ハキリアリの世界|地球ドラマチック

自然界で最も複雑な社会の一つであるアリのコロニーは、多くの謎に包まれています。謎の解明に挑むのは昆虫学者ジョージ・マクガバン博士とサイエンス・コミュニケーション学者アダム・ハート博士。観察するのはハキリアリです。

ハキリアリは、草や木の葉を切り取って地下の巣に持ち帰ります。野生のアリは巣の中に数多くの部屋を作ります。

ハキリアリは持ってきた葉を使って巣の中でキノコの菌を育てます。ハキリアリは切り取った葉を食べるわけではないのです。持ち帰った葉を肥料にしてキノコの菌を栽培し食糧にしているのです。ハキリアリは農園でキノコの菌を育てているのです。

巣にはいろいろな大きさのアリがいます。兵隊アリはその中の一つです。つまり、ハキリアリという同じ種の中に背や形が異なる様々なアリがいるのです。

兵隊アリは噛む力が強いアリです。脳はあまり大きくありませんが、強い筋肉で巨大なアゴを動かし人の皮膚を切り裂くこともできます。兵隊アリよりも小さいのが中型働きアリ。葉を収穫して巣に持ち帰るのが仕事です。肥料の元となる葉の調達係です。最も数が多いのは小型働きアリです。小型働きアリは食糧となるキノコの菌や幼虫の世話など様々な仕事を担当しています。

そして、コロニーにとって最も重要な存在が女王アリです。女王アリはコロニーの中で唯一生殖活動を行うアリです。女王アリが死ねばコロニー全体も死んでしまいます。

多くのアリが暮らすコロニーでは病気が発生すると、すぐに全体に広がる恐れがあります。これを防ぐには清潔な環境を保つ必要があります。そのため、死骸やゴミなど腐る可能性のあるものは巣の外に出されます。ゴミ捨て場や墓地があるというのは、ハキリアリのコロニーが非常に洗練されていることを示しています。高度に発達した組織は人間社会に近いのかもしれません。

女王アリの周りには小さなアリがいて女王アリの世話をしています。女王アリのお腹の中には卵巣があり、多い時には1日に3万個の卵を生みます。ハキリアリのコロニーに女王アリは1匹しかいません。しかし、年に1度だけ新しい女王アリとオスのアリが生まれます。

新たに生まれた女王アリは、巣を離れてオスと交尾し新たなコロニーを作ります。野生のハキリアリの交尾はまだ観察されたことがありません。ハキリアリのコロニーにいるアリはみんなメスです。

アリの世界は人間の世界とは全く違い、生殖活動をするのは女王アリだけで、それが女王アリの唯一の仕事です。卵の世話などは全て働きアリの担当です。つまり、異なる世代の多くのアリがコロニーのために力を合わせて働いているのです。

このような特性を持つ昆虫を「真社会性昆虫」と言います。真社会性昆虫は、種の数としては昆虫全体の2%程度にすぎません。しかし、生物量ではその大部分を占めています。

ハキリアリの世界にリーダーはいません。女王アリが統率しているわけではないのです。ハキリアリは、視覚ではなく嗅覚を使って情報を交換しています。ハキリアリはフェロモンという化学物質を出して他のアリのために道しるべを残しています。

アリは食糧を探しに出かけるとき、仲間があとを追えるように道にフェロモンを残しながら進みます。食べ物が見つかったら巣へ帰る時にさらにフェロモンを出し道しるべを強めます。食べ物が見つからなかったら、帰り道にはフェロモンを出さないので、最初の道しるべは蒸発して消えていきます。後を追うアリはフェロモンがより強い方に進みます。こうして多くのアリが通ることで道しるべはさらに強まります。

ハキリアリのコミュニケーションは、フェロモンだけでなく絶えず情報交換をしています。アリは非常に小さい高周波の音、一種の信号を発しています。アリは信号にもとづいた単純なルールに従って行動しているのです。誰かが指示を出したり管理をしたりしているわけではありません。

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