ドビュッシーの「こどもの領分」|ららら♪クラシック

親バカから生まれた名曲

フランスを代表する作曲家ドビュッシーですが、彼の意外な側面がうかがえるピアノ組曲があります。それが「こどもの領分」です。この曲が書かれた背景にはドビュッシーが愛したたった一人の娘の存在がありました。

クロード・ドビュッシー

奔放で破滅的な女性関係を送ってきたドビュッシーが初めて子供を授かったのは43歳の時。二人目の妻エンマ・バルダックとの間に生まれたクロード・エンマです。ここからドビュッシーは親バカの道を邁進しました。

1)キャベツちゃん

ドビュッシーはクロード・エンマを「シュシュ」と呼んでいました。シュシュとはキャベツちゃんという意味。可愛くて仕方がなかったのでしょう。

2)手紙

仕事で家から遠く離れることもあったドビュッシー。こんな手紙を娘に送っています。

僕のかわいいシュシュ。こんなに長い間シュシュのかわいい、きれいな顔が見られなくてとても悲しい。お前の歌も、お前の笑い声も、つまり、お前から発するすべての騒音を聞くこともできないんだ。お前は、ときどきがまんできないこともあるけど、たいていはとってもステキな女の子なんだからね。お前に会える日のことしか考えられないんだ。それまでの間、お前に千回もキスする仲良しのパパの気持ちを考えておくれ。

(ドビュッシーの手紙より)

3)プレゼント

1908年、シュシュが3歳の時にドビュッシーが彼女にプレゼントしたのが「こどもの領分」でした。ここに描かれている子供たちの風景は、彼がイメージする愛する娘シュシュを中心とした小さな世界。ユーモラスで温かな視線が感じられるのです。

表情豊かなこどもの世界

グラドゥス・アド・パルナッスム博士

ややこしく速いフレーズが矢継ぎ早に繰り出されます。これは退屈なのにやたら難しいピアノの練習曲に奮闘する子供の姿。ドビュッシー自身がピアノの練習で悪戦苦闘した経験が子供の姿に託されています。

象のこもり歌

シュシュが愛してやまなかったゾウのぬいぐるみ。ぬいぐるみに向かってこもり歌を歌っていて、いつしか歌っている方がおねむになってしまう。そんな光景が描かれています。

人形へのセレナード

ギターを意識したフレーズが印象的に聞こえてきます。シュシュお気に入りの人形をイメージした曲です。

雪が踊っている

雪がひらひらと舞い降りてきます。表に出られない子供が曇ったガラス越しに窓の外を眺めているようなちょっと憂鬱な感じが目に浮かんできます。

小さい羊飼い

羊飼いもシュシュの人形がモデルといわれています。羊飼いが吹く角笛を表した響き。そして、村祭りの賑やかなパンフルートを思わせるフレーズ。二つの笛が山の間でこだまするように交互に聞こえてきます。

ゴリウォーグのケークウォーク

シュシュが大好きだったゴリウォーグという人形が踊り出すイメージ。ドビュッシーが当時興味を持っていたアメリカのダンス「ケークウォーク」の音楽をヒントに書かれました。独特のユーモアのセンスがさく裂した曲です。

ドビュッシーにとっては異例のユーモラスな雰囲気の組曲。観客に受け入れられないのではと、大いに気をもんでいました。演奏会当日は会場に入ることもできず、外のドアに耳をそばだたせて聴いていました。お客さんの歓声が聞こえるとドビュッシーはようやく胸をなでおろしたと言われています。

1918年4月、13歳のシュシュが兄へ送った手紙が残されています。

そこにいたロジェ=デュカス(ドビュッシーの弟子筋の作曲家)が、「おいで、シュシュ、パパにキスしなさい」と言ったとき、ああもう最後なんだって。それから起きたことは、とても言えないわ。滝のような涙が目からこぼれ落ちそうになったけど、ママンのためにがまんしたの。

Papa est mort
パパが亡くなった!

この3つの言葉。私には全然わからない。でなかったら、むしろ…わかりすぎる。

1918年、ドビュッシーは病の中、静かに息を引き取りました。その翌年にはシュシュもジフテリアで命を落としてしまいました。「こどもの領分」はドビュッシー親子のかけがえのない一時を伝えてくれます。

「ららら♪クラシック」
ドビュッシーの「こどもの領分」

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