遺伝子解読がもたらす医療革命|サイエンスZERO

今、遺伝子の情報を解読する技術が驚異的な進歩を遂げています。この遺伝子解読技術が医療に革命をもたらしています。

遺伝子は、細胞の核の中にある23種類の染色体におさめられています。遺伝子を構成しているのが4種類の物質。名前の頭文字をとってATGCとあらわされます。この4種類がどこにどう並んでいるのか調べるのが遺伝子解読です。

アメリカに住むニコラス・ヴォルカーくんは2歳の時、食べ物を食べると免疫に異常が起き腸に穴があいてしまう難病に襲われました。160回以上手術を繰り返しましたが原因を特定できぬまま症状は改善しませんでした。医師たちが選んだ最後の選択はニコラスくんの全遺伝子を調べて原因を見つけ出そうという試みでした。

解析の結果、病気に関係すると思われる特有の配列が16124箇所に見つかりました。中でも注目したのが腸の免疫に関わるXIAP遺伝子。この遺伝子は腸を細菌の攻撃から守る働きに関係していると考えられています。

ニコラスくんの場合、健康な人ではGになっている箇所がAになっていました。たった一文字の違いで、ニコラスくんは生まれつき腸の免疫がうまく働かないという運命を背負っていたのです。この運命を変えるには、正常な遺伝子配列を持つ免疫細胞に入れ替えるしかありません。

そこで免疫細胞を生み出す骨髄の移植に踏み切りました。こうしてニコラスくんの遺伝子は正常な遺伝子に置き換えられたのです。

手術から4年、ニコラスくんは回復し今では何でも食べられるようになりました。遺伝子の解読で原因を突き止めたことがニコラスくんの運命を変えたのです。

40代の女性は2012年に肺がんと診断されました。すでに手術で取り除くことが出来ない程がんが大きくなっていました。つらい副作用に耐えながら抗がん剤の治療を行ってきましたが、その効果もみられなくなってきました。

この女性に画期的な治療をもたらす発見をしたのが、東京大学大学院医学系研究科の間野博行(まのひろゆき)さんです。間野さんは正常な細胞に肺がんの細胞から取り出した様々な遺伝子を組み込み、その影響を調べました。すると、ある細胞は通常の10倍以上の増殖力を示しがん化することが分かりました。どんな遺伝子が細胞をがん化させたのか解読装置で確かめたところALK(アルク)と呼ばれる遺伝子に異常が起きていたことが分かりました。

ALK遺伝子が作り出すたんぱく質は、細胞の分裂を促す働きがあります。ところが、この遺伝子の配列が一部変化すると、たんぱく質が過剰に作られ細胞分裂を暴走させることが分かったのです。このALK遺伝子の異常で起こる肺がんは全体の3.5%。この女性も検査の結果ALK遺伝子の異常ががんの原因と分かりました。

実は、この遺伝子の働きを抑える薬が2012年に承認されました。この薬での治療を始めて1ヶ月、女性のがんは半分以下に縮小。がんを引き起こしている遺伝子の異常を見極められたことが、適切な治療法の選択に繋がったのです。

今、同じ臓器のがんでも遺伝子によってタイプが違うことが次々と分かってきています。京都大学大学院医学研究科の小川誠司さんの研究チームは、腎臓がん106例の遺伝子を解読。そして2013年6月、腎臓がんを引き起こす原因に28の遺伝子が関係していることを発表しました。これらのどの遺伝子に異常が起こるかで治療の選択が変わってくるのです。

例えば、VHL遺伝子とTCEB1遺伝子に異常が起こるとHIF(ヒフ)というたんぱく質が過剰に生み出されます。このHIF(ヒフ)は、がん細胞の周りに新たな血管を作るのを促すことで、がん細胞の増殖を助けてしまいます。

このタイプの腎臓がんの場合は、HIFの働きを抑える薬があれば高い効果が見込めます。原因となる遺伝子のタイプを見極めることで、これまでにないがんの治療選択が生み出されようとしているのです。

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