記憶のミステリー ~最新脳科学が解き明かす記憶の正体~|サイエンスZERO

NHK・Eテレの「サイエンスZERO(サイエンスゼロ)」で記憶のミステリー ~最新脳科学が解き明かす記憶の正体~が放送されました。「我思う ゆえに 我あり」人の心についてといたルネ・デカルトの有名な言葉です。その心をつむぐさいに欠かせないのが記憶です。人はどう出来事を記憶して思い出すのでしょうか。その正体が脳の神経細胞で起きる物理的な現象としてとらえられるようになってきています。今、最先端の技術を駆使し記憶のメカニズムが次々に明らかになってきています。さらに人工的に記憶を作り出す研究も。医療へいかせる可能性まで出てきました。

 

記憶保存のメカニズムとは?!

理化学研究所脳科学総合研究センターで記憶研究のチームリーダーをつとめるのがトーマス・マックヒュー博士です。海馬の神経細胞の活動を音に変換してリアルタイムで観測するという最先端の研究をしています。一つ一つの神経細胞の活動を分析できるようになり、記憶研究が飛躍的に進んでいます。中でも注目しているのが海馬にある場所細胞です。場所細胞とは記憶に重要な場所の情報を認識する神経細胞です。空間の中の自分の位置を記憶する役割があります。マックヒュー博士はその場所細胞の研究の世界的権威でもあります。マウスの実験で場所細胞と記憶の驚きの関係が見えてきました。マウスは止まっている時も場所細胞の活動は止まらず、前に通った道のパターンを短い時間の間に何度も繰り返していました。場所細胞の「リプレイ」は記憶の固定に重要です。海馬は移動しているときにその場所を認識するだけでなく、休んでいる時に前に通った場所をリプレイして記憶を固定すると考えられます。

場所細胞の他にも時間の経過を認識する時間細胞があることが明らかになってきました。場所細胞や時間細胞は共同して働いて、記憶にとって重要な「いつ」「どこで」という情報を海馬の中で処理しています。これが記憶として刻まれていくのです。

 

海馬と記憶の関係が明らかに!

海馬の役割の解明に身を捧げたのがヘンリー・モレゾンです。ヘンリー・モレゾンは重度のてんかんを患っていました。当時、決定的な治療法はなく最後の望みがてんかんの原因とされる海馬を切除する手術でした。主治医はやむなくヘンリー・モレゾンの海馬の摘出に踏み切りました。手術後、ヘンリー・モレゾンの発作は激減し治療は成功したかに見えましたが脳に異変が起きていました。わずか数分前の出来事さえ覚えられなくなってしまったのです。しかし奇妙なことに家族のことや子供の頃の思い出など手術前の記憶は残っていました。また日常生活も難なくこなせました。このことから海馬の役割が判明。それは記憶の中でも新たに起きた出来事を記憶することだったのです。そして古い記憶は海馬ではなく脳のどこか他のところに蓄えられていることが分かったのです。それは大脳皮質。マウスの実験から記憶は大脳皮質のいろんな領域に分散して蓄えられていることが分かりました。

 

驚きの記憶転送システムとは?!

海馬に刻まれた新たな記憶はどのように大脳皮質へ転送されていくのでしょうか?その答えにせまったのが富山大学大学院医学薬学研究部教授の井ノ口馨さんです。井ノ口さんが目をつけたのは海馬の神経細胞が新たに生まれる神経新生という働きでした。この新たに生まれた神経細胞が記憶の大脳皮質への転送と深く関わっていることを見つけ出したのです。新たに生まれる神経細胞と記憶の関係を調べるため3種類のマウスを用意しました。1つ目は回し車で運動させ神経新生を促進したマウス。2つ目は神経新生を抑制したマウス。3つ目は普通のマウスです。まず、それぞれのマウスの足に電気ショックを与え海馬に恐怖記憶を植え付けました。そして、その記憶が大脳皮質へ転送される様子を観察しました。普通のマウスでは海馬に刻まれた記憶が徐々に大脳皮質へ転送され、1か月後には完全に移りました。ところが神経新生を抑制したマウスでは1ヶ月経っても海馬に記憶が残り大脳皮質への記憶の転送が遅れていました。一方、神経新生を促進したマウスではわずか1週間で海馬から大脳皮質へ記憶が転送されていました。このことから神経新生が起きると海馬から記憶が消えていき、同時に大脳皮質へと転送されることが明らかになったのです。

海馬には神経細胞が1億個くらいありますが、大脳皮質は100億個以上。海馬は自分の容量がいっぱいにならないように、より容量の大きな大脳皮質へとデータを移しているのです。さらに転送が盛んに行われているタイミングがわかってきました。それは寝ている時。大脳皮質は寝ているときに海馬で起こっていることを復習してリプレイし、大脳皮質に記憶を固定しているのです。

 

ついに記憶を操れる時代へ!

記憶を人工的に操るという研究が行われています。それは異なる2つの記憶を人工的に結び付け新たな記憶を作るというもの。まずマウスに異なる2つの記憶を覚え込ませます。一つ目は場所について。マウスを丸い部屋に入れ「丸い部屋」という記憶を植え付けました。2つ目は感情について。今度は別の部屋に移して足に電気ショックを与え「怖い」という記憶を覚えさせました。この2つの異なる記憶を連合し新たな記憶を作るために脳科学の最新の手法が使われました。それがオプトジェネティクスという光と遺伝学を組み合わせた技術。脳に光ファイバーを繋ぎ、光のオン・オフによって特定の神経細胞の働きを操作できます。この技術を使い「丸い部屋」の記憶と「恐怖」の記憶に関わる細胞を同時に活性化し、2つの記憶をよみがえらせました。そして丸い部屋にマウスを入れるとマウスは一歩も動かず体を震わせ、恐怖反応を示すすくみの体勢を取り続けました。安全なはずの丸い部屋が怖い部屋だという記憶に書き換えられていたのです。




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