規格外のサイズ
今から数千万年前、キリンの祖先はアジアからヨーロッパにかけて広く分布していました。しかし、現在キリンが生息するのはアフリカ大陸だけです。
キリンは私たち人間と同じ哺乳類で、牛や羊のように蹄があります。そして最大の特徴は長い首です。背が高いので、どんなに遠くからでも目につきます。
たぐいまれな体型
昔の探検家は、ラクダのような顔とヒョウのような模様を持つ動物を見て驚きました。キリンの学名はジラファ・カメロパルダリス、ヒョウ柄のラクダという意味です。
ヒョウ柄の模様と色はカムフラージュに役立ちます。これほど大きな体がいったん茂みに入ると周りの木々に溶け込んでしまいます。
成長したオスの体重は1.5トンにもなります。ほっそりとした足と硬い蹄で巨大な胴体を支えています。歩き方も独特です。4本バラバラではなく右側、左側と前後の足を同時に踏み出し前に進んでいます。まるで振り子のように頭と首を動かし同じリズムでお尻を揺らし、体全体でバランスをとって歩きます。頭を高くしたまま歩けるのは首から背中にかけての筋肉と腱が強靭なためです。
キリンの体高は約5メートル。巨大な体格は生きる上で有利です。高い所から周囲を見渡せるので、身に迫る危険をいち早く察知できるからです。小型の動物はキリンの側にいれば安心だと心得ています。キリンはサバンナの見張り役なのです。
唯一の敵はライオン
そんなキリンにもただ一つ恐れる敵がいます。ライオンです。
キリンは驚くほど好奇心旺盛で、ライオンにさえ興味を示しますが、危険が迫ると瞬時に反応します。屈強な前足で地面を蹴ると、どんどん走る速度を上げ安全なところまで避難します。キリンは時速60キロで走り続けることができ、そのスピードはライオンをしのぎます。それ以上の速さで走る必要はありません。敵はライオンだけだからです。ライオンを振り切ることができれば、穏やかないつものキリンに戻ります。
もしもライオンに追い詰められたとしても、キリンには必殺技があります。長い足を使ったキックです。普段は我が子を守る盾となりますが、ひとたびキックを繰り出せばライオンだろうとひとたまりもありません。巨大なキリンを襲う時はライオンも命懸けです。
ライオンもキリンの威力はよく分かっています。そのため、狙うのは大人ではなくほとんどが子供です。生後1年以内に命を落とす子供のキリンは全体の3分の2にのぼります。
高い木は独り占め
キリンの大きな体は敵を抑止する力にはなりますが、必ずしも身の安全を保障してはくれません。しかし、背が高いことには分かりやすい利点があります。高い場所にある食べ物を独占できるのです。競争相手がいないのでゆったりと食事ができます。オスのキリンは高さ6メートルの木の葉でも食べることができます。
キリンの首は高い木に届くためだけに長く進化したのでしょうか?科学者たちはその説に懐疑的です。なぜならメスは首を下げて低い木の葉を食べることもあるからです。
トゲもへっちゃら!
キリンはアカシアの葉を好みます。しかし、アカシアは強烈なトゲで身を守っています。キリンの体にはアカシアの防御を突破する様々な備えがあります。
まず、細長い頭のおかげで木の葉のすぐ側まで近づくことができます。しかも、鼻の穴が上向きについているのでトゲが鼻の穴に入りません。長い睫毛は目にトゲが刺さるのを防ぎます。そして、歯をクシのように使い枝から葉をこそげ取ります。きわめつきはモノをとらえやすくできている舌です。長さは50cm近くあり、まるで人間の指のように柔軟に動きます。口から出ている間も日光のダメージを受けないよう黒っぽい色をしています。トゲを攻略するキリンの技術は、他の植物にもいかされています。
アメリカからアフリカに持ち込まれたサボテンもその一つです。サボテンの内側の瑞々しい部分がキリンの大好物です。舌や口をトゲで刺されても化膿しないように、唾液には抗菌作用があります。また胃や食道は筋肉質のため、トゲを飲み込んでも刺さることはありません。
体の機能もユニーク
午前中、キリンは何本もの木の葉を食べ歩きます。そして暑くなる真昼時には歩みをとめ昼寝を始めます。ほとんどの場合、立ったままです。キリンは暑さに強い動物です。体温調節に役立つのが皮膚です。色の濃い部分は皮膚が薄く、毛の生え方も少ないので熱を放出しやすくなっています。
昼間は消化にあてる時間です。植物の繊維をよく噛み砕いてから飲み込みます。胃の中では微生物が硬いものの消化を助けます。一度では消化しきれないので胃の中のものを再び口に戻して噛み砕き、また胃に戻すという行為を何度も繰り返します。これは牛や羊にもみられる反芻という行為です。
キリンは食べることと消化することに一日の大半を費やします。大人が食べる植物の量は一日に30キロ以上。なかなか大変な仕事です。
首の長いキリンの頭は心臓から2メートル以上も上にあります。高い位置にある脳に十分な血液を届けなければなりません。そのためキリンの心臓は人間の心臓より30倍も重く、血圧の高さも2倍です。立ち上がると血液が足に向かって一気に流れ落ちるため、血管の特殊な弁で血液の急激な移動を防いでいます。そうしないと脳の血液が不足して失神してしまうからです。
知られざる生態
かつてキリンはアフリカに広く分布していました。しかし、現在は小さな個体群がそれぞれ遠く離れた場所でバラバラに生息してます。最新の遺伝子による研究では、キリンは4つの種に分類されています。
砂漠の厳しい生活
アフリカ南部ナミビアの砂漠にすむアンゴラキリンは、毛の色が薄いため砂漠の色にうまく溶け込んでいます。外見を周囲の環境に適応させたのです。乾いた気候と灼熱の大地。こんな過酷な環境で、幼いキリンはどのようにして生き抜くのでしょうか?
