20世紀初頭、4000万人の命を奪ったとも言われているスペイン風邪。当時、謎だったこの感染症をインフルエンザだと解明した日本人が、世界的ウイルス学者の根路銘国昭(ねろめくにあき)さんです。
今も新たなワクチン開発に挑む根路銘国昭さんが倒すべき敵は、鶏の体に潜む新型インフルエンザウイルス(H5N1)です。新型インフルエンザウイルスはスペイン風邪をもしのぐ強い毒性を持つ怪物。感染すれば60%が死に至ります。
沖縄県名護市にある生物資源研究所が根路銘国昭さんの研究所です。保管庫には最新のインフルエンザから4000万人が犠牲となったスペイン風邪まで30種類のウイルスが冷凍保存されています。根路銘国昭さんの腕を見込んで世界中からウイルスの解析依頼が舞い込んでくるのです。
根路銘国昭さんが今闘っている敵は新型鳥インフルエンザ(H5N1)です。強い毒性を持つウイルスに対抗できるワクチンの開発に取り組んでいます。新型ウイルスが流行した場合、ワクチンを作るのに約6ヶ月かかると言われています。これでは恐るべきスピードで変異を繰り返すウイルスに対抗するには万全ではありません。いかに早く効果があるワクチンを作れるかが、世界中のウイルス学者が越えようとしている壁です。
根路銘国昭さんが全く新しいワクチン開発の第一歩に選んだのがインドネシア。鶏の体に潜む鳥インフルエンザはインドネシアで頻繁に発生。それが人間に感染し160人もの死者が出ています。殺人ウイルスにとってインドネシアはかっこうの住みかです。町のあちこちで鳥小屋があり、放し飼いで飼われる鶏も珍しくありません。こうしたニワトリたちが鳥インフルエンザの被害を拡大させたとも言われています。
例えワクチンが開発されても高価なため人々に浸透しにくいです。それならワクチンを安く大量に作ろうと根路銘国昭さんは考えました。
そこで今までのワクチン開発に必要だった鶏の卵の代わりに蚕を使おうと考えました。根路銘国昭さんが注目したのは蚕が産む卵の数。一匹で約300個もうみ、小スペースで沢山育てることが出来ます。鶏の卵が1個で数人のワクチンしか作れないのに対し、蚕なら1匹で数百人分を作ることも可能だと根路銘国昭さんは言います。根路銘国昭さんの取り組みに地元の研究者たちも期待を寄せています。
スピーディーなワクチン作りを阻むウイルスの毒性の強さも越えなくてはいけない壁です。根路銘国昭さんは生ウイルスを使わなくても遺伝子情報を使えばワクチンを開発できると考えています。
これまでは本物の新型ウイルスを注入しウイルス自体を培養することでワクチンを作るため多くの危険を伴いました。それに対し、根路銘国昭さんが行ったのはウイルスの遺伝子情報を操作すること。人間に被害を与える部分は取り除きワクチン作りに役立つ部分は残すなどしました。この遺伝子情報を使えば、ウイルスがこの先どのように変異するのか予測できる可能性もあります。根路銘国昭さんは蚕と遺伝子の技術を組み合わせることで早くて安全で確実に効果のあるワクチンをつくろうとしています。
開発に協力しているのは養蚕で栄えた群馬の企業「免疫生物研究所」です。夢のワクチンはカイコの卵に遺伝子を組み換えたウイルスを注入。すると生まれてくる蚕の体内にはワクチンを作るための遺伝子がすでに備わっていると言います。後はカイコを選別し大切に育てるだけ。さらに、その蚕が300個の卵を生みます。
そこから生まれる幼虫には変化が。これらの蚕が吐き出す糸の中にインフルエンザに有効なワクチン成分が含まれているのです。この繭玉ワクチン(まゆだまわくちん)は水に溶かすだけで、副作用の原因である不純物がほとんどないワクチン成分を取りだすことができます。
根路銘国昭さんの試算によると、たった1つの繭から作れるインフルエンザワクチンは数百人分。この繭玉ワクチンが実用化すれば通常6ヶ月かかるワクチン製造が2ヶ月に短縮できると言います。
「夢の扉+」
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