がん幹細胞「抗がん剤が効かない&がん再発の謎」|サイエンスZERO

NHK・Eテレの「サイエンスZERO(サイエンスゼロ)」でがん幹細胞について放送されました。様々ながんをやっつけるのに使われてきた抗がん剤ですが、何とそれが全く効かない恐るべきがん細胞が見つかったのです。それは、がん幹細胞(がんかんさいぼう)。がん幹細胞が初めて見つかったのは白血病。血液のがんと呼ばれる病気です。若い人も多く発症する白血病は数々の悲劇を生んできました。中でも恐ろしいのが一旦がん細胞が体内から消えたのに約半数の人が再発するという事実。長年その原因は謎でした。実は新発見のがん幹細胞こそが、がん再発のカギを握っていることが分かってきました。

 

理化学研究所の石川文彦(いしかわふみひこ)さんは白血病再発の謎に挑んでいます。石川さんはマウスの体内で人の白血病を発症させるという画期的な方法を開発。白血病患者の骨髄から取り出したがん細胞をマウスに移植することでマウスが人の白血病にかかるのです。健康な骨髄では細胞の数が適度に調整されているため所々隙間があります。しかし、人の白血病にかかったマウスは異常に増殖した白血病のがん細胞で骨髄の中がギュウギュウ詰めに。白血病は全身をめぐる血液に異常が起きる病気です。通常、赤血球や白血球、血小板などは骨髄の中の造血幹細胞から作られます。その一部ががん化し異常に増殖するのが白血病です。このがん細胞が骨髄を占拠すると正常な血液の細胞が作られなくなり極度の貧血など深刻な症状を引き起こすのです。詳しく白血病のがん細胞を調べていた石川さんたちは、ある奇妙な事実に気がつきました。がん細胞なのに細胞分裂していないものが骨のキワに存在していたのです。分裂しないがん細胞こそ「がん幹細胞」なのです。石川さんたちは活発に分裂しているがん細胞と、ほとんど分裂しないがん細胞を取り出し、それぞれマウスに注射。すると分裂しているがん細胞をいくら注射してもマウスは白血病になりませんでした。一方で分裂しないがん細胞を注射したマウスは白血病になってしまったのです。

 

増えている細胞といっても細胞分裂には限界があります。分裂を繰り返すと細胞が老化します。そのため、もともとの数が少ないと白血病にまではならないのです。一方でがん幹細胞は、自分と同じがん幹細胞とがん細胞に分裂します。生まれたがん細胞は次々と増殖。さらに新たに出来たがん幹細胞からもやがてがん細胞が出来て、それがやがて分裂。最終的にはがん細胞がいっぱいになってしまうのです。がん幹細胞は細胞分裂の回数を減らして長く寿命を保つ戦略をとっているのです。

 

石川さんたちは白血病を発症させたマウスたちに抗がん剤を投与してがん細胞の変化を調べました。抗がん剤はがん細胞は殺せてもがん幹細胞は殺せませんでした。それはがん幹細胞がほとんど分裂・増殖をしないからです。

 

九州大学の中山敬一(なかやまけいいち)さんたちは、がん幹細胞がなぜ分裂しないのか驚くべき仕組みを突き止めました。中山さんが注目したのは、がん細胞だけに沢山存在するc-Myc(シーミック)というたんぱく質。c-Myc(シーミック)は細胞分裂で重要な役割を果たすたんぱく質です。これが多いと細胞分裂が加速されることが知られています。ところが、がん幹細胞にはc-Myc(シーミック)がほとんどありません。そのためがん幹細胞は普通のがん細胞のように分裂しないのではないかと考えた中山さんたちは慢性骨髄性白血病のマウスで徹底的に調べました。すると、がん幹細胞だけが沢山持っている別のたんぱく質が見つかったのです。その名はFbxw7(エフビーエックスダブリューセブン)。詳しく調べるとFbxw7は細胞分裂を促すc-Mycを片っ端から壊してしまう働きがあることが分かりました。そのため、がん幹細胞にはc-Mycがなかったのです。つまり、Fbxw7を奪ってしまえばc-Mycは壊れず、がん幹細胞も分裂して増え始めることになります。こうなれば抗がん剤も効くはずです。実際に中山さんたちは遺伝子操作でFbxw7をなくした白血病マウスに抗がん剤を投与してみました。すると、通常は抗がん剤を与えても60日ほどでほとんど死んでしまうのですが、Fbxw7をなくしたマウスは100日経っても8割が生き延びるという結果に。つまり、がん幹細胞でも細胞分裂さえ始めさせることが出来れば抗がん剤が効くことが分かったのです。

 

一見、正常な造血幹細胞にそっくりながん幹細胞ですが、遺伝子レベルでは全く違う面構えであることが最新の研究で突き止められました。使ったのはマイクロアレイという装置。小さなチップに数万個もの遺伝子情報が刻まれていて、がん幹細胞のどの遺伝子がどんな働きをしているか短時間で調べることが出来ます。解析の結果、がん幹細胞だけで働いている遺伝子が作る25種類のたんぱく質が発見されました。その中でも研究者が注目したのがHCK(エイチシーケー)というたんぱく質。HCKはがん幹細胞が生きるために欠かせないたんぱく質で、これがないと細胞が死んでしまいます。HCKの働きを止める物質が見つかればがん幹細胞を殺すことが出来るのではないか。そこで可能性のある数万種類の化合物を取り寄せました。それらを一つ一つHCKと反応させて効果を調べました。そしてついにRK-20449という化合物がHCKの働きを止めることが分かったのです。RK-20449を白血病のマウスに投与してその効果を従来の抗がん剤と比較。RK-20449を投与して2ヶ月後の骨髄は正常な細胞がいっぱいに。がん細胞はほとんどなくなりました。がん幹細胞の生命線といえるたんぱく質を攻撃することで、がん幹細胞を撲滅できる可能性が示されたのです。




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