キラーストレス ストレスから脳を守れ ~最新科学で迫る対処法~|NHKスペシャル

NHK総合テレビの「NHKスペシャル」キラーストレス 第2回 ストレスから脳を守れ ~最新科学で迫る対処法~が放送されました。

 

心をむしばむストレス その正体とは?

ストレスが引き起こす心の病の代表がうつ病です。大手家電メーカーに勤めていた堀北祐司さんは14年前、心が折れました。お客様相談室でトラブルを処理するクレーム対応係として働いていました。時には何時間も罵倒される仕事を4年間続けた頃、うつ病の診断を受けました。ストレスは誰にでもあるものと思って我慢しているうちにどんどん気分が落ち込み、うつ病を発症したのです。日々のストレスは一体どのようにして心を蝕み、うつ病を発症させるのでしょうか?最新研究によってそのメカニズムが明らかになりつつあります。

私たちの周りにある様々なストレスを受けると、脳の中にある恐怖や不安を感じる扁桃体が活動を始めます。すると、脳から体に指令が出されて副腎からストレスホルモンが分泌されます。ストレスホルモンは心臓の拍動を速め、血圧を上げるなどストレス反応と呼ばれる様々な反応を体に起こします。このストレスホルモンの中で注目されているのがコルチゾールです。コルチゾールは脳に辿り着き、吸収されますが一定の量を超えて増え続けると脳の一部を破壊することが分かってきたのです。アリゾナ州立大学ではストレスに長くさらされると脳がどうなるのかを実験しています。

ネズミを金網に長期間閉じ込めストレスを与えると脳の海馬に変化があらわれました。海馬は記憶を司り感情にも関わる場所です。変化が起きていたのは海馬を構成する神経細胞でした。脳にあふれたコルチゾールが原因となり海馬の神経細胞が蝕まれ、突起が減少したと考えられます。今、こうした海馬の損傷がうつ病の発症にもつながる可能性が指摘されています。ストレスを受けた時、体が反応しストレスホルモンが分泌されるのは本来私たちの体にそなわっている自然な反応です。それが一体なぜ脳の破壊という異常な事態を引き起こしてしまうのでしょうか?

 

脳を破壊するストレスホルモン

そもそもストレス反応は太古の昔、私たちの祖先が厳しい自然の中で生き残るために身に着けたものでした。生命の危機に直面した時、心拍数を上げるなどの反応を起こすことで体を動かしやすくします。そして緊急事態が去った後、ストレスホルモンの分泌は止まりました。ところが天敵がいなくなった現代、仕事上の様々なことや人間関係などが天敵に代わって私たちに精神的な負担をかけるようになりました。こうしたたて続けのストレスに私たちの体は休む間もなく反応し続ける状態になっています。太古の昔には想定されていなかったほどの絶え間ないストレスが、コルチゾールの過剰な分泌を引き起こし、脳を破壊していたのです。さらに、こうした状況を悪化させるもう一つの仕組みが最新の研究から見えてきました。それは私たち人類にそなわった記憶力や想像力です。例えば、上司の厳しい叱責など大きなストレスにさらされた場合、上司が目の前からいなくなった後も家で叱られたことを思い出したり、また明日も叱られるかもと想像したり。そのたびに脳はストレスを感じ、ストレス反応を起こします。このように目の前の現実についてではなく過去や未来について考えをめぐらせてしまう状態は「マインド・ワンダリング(こころの迷走)」と呼ばれます。最新研究では、このマインド・ワンダリングが私たちが生活する時間の非常に多くを占めることが分かっています。

 

ストレスに強い人弱い人 その原因とは?

