作曲家ルードヴィヒ・ファン・ベートーヴェンは、30歳の頃に聴覚を失い、指揮棒を咥えてピアノに押し付け、伝わってくる音を頼りに作曲したと言われています。
振動を受け止めるのは頭蓋骨。第2の聴覚「骨伝導」です。骨伝導の存在は450年以上前から知られていました。そして最近、第3の聴覚である軟骨伝導が注目されています。
軟骨伝導 耳の中で音が生まれる
普段、音を聞く時は空気の振動を鼓膜で受け取ります。その振動が最終的に蝸牛に伝わります。この蝸牛で神経信号に変換されて、脳に伝えられ音として認識されます。
骨伝導では頭蓋骨が振動して、直接蝸牛に音を伝えます。
軟骨伝導では、振動が耳の軟骨に伝わると耳の穴の壁の軟骨にも伝わります。耳の穴の中で空気が振動して音が生まれ、それが鼓膜を揺らして蝸牛に届くという仕組みになっています。
奈良県立医科大学の細井裕司さんが軟骨伝導に注目したのは、10年前のことでした。耳鼻科医で特に難聴を専門にしてきた細井さん。通常の補聴器を使えない難聴患者を数多くみていました。生まれつき耳の穴がなかったり、耳の穴から膿が出るといった理由で推定35万人もの人が通常の補聴器を使えません。
その場合、これまでは骨伝導補聴器を使用するのが一般的でした。しかし、骨伝導の補聴器は一つデメリットがあります。
私たちは普段、左右の音の微妙な差から音の方向を感じ取っています。そのため声をかけられた時に正しい方向を向けます。ところが、骨伝導補聴器では音の方向が分かりにくく、うまく反応できないといいます。骨伝導では、頭蓋骨全体が振動してしまい左右の耳にほとんど同じ音が伝わってしまうからです。
もっと良い補聴器は作れないのかと頭を悩ませている時、偶然手元にあったのが骨伝導などに使う振動子でした。何気なくあちこちに当ててみると、耳の軟骨に当てた時だけ音の聞こえ方が全く違ったのです。
調べると耳の穴の中で音が生まれていることが分かりました。この方法なら耳の塞がっている難聴患者にも有効かもしれないと、細井さんは何人もの患者に振動子を当てさせてもらいました。すると、ほぼ全ての患者が軟骨伝導の方がよく聞こえると答えたのです。
そして5年前、メーカーとの共同研究で軟骨伝導補聴器の試作機が生まれました。両耳に装着すると、これまで分かりにくかった音の方向が判別できるようになったのです。
ただし、現在は臨床試験中で販売はされていません。
人間にも超音波が聞こえる!?
人間が聞こえる音の高さは通常20Hz~2万Hzまで。それに対してイルカは4万Hz~15万Hzまで聞くことができます。イルカは人間よりずっと高い超音波を聞いているのです。イルカは下あごの骨で超音波を受けて骨伝導で音を聞いています。
実は人間も骨伝導だと超音波が聞こえると言います。普通の音だと鼓膜に当たって蝸牛に伝わります。鼓膜は超音波の周波数に対応していないため、壁のように反射されます。しかし、骨伝導の場合は、骨を直接揺らすので蝸牛はそのまま揺れるため超音波が聞こえるのです。
「サイエンスZERO(ゼロ)」
軟骨で聴く!超音波も聞こえる!?
新しい聴覚が広げる音の可能性
この記事のコメント