ハダカデバネズミ 不老長寿のスーパー生物|サイエンスZERO

同じネズミの仲間ラットの寿命は長くて3~4年ですが、ハダカデバネズミの寿命は30年。その理由は病気にかからないことと、体が老化しないこと。人間でいうと90歳くらいまで全く病気をせずに元気に過ごせるのです。まさに「ぴんぴんころり」のスーパー生物なのです。

若く長寿な秘訣

人間をはじめとする多くの哺乳類はがんになりますが、ハダカデバネズミは全くといっていいほどなりません。一体なぜなのでしょうか?

熊本大学大学院 老化・健康寿命学分野 三浦恭子准教授はiPS細胞を使って世界で初めての実験を試みました。

実験内容

まず、ハダカデバネズミの皮膚からiPS細胞を作ります。この細胞を未分化の状態のままマウスの精巣に移植。この時、比較のためにヒト由来のiPS細胞も未分化のまま移植。

すると、ヒト由来のものからは腫瘍ができましたが、ハダカデバネズミ由来のものからは半年経っても腫瘍ができませんでした。

詳しく調べると腫瘍化を未然に防ぐ驚きのメカニズムがみえてきました。

ハダカデバネズミのiPS細胞では、ヒトとは違ってARFという特殊な遺伝子が常に活発に働いていました。ARFは細胞の腫瘍化を抑制する遺伝子として知られるものです。

ハダカデバネズミの身体の細胞でARFの働きを抑え、意図的にがんにかかりやすくした実験を行いました。すると、細胞は自ら活動を停止し、増殖しなくなったのです。

つまり、万が一がんを防ぐ遺伝子が働かなくなっても、その細胞の増殖を封じ込めることができるのです。

このメカニズムを追求していくことでiPS細胞の安全性を高めることと、将来的にはがんを予防する方法の開発につながるのでは。(三浦恭子准教授)

  • がんを防ぐ遺伝子が常に働く
  • がん化しても増殖をやめる

この二重の防御策のおかげでぴんぴんころりの秘訣がみえてきたのです。

暗く狭い洞窟の中という過酷な環境で暮らすハダカデバネズミ。なぜ細胞が臓器が老化しないのでしょうか?

イリノイ大学のチームが目をつけたのは、ハダカデバネズミが住む地中の7%しかない酸素濃度です。どうしてこのような低酸素で長く健康に生きられるのか解き明かす実験が行われました。

実験内容

マウスとハダカデバネズミを4匹ずつ容器に入れ、5%の低酸素状態にしました。すると、マウスは15分たらずで全滅。ところが、ハダカデバネズミは5時間経った後も元気に動き回っていました。酸素0%ではハダカデバネズミもすぐに気絶。ところが、その状態で20分近くも生き続けました。

このハダカデバネズミを解剖すると、脳から果糖が大量に見つかりました。

果糖はハダカデバネズミのエサとなる草の根やイモなどに含まれます。ほとんどの哺乳類では果糖は肝臓など一部の臓器でブドウ糖に変換しエネルギーにします。そのため、果糖は脳にはないのが普通です。

一般的に哺乳類の細胞では中にあるミトコンドリアが酸素を受け取ってブドウ糖をエネルギーに変換しています。ところが、ハダカデバネズミはエネルギーを生むために酸素とブドウ糖も使いますが、果糖もエネルギー源として用いるとみられています。

ハイブリッド方式
(果糖+ブドウ糖&酸素)

酸素が激減する緊急時には果糖を全身で使うことで生きながらえたと考えられるのです。

果糖も使えるということでハダカデバネズミは細胞レベルで酸素がない状況に非常に強い。その結果として脳梗塞や心筋梗塞になった時に組織や細胞が死ににくくて傷つきにくい。年を取った時に起こりやすくなる病気にも強くなると考えられる。(三浦恭子准教授)

ハダカデバネズミの社会性

ハダカデバネズミは、群れのリーダー女王を頂点に役割分担がしっかりできています。

女王

ソルジャー
ワーカー

ソルジャーはヘビなどの天敵に襲われた時、自らを犠牲にして仲間を守ります。ワーカーは、仲間のために少ないエサをかき集めるのが仕事です。さらに、生まれたばかりの赤ちゃんを暖めるふとん係もワーカーの仕事です。

このように群れの中で階級制度を作ってその役割を全うすることに徹する社会システムのことを「真社会性」と言います。

ハダカデバネズミは1981年に哺乳類で初めて真社会性を持つ種ということで見つかった。

シロアリの真社会性

シロアリは真社会性を代表する生き物です。シロアリは体の構造の違いなどから、敵と戦うもの、エサを集めるものなど完璧に役割を分担しています。なぜこうした階級制度が必要なのでしょうか?

シロアリの頂点に立つのはひと際大きな女王と色が黒い。このリーダーに子供を繁殖する役目を一手に担わせています。

もし、女王と王が死んでしまうと巣を維持するために子供同士の近親交配が行われます。しかし、同じ遺伝子を持つ子供同士が交配すると病弱な個体が生まれやすく巣が崩壊します。それを防ぐにはリーダーに長生きしてもらわなければなりません。そこで役割分担を厳格にし、リーダーを何が何でも守ります。その結果、シロアリの女王の中には50年以上生きるものもいるそうです。

王や女王を長生きさせてたくさん繁殖させたものの遺伝子が次世代に残りやすくなる。真社会性昆虫の繁殖虫は非常に長生き。( 京都大学農学研究科昆虫生態学分野 松浦健二教授 )

ハダカデバネズミにも繁殖を一手に担う女王がいます。しかし、シロアリと違って体の形に違いはなく役割分担は完璧ではありません。では、どのように真社会性を維持しているのでしょうか?

例えば女王は自分以外に繁殖する個体がでてこないように自ら巣の中を頻繁にパトロールします。そして、発情期を迎えそうなメスがいると近寄ってプレッシャーをかけます。そうしてむやみやたらな繁殖行動を防ごうとしているのです。

女王の涙ぐましい努力の結果、真社会性が機能していると考えられます。

「サイエンスZERO」
不老不死!?のほ乳類ハダカデバネズミ

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