その要因の一つとして注目されているのが生まれ育った環境です。ハーバード大学では子供の頃に強いストレスを受けた人の脳に、30年後どのような影響があらわれたかを調べました。すると脳の扁桃体に変化が起きていることが分かりました。子どもの頃に受けたストレスが強い程、大人になって扁桃体が大きくなる傾向があることが分かりました。扁桃体が大きくなると、小さなストレスにも反応するようになってしまうと考えられます。

 

「究極のストレス職場」宇宙飛行士の対策

ここでは一瞬の事故が宇宙飛行士たちの命を奪います。しかも、莫大な時間と予算がかけられたミッションのためミスは許されません。JAXAでは宇宙飛行士のストレス対策を研究しています。宇宙航空医師の緒方克彦さんはストレス対策の専門家として「コーピング」という手法を研究しています。数多くの研究で実績が証明されたストレス対処法です。

まず、ストレスがかかった時にどんな気晴らしをすれば気分が上がるのかあらかじめリストアップしておきます。例えば、音楽を聴く・本を読むなど。大切なのは、なるべく数多くリストアップすること。そして色々なストレスがかかるたびに、そのストレスに見合った気晴らしを行います。その結果、ストレスが減ったかどうかを自分で判断。まだストレスを感じていたら、さらに気晴らしを続けたり別の気晴らしに切り替えたりします。このように自らのストレスの観察・対策を意識的・徹底的に繰り返すのがコーピングです。

 

ストレスに立ち向かう最新の対処法

今、世界に先駆けた取り組みを行っているのが広島大学です。ストレスに弱く、うつ病のリスクを抱える閾値下うつ、いわばうつ病の予備軍の人たちに注目し研究しています。この閾値下うつの人たちが心の健康を取り戻すための医療にもとづく専門のプログラムを開発しました。このプログラムの特徴はリストアップした行動を試してみて、どれくらいの達成感や喜びがあったか10点満点で点数をつけることです。どんな行動がどのような成果につながるのか、点数をつけることで客観的に分かるようにします。

ミシガン大学准教授のアンソニー・キングさんは、ストレスを数値化するこの手法で心の健康を取り戻した人の脳を調べたところ、ある変化が起きていることを見つけました。ストレスに反応して扁桃体が活動する時に、同時に脳のある部分が強く活動するようになっていたのです。それは認知を司る前頭葉の一部です。自分のストレスをしっかり認知しながら対策を繰り返したことで、前頭葉が活性化して扁桃体の活動を抑制。心の健康を取り戻すことに繋がったと考えられます。

 

ストレス対策で大注目 マインドフルネス

マインドフルネス・ストレス低減法と呼ばれる、世界で広く使われているプログラムを開発したのはマサチューセッツ大学医学部です。このプログラムは瞑想の医学的効果を研究する中から生まれました。まずはじめに体の力を抜き背筋を伸ばして座ります。そして、体と呼吸に意識を向け、その様子を感じるようにします。やがて様々な雑念が浮かんできますが、それは考えないようにします。再び今の瞬間の体や呼吸の感覚に意識を戻します。毎日10分程度行うことから始めるのが一般的です。マインドフルネスは8週間のプログラムですが、プログラムを終えると体の不調は約35%、心の不調は約40%軽減されることが研究から分かったと言います。なぜ、今に注意を向けることでストレスを減らすことができるのでしょうか?

例えば上司に叱られた過去を思い出してくよくよしたり、また叱られるかもと想像したり、そのたびにストレスが脳の中で再生産され、ストレスホルモンのコルチゾールが過剰に分泌されていました。マインドフルネスでは今に注意を向けることで、この連鎖を止めます。記憶や想像でストレスが増幅する状態が止まり、コルチゾールの分泌が抑えられる可能性があるのです。その結果、脳にうれしい変化が起きていることが最新の研究で分かりました。

感情にかかわる海馬はストレスにより萎縮するとうつ病などに繋がる可能性が指摘されていました。マインドフルネスを行った人は海馬の一部で増加が確認されたのです。ストレスに蝕まれ萎縮した海馬が回復する可能性が見えてきたのです。さらに、ストレスの不安や恐怖に反応する扁桃体の一部も5%減少することも分かってきました。減少するということはストレスへの過敏な反応が抑えられると考えられます。ストレスによって蝕まれた脳もマインドフルネスによって正常な状態に戻る可能性があることを最新の科学は明らかにしています。




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