おいしい!のカギ 食感のひみつ|サイエンスZERO

日本語で食感にかかわる言葉は445語。今、そのメカニズムに注目が集まっています。

チョコレートのおいしさの仕組みとは?

チョコレートのおいしさを支えるのは、チョコレート職人の経験と勘です。大切にしてきたのは光沢。パリッと感につながるスナップ性。そして、口どけです。

これらを左右するのはココアバターという油脂の結晶構造です。温度によって構造が変わる中、おいしさの決め手はⅤ型(ごがた)と呼ばれる構造をいかに作るかだということがこれまでの研究で分かってきました。

実は、チョコレート職人はこのⅤ型を作るために繊細な温度調整テンパリングを行っています。温かいチョコレートを冷えた石の上で20℃まで冷やし、再びボールに移して温めるという作業を繰り返します。最終的に28℃に仕上げることでⅤ型の結晶ができるというのです。チョコレートは温度調整が命というのが常識でした。

しかし、もう一つ重要なことがあることが最近分かってきました。広島大学の上野聡(うえのさとる)教授は、いつどうやってⅤ型の結晶ができるのかに注目しました。

使ったのは周囲187メートルにもなる加速器です。加速器で放射光を発生させます。そして、テンパリングの温度変化を再現し、放射光をあて測定しました。50℃のココアバターの温度を20℃以下まで冷やし、その後27.5℃に温度を上げました。Ⅴ型ができるのは温度を上げたタイミングです。しかし、実験の結果なぜかⅤ型はできませんでした。

上野さんは、職人が温度調整する時にかき混ぜていることを再現していないことに気づきました。そこで、攪拌しながらもう一度測定したところ、見事にⅤ型の結晶ができました。

ヨーグルト おいしい食感の秘密とは?

神奈川県小田原市にある大手食品メーカー研究所の市村武文(いちむらたけふみ)さんは、新しい食感のヨーグルトを開発しました。

市村さんは、材料ではなく工程を見直すことにしました。原料の生乳の下準備のさいの温度や圧力の違いによって、ヨーグルトの硬さやクリーミーさが大きく変わるからです。

どれが、クリーミーさに繋がるのか試行錯誤を重ねた結果、ある条件の時にだけヨーグルトがクリーミーになることをつきとめました。殺菌する温度は約130℃。これまで、ヨーグルトが緩くなることから考えもしなかった高い温度でした。そして、圧力は通常よりも高いものでした。

最初は全く考えていなかった条件で実験をしたところ、なめらかでしっかりとした食感のヨーグルトが得られて。我々の知識ではなぜそんなことが起こるのか全く分からない。(市村武文さん)

決め手は構造に

明治大学の中村卓教授の解析で、一般的なヨーグルトとクリーミーなヨーグルトの構造的な違いが分かってきました。クリーミーなヨーグルトは、小さなたんぱく質と脂肪がくっついた構造をしていたのです。これは一般的なヨーグルトと全く違う構造です。これがクリーミーさの秘密です。

口に入れる前は一般的なヨーグルトと同じ硬さを持っています。口の中に入れると構造が細かく壊れて口の中に散らばります。これを私たちはクリーミーだと感じるのです。

市村さんは、さらに新しい食感のヨーグルトに挑戦したいと考えています。

どうすれば構造変化できるかということがわかると、なめらかさクリーミーさ以外の食感についても今後研究をしていくことで新しい食感の提案をできるのではないかと考えています。(市村武文さん)

食感のカギをにぎる「音」とは?

耳から聞こえるのとは違うもう一つの音が、歯から直接伝わる「振動」です。この振動に注目しているのが岐阜大学の西津貴久(にしづたかひさ)教授です。2017年、歯で噛んだ時に伝わる振動を取り出す新たな装置を開発しました。

西津さんは振動をいくつかの成分に分ければ、食感に繋がる要素を取り出せると考え、様々な分析を行いました。

歯でカットするときに伝わる振動が重要な要素であるということが分かってきまして、その時に聞こえる音は小さなクラック(破砕音)の集合体として聞こえています。実際にはクラックがどのタイミング時間間隔で入っているか、クラックのちょっとした時間幅の差がサク味、ガリガリ感を左右するということが分かってきた。

(岐阜大学 西津貴久教授)

食感評価の未来

今、ロボットに食感を評価させる挑戦が始まっています。大阪大学の東森充(ひがしもりみつる)准教授は、機械で人間の口の中を再現しました。舌全体でどのように圧力が変化するのか、1600個のセンサーで細かく測定できます。食感の数値をデータベース化していけば、これまでにない食品開発にいかせると東森さんは考えています。

今、注目しているのは咀嚼が困難になった高齢者の食事などへの応用です。

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