しました。ゲノム編集をしたマダイです。研究を行ったのは京都大学と近畿大学のチーム。同じ水槽、同じエサで育てているのに筋肉の量が2倍ほど違います。そもそも生物は筋肉が増えすぎてエネルギーを浪費しないよう筋肉の増加を抑える物質を持っています。それがミオスタチンというたんぱく質。ミオスタチンは生物のゲノムに含まれるある遺伝子の働きで作られています。ゲノム編集の技術でその遺伝子だけ切って働かなくするとミオスタチンは作られなくなります。こうした操作をタイの遺伝子で行った結果、驚くほどの筋肉がついたタイが誕生したのです。

アメリカでも同じような実験が行われています。肉牛のゲノムからミオスタチンを作る遺伝子を切って生まれた牛です。ゲノム編集が可能にしたのは肉付きを良くすることだけではありません。ゲノム編集である遺伝子を切って卵アレルギーを引き起こすたんぱく質ができないようにした鶏もいます。ゲノム編集は今や食料の未来を大きく変える新技術として熱い注目を集めています。

 

こうした品種改良はゲノム編集以前にもできました。それまでは放射線や紫外線、化学物質を使って遺伝子に変異を入れていました。しかし、従来の放射線を使う方法では、狙った遺伝子だけでなくたまたま放射線が当たった別の遺伝子も壊れて働かなくなってしまいました。さらに、大豆やトウモロコシで行われている遺伝子組み換えも細菌などを使って本来その生物にはない遺伝子をゲノムに入れ込んでいましたが、遺伝子がどこにいくつ入るかをコントロールするのは難しかったのです。ゲノム編集は狙った遺伝子をうまく改変し他にはあまり影響がなく良い品種を作れるのです。

 

ゲノム編集は受精卵にガラスの針を刺して液体を注入するだけです。1個の受精卵にゲノム編集をするのにかかる時間はたった2秒。注入しているのはクリスパーキャスナイン(CRISPR-Cas9)という物質です。その原点となる研究を行ったのは日本人研究者です。

 

日本人が発見!遺伝子を操る驚異の物質

九州大学農学部の石野良純(いしのよしずみ)教授こそ生命科学の歴史を変えたクリスパーを世界で最初に発見した人物です。その発見は今から30年前。石野さんが主に研究を行っていた場所が温泉。石野さんが調べていたのは温泉など100℃近い高温や強い酸性の環境に住む特殊な生物。それが古細菌と呼ばれる原始的な微生物です。古細菌の不思議を解き明かすため石野さんはゲノムを解析していました。そこで、たまたま見つけたのがある細菌が持つ不思議なゲノムの配列でした。460万個も並ぶATGCの4文字で表された遺伝情報の中に繰り返し現れる同じ配列を発見したのです。それが「TCCCCGC」少し開けて「GCGGGGA」というもの。この特徴的な繰り返しこそがクリスパーなのです。ATGCで表された遺伝情報をになう4種類の物質にはTとA、CとGがくっつき合う性質があります。クリスパーの配列の外側からTとA、CとGとどれもくっつき合う組み合わせになっています。つまりクリスパーは真ん中で折りたたまれればぴったりくっつくような配列になっているのです。クリスパーは何のために存在するのでしょうか?

その後の研究でクリスパーが古細菌の持つ原始的な免疫システムであることが発見されました。古細菌のゲノムにはクリスパーが飛び飛びに繰り返し組み込まれています。そこにウイルスが感染すると、ウイルスは自分の遺伝子を古細菌の中に入れ込みます。すると、異物を察知した古細菌はウイルス遺伝子の一部をクリスパーの間に取り込んでしまいます。その後、同じウイルスがまた感染しウイルス遺伝子が侵入すると古細菌はクリスパーとそこに取り込まれた過去のウイルスの遺伝情報をRNAという別の物質に取り込みます。そして、クリスパーの部分が折りたたまれてくっつきでっぱりのある物質になる動き回るのです。さらに、ハサミの働きをするCas(キャス)と呼ばれる酵素と合体。クリスパーキャスの誕生です。このクリスパーキャスはウイルス遺伝子を見つけるとそこにピタッと結合。でっぱり構造を目印にキャスのハサミがクリスパーがくっついたウイルス遺伝子をチョキンと破壊してしまいます。クリスパーキャスとは古細菌がウイルス感染から身を守るための免疫機能だと考えられるのです。

石野さんのクリスパーの発見は25年も経ってから思わぬ展開をむかえました。遺伝子組み換えの新しい技術を研究していたアメリカとフランスの研究グループがクリスパーに注目。折りたたまった構造の先についているウイルスの遺伝情報を遺伝子操作で切り取りたい遺伝子の情報につけかえると、ゲノムの中からその遺伝子を見つけてくっつきチョキンと切ってくれることを発見したのです。それからわずか数年のうちにクリスパーを使ったゲノム編集技術は世界中に広がりました。遺伝子操作に大革命をもたらす新技術は小さな古細菌の不思議な免疫機能から生み出されたものだったのです。

 

ゲノム編集が突きつける新たな問題

中国では今、1兆円もの予算を投じてゲノム編集の研究に本腰を入れています。中国におけるゲノム編集研究のパイオニアが広州 生物・医学研究所副所長の賴良学(らいりょうがく)教授です。賴さんは2014年に世界で初めて犬のゲノムを編集してミオスタチン遺伝子を切り取り筋肉を大幅に増強させて世界的な注目を浴びました。賴さんはその後、サルなどより人間に近い動物でもゲノム編集を実験的に行い成功させています。

2015年4月、ついに人間の受精卵でゲノム編集を行い病気の原因となる遺伝子を改変する実験に成功。ゲノム編集はどこまで許されるのでしょうか。


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