ゴッホ「星月夜」|美の巨人たち

フィンセント・ファン・ゴッホ「星月夜」

 

「星月夜」はアルルのほど近く、ゴッホが療養していたサン・ポール・ド・モーゾール修道院から見た風景だと伝えられています。

 

ゴッホはアルルに画家たちのユートピアを作ろうと、ポール・ゴーギャンと共同生活を始めるも破綻し精神を病んでいきました。その不安孤独の中で描いたのが「星月夜」です。

 

夜空の中央にある蠢くような渦は、雲でもなく星でもなく何を描いたものかいまだに分かっていません。

 

ゴッホは浮世絵に深く傾倒した画家です。コレクションは400点にも及んだと言われています。浮世絵に感動し模写しながら鮮やかな色彩と厚塗りを駆使し、独自の世界を生み出していきました。

 

筑波大学教授の齊藤泰嘉さんは「星月夜」と葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」の関連を指摘しています。

 

葛飾北斎「神奈川沖浪裏」

 

ゴッホが「星月夜」で描いたのは架空の風景です。彼はある晩、夜の作品を描きたいと考え、素晴らしく豊かな想像の世界を創り上げたのです。その証拠が実際にはなかった糸杉教会です。

 

ゴッホ

 

ゴッホは1853年、オランダ南部の村フロート・ズンデルトで生まれました。父親はプロテスタントの牧師でした。ゴッホもまた敬虔なキリスト教徒であり聖職者になるという夢を持っていました。しかし、彼は絵の道を選びました。宗教画を独自の視点で描いたのかもしれません。

 

創世記の中にはこんな一節があります。

 

ヨセフまた一の夢を見て
これを兄弟に述べて言いけるは
我また夢を見たるに
日と月と11の星
我を拝せりと

 

太陽と月はヨセフの両親、11の星は兄弟たちを表していると言われています。これは兄弟たちから虐げられていたヨセフが、将来彼らを救うことになるという予知夢でした。

 

「星月夜」の空にも11の星が描かれています。ゴッホはこの創世記の一節を風景画に変えて描いたのかもしれません。

 

「美の巨人たち」
フィンセント・ファン・ゴッホの「星月夜」

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