感染症と人類は歴史の中でどのように闘ってきたのでしょうか?ヨーロッパではペストが何度も襲い強大な帝国や社会を揺るがしてきました。黒死病と呼ばれ強い感染力を持つペストは、14世紀にヨーロッパの人口の3分の1が犠牲になったと言われています。当時の人々はウイルスや細菌などの病原体が原因とは知らず、死神や汚れた空気のせいだと考えていました。
人々の心へと染みついたペストへの恐怖。アルベール・カミュは人間が不条理に命を奪われていく様をえがきました。
感染症が病原体によって引き起こされることが分かった後もパンデミックは人類を襲いました。約100年前に世界を席巻した「スペイン風邪」と呼ばれるインフルエンザです。
第一次世界大戦の最中、兵士たちが戦場を大規模に移動する中で世界に伝播。死者は推定5000万人以上。戦争による死者の数を上回りました。
歴史上、幾多のパンデミックにさらされてきた人類。それは社会にどんな影響を与えるのでしょうか?
盗人を見てから
縄をなうというような
日本人の便宜主義が
こういう場合にも目につきます政府はなぜいち早く
与謝野晶子「感冒の床から」
この危険を防止するために…
多くの人間の密集する場所の一時的休業を命じなかったのでしょうか
日本でのスペイン風邪の流行は3年に渡り続きました。最初の流行では患者100人当たりの死亡者数が1,22人だったのに対し、2回目の流行では5,29人とウイルスが強毒化。それだけでなく若い世代が重症化するようになり多くの命が奪われました。
今回の新型コロナウイルスは今後どのような変化を遂げるのでしょうか?
ウイルスの毒性がどう変化するかは、人から人への感染の速度が大きく左右します。毒性の強いウイルスは感染した人をあっという間に殺してしまうためウイルス自身もそこで消えてしまいます。そのため、強いウイルスが生き残るには感染した人が亡くなる前に次から次へと感染を生むことが必要になります。
これに対して人々が感染防止に十分な注意を払った場合、毒性の強いウイルスは感染の機会を失い毒性の弱いウイルスだけが感染を拡大することができます。感染の速度を遅くすることが毒性の強いウイルスを抑制し弱いウイルスだけを生き延びさせることになるのです。
ウイルスの生態はどこまで解明されているのでしょうか?
2008年、東京大学医科学研究所教授の河岡義裕さんが世界を驚かせた研究があります。大流行の後に消滅し実体が分からなかったスペイン風邪のウイルスを人工的に合成。再現されたウイルスを研究し、感染症の新たな対策につなげようとしています。
河岡さんは今回の新型コロナウイルスにどのように対処するべきだと考えているのでしょうか?
国の感染症対策専門家会議のメンバーとして河岡さんは新型肺炎の拡大を防ぐための提言を行っています。
人類とウイルスの闘いは新たな局面に突入しています。それが特に顕在化したのは2000年以降。野生動物に由来すると考えられるウイルスによってSARSや新型インフルエンザ、エボラ出血熱など次々に感染症が流行するようになりました。
その要因として考えられるのが環境破壊が野生動物の生態系へもたらす深刻な影響です。地球規模で進む温暖化、熱帯雨林の破壊、無秩序な都市開発。その中で人間と野生動物の距離が近づき新たなウイルスを人間社会に呼び込む要因となっているのです。
世界が混迷を深める中、注目されている発言があります。イスラエルの歴史家で「サピエンス全史」などの著作で知られるユヴァル・ノア・ハラリ氏です。
感染拡大を抑えこむために国家がテクノロジーを駆使して人々の行動を監視し制限すべきか。あるいは、情報公開を徹底して人々の不安を取り除き市民の自己決定力を高めるのか。
パンデミックに対して自国の利害を優先するのか、それとも国際的に連帯して対処するのか。ハラリ氏が投げかける2つの問いに私たちはどのように向き合えば良いのでしょうか。
「ETV特集」
緊急対談 パンデミックが変える世界 ~歴史から何を学ぶか~
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