死者も目を覚ます!?レクイエム
「主よ、永遠の安息を与えたまえ」最初にそう歌われるヴェルディの「レクイエム」は、死者が神に召される情景から始まります。演奏が1時間30分にも及び、7つの曲で構成される大曲ですが、死者が安らかに天国に迎え入れられるよう神に祈りを捧げます。
そんな厳かなイメージを打ち破るのが第2曲「怒りの日」と呼ばれる部分です。恐怖におびえるようなコーラスの絶叫は、まるで人々が逃げ惑う様子をドラマチックに描くかのようです。一体何を表しているのでしょうか?
怒りの日で描かれるのはキリスト教の最後の審判。世界の最後の日、天から降りて来た神によって生前の行いが良かった者は天国に召され、行いの悪かった者は地獄へ落とされます。審判を下された者に一切の言い逃れは許されません。
この神の怒りに恐れおののく人間の姿をヴェルディは音楽で表現したのです。
死と向き合うことで見えたもの
ジョゼッペ・ヴェルディが60歳で発表した「レクイエム」の誕生には、2人の人物が強く関わっています。
当時、ヴェルディはイタリアを代表するオペラのヒットメーカーで、いかに多くの聴衆を喜ばせるかを心得、大衆受けのする作品を次々と世に送り出していました。
そんな一流のエンターテイナーであるヴェルディが尊敬していたのが、先輩作曲家であったロッシーニです。しかし、ヴェルディが55歳の時にロッシーニは死去。大きなショックを受けました。この深い悲しみをきっかけにヴェルディは「レクイエム」の構想を練り始めました。
さらに、イタリアを代表する詩人で作家のマンゾーニの死がヴェルディに追い打ちをかけました。幼い頃から読書家だったヴェルディはマンゾーニの誌や小説の大ファンで、その才能を心から尊敬していました。しかし、マンゾーニもヴェルディが59歳の時に死去しました。
何もかも終わりです。最も神聖で気高いものが終わってしまいました。
(ジョゼッペ・ヴェルディ)
偉大な人間でさえも避けることのできない死。その残酷さを受け止めざるおえなかったのです。葬儀から数日後、マンゾーニの墓を一人で訪ねたヴェルディは「レクイエム」を完成させ、彼にささげることを誓いました。
いつかどんなに偉大な知性もなくなってしまう。
(ジョゼッペ・ヴェルディ)
人間の無力さを音楽でいかに描くべきかヴェルディは考えぬきました。そして翌年、マンゾーニの一周忌で「レクイエム」を発表。人間の力では到底抗うことのできない人生のクライマックスを大迫力のオーケストラと合唱にたくしたのです。
「ららら♪クラシック」
ヴェルディ「レクイエム」
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