がんを制す!知られざる血液の攻防戦|サイエンスZERO

約40年前、アメリカの小児外科医ジュダ・フォルクマン博士ががんとの闘いを大きく前進させる画期的なアイディアを提唱しました。

血管を伸ばせないがんは増殖も転移もしない、がんの血管を壊せばがんで死ぬことはなくなるのではないか?

膨大な血管が、がんの桁外れの増殖力を支えています。

実は血管こそががんの最大の弱点となるのではなかいと、がんの最前線ではがんの生命線である血管を絶つ研究が行われています。すなわち兵糧攻めです。

VEGFは、ほとんどの細胞が作れるたんぱく質です。このVEGFが細胞から放出されると近くの血管がキャッチ。VEGFがやってきた方向へ血管が伸びていきます。血管はVEGFによっておびきよせられて作られているのです。

細胞は酸素が不足するとVEGFを放出し血管を誘導します。このように血管が枝分かれしたり伸びたりする現象を血管新生(けっかんしんせい)と言います。

血管新生は、怪我や月経などで起きますが健康な成人はそうそう起こりません。しかし、がんがあると膨大な量の血管が無秩序に新生されます。

がんははじめはたった一つの細胞です。これが分裂を繰り返すことで成長していくのですが、はじめのうちは血管に対する働きかけはありません。しかし、2mmを超えると状況は一変。大量の酸素を確保するために通常ではあり得ないほどの膨大な量のVEGFを放出。血管を猛烈な勢いで呼び込むのです。

また、正常な血管の細胞は分裂までに36時間かかりますが、がんに伸びた細胞は18時間の周期で分裂。さらに、正常な血管の細胞はシャーレの中では数時間で死んでしまいますが、がんがおびきよせた血管の細胞はシャーレの中でも3日以上増殖を続けます。そして、がん細胞に伸びた血管は染色体も変異し、遺伝子までもが変化。細胞増殖に制御がかけられない状態になってしまうのです。

ベバシズマブという薬は、がん細胞が放出するVEGFをキャッチし、がん細胞に向かって血管が伸びるのを妨害するものです。ベバシズマブは抗がん剤が効きにくくなった患者さんにも効果が期待できます。またベバシズマブは血管からがんを治療する方法を確立した世界初の薬なのです。

ベバシズマブの課題は、VEGFをブロックするため高血圧や心筋梗塞・脳梗塞などの副作用です。また、がん細胞がVEGF以外の血管新生を促す物質を作り始めると薬の効果が薄れてしまいます。

新しいがん治療薬として注目されているのが、バソヒビンというたんぱく質。発見したのは東北大学加齢医学研究所の佐藤靖史(さとうやすふみ)教授です。皮膚にがんが出来たマウスにバソヒビンを与えると、がんの成長が10分の1近くにまで抑えられました。さらに、血管を安定化して強くするような働きもあるのです。血管が正常になると血流が良くなり抗がん剤が届きやすくなる効果もあります。

バソヒビンは体内で合成されるたんぱく質なので、正常な血管を傷つけません。

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