2009年、埼玉県の防衛医科大学校病院の野々山恵章さんは、何度も細菌やウイルスに感染し重症化する少年に頭を悩ませていました。分かっていることは、少年には細菌やウイルスと闘う免疫がないこと。
これらの細胞がないため、少年は繰り返し細菌やウイルスに感染し重症化していたのです。
しかし、なぜこれらの細胞が作られないのか様々な検査を行っていましたがどうしても原因が分からないでいました。実は、野々山医師は少年のような免疫のない患者を他にも4人治療していましたが、いずれも原因究明には至っていませんでした。
同じ頃、イギリスのニューキャッスルにあるフリーマン病院に入院するステイシー・シェパード(22歳)も命の危機に瀕していました。ステイシーは幼い頃から病弱で、彼女の父親も異常に体が弱く35歳の時に肺炎で亡くなりました。彼女の祖父も33歳の時に白血病で死亡しており、父の妹も悪性リンパ腫により24歳で亡くなっていました。
ステイシーも何度も病気に苦しみながら19歳の時に結婚。無事子供を授かりました。しかし、体が丈夫になることはなく22歳の時に肺胞蛋白症で入院しました。
肺胞は血液に酸素を取り込む小さな袋で、蛋白物質が薄く付着している。通常は蛋白物質の量は増えることなく適度な量が保たれている。
しかし、肺胞蛋白症になると、その蛋白物質が増えすぎて肺胞一杯になり酸素の取り込みを防ぎ呼吸困難を引き起こす。
ステイシーにはすぐに治療が開始されたものの、改善しませんでした。そして、余命1年を宣告されました。
この謎の症状で余命宣告をされたステイシーと日本で謎の免疫不全で悩む少年は、ある遺伝子異常が原因でこの様な症状が引き起こされていたのです。
血液科の医師マシュー・コリンは、ステイシーについて免疫系の病気を疑ってみてはどうかと提案しました。コリン医師はつい最近BCGの予防接種をした後、肺結核を発症してしまった患者の治療に当たっていました。そして血液検査を行ったところ、白血球内にB細胞とNK細胞がない事が判明。コリン医師はステイシーの状況を聞いて今調べている症状と何か関係があるのではないかと思ったのです。
すぐにステイシーの血液が調べられ、彼女にもB細胞とNK細胞がないことが分かりました。コリン医師はステイシーに直接話しを聞き、彼女の病が遺伝的なものに違いないと確信。ステイシーの骨髄検査をしました。
通常、血液の中にはB細胞、T細胞、NK細胞、単球、樹状細胞、顆粒球など多くの細胞があり、体の中に入ってきた細菌やウイルスと闘うなど体の免疫に関する役割を担っています。しかし、ステイシーの場合、今まで分かっていたB細胞、NK細胞に加え、さらに単球と樹状細胞がないことが判明。単球は体に入ってくる細菌を食べたり老廃物を処理します。樹状細胞は細菌やウイルスなどが入ってきたことを他の細胞に知らせます。
当然、体は菌と闘うことができず通常人間の体には害を及ぼすことのない非常に弱い細菌やウイルスにも感染し発症していたのです。この症状はそれぞれ欠損している細胞から文字をとり「DCML欠損症」と名づけられました。
コリン医師は造血幹細胞移植が効果的ではないかと提案しました。
しかし、骨髄ドナーの適合率は兄弟間で25%と言われていますがステイシーに兄弟はいません。他人同士では数百人から数万人に1人の確率でしか適合しないのです。また適合するドナーが見つかっても他人の骨髄を移植し定着させるには、抗がん剤により自分の骨髄と免疫システムを全て破壊しなければなりません。治療により命を落とす可能性もあるのです。
その頃、日本の野々山医師も最新技術を使い詳しい血液検査を行うことでDCML欠損症を見つけ出すことに成功しました。
ステイシーは、わずか数日で適合するドナーが見つかり2010年9月に治療が開始され、正常な免疫細胞を手に入れることができました。
そして、コリン医師たちはDCML欠損症になる原因遺伝子をつきとめました。それは第三染色体上にあるGATA2遺伝子。GATA2(ガタツー)遺伝子は血液・免疫細胞を作り出す事に関わっている遺伝子です。
人の血液免疫系の細胞は造血幹細胞から赤血球や血小板、白血球などのいろいろな細胞が出来上がっていきます。それには様々な遺伝子が関わっています。その中でもGATA2は樹状細胞、単球、NK細胞などを作るのに必要な遺伝子。この遺伝子の異常によりこれらの細胞が作られていなかったことが判明しました。
「ザ!世界仰天ニュース」
恐怖の早死にする遺伝子
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