生後6ヶ月までは母乳に頼っています。母親はお乳のために十分な食べ物を探さなくてはなりません。しかし、乾季の間それは容易なことではありません。ほとんどの木では首が届く範囲の木の葉はすでになくなっています。
霧が発生すると湿った空気が何時間も大地を覆います。太陽が再び顔を出し霧がなくなる頃、木の葉には沢山の水滴がついています。これが乾きに苦しむキリンの命を救います。湿った葉を食べることで一日に20リットルの水分をとることが出来るからです。
しかし、乾季が厳しさを増すにつれ木々はさらに減っていきます。他に水分をとる手段をみつけなくてはなりません。
赤ちゃんは母親の子宮で15か月過ごした後、この世に生まれてきます。高い場所から地上に生み落とされた赤ちゃんは最長で1年半、母親の側で暮らします。
砂漠で暮らすキリンは、食べ物や水を求めて1日に40キロもの距離を歩きます。決して闇雲に歩いているわけではありません。水がある場所を知っていて、そこに向かっているのです。
狭くても楽しい我が家
アフリア東部には、狭い土地で生きざるおえないキリンもいます。マサイキリンはケニアの首都ナイロビにあるナイロビ国立公園に生息しています。都市開発が進み、人間の行動範囲が広がるにつれキリンの生息地は徐々に狭まり自由も制限されてきました。
それでも周囲の騒音や建物を気にしている様子はみられません。ここにはまだ十分な食べ物があるからです。あちこちに特殊なアカシアが生えています。トゲの根元の部分がぷっくりと膨らんでいて、中にアリの群れが暮らしています。アカシアの葉を食べるキリンは、アリにとっては棲み処を荒らす巨大な侵入者です。
キリンは決まった縄張りを持ちません。食べ物や水を求めて広い範囲を旅します。しかし、川や湖にでくわすと足が止まります。大半の哺乳類は泳ぐことができますが、キリンが泳げるという証拠は今のところ確認されていません。どうやら水にぬれるのは好きではないようです。
尿を嗅ぐ理由
キリンは仲間と一緒にいることを好みます。群れの大半はメスで構成されています。オスは尿のニオイを嗅いでメスが発情しているか調べます。発情していればオスの口が開きます。これはフレーメンと呼ばれる動きです。ロマンスは一瞬で終わります。
子育ての全てはメスが行います。産後の数日間、母子は群れを離れて過ごしますが、その後再び群れに戻ります。その方が安全だからです。
コミュニケーションの手段は?
キリンは優れた視力で遠くまで見渡せるため、耳の動きでサインを送っている可能性があります。人間の耳には聞こえない低周波の音でメッセージを交換しているという説もあります。しっぽの位置や振り方にも意味があるかもしれません。家族同士ならば体の模様でお互いを見分けている可能性もあります。
どれも真相は謎に包まれたままです。
夜も眠らない!?
キリンの眠り方については様々な説があります。キリンはきちんとした睡眠は数分単位でしかとらないと言われています。
背が高いのも考えもの
キリンは背が高いため、ハエやダニなどの寄生虫が容赦なく体にまとわりついてきます。そんな時は長くて柔軟な舌を使って追い払います。しっぽは、はたきになります。舌もしっぽも届かない所は、周囲にあるものを利用します。木の枝で身体をこすることはもちろんですが、枝を耳かきのように使うこともあります。
どうしても届かない場所は、掃除屋さんが一肌脱ぎます。ウシツツキです。この鳥が寄生虫を食べてくれるのです。ウシツツキは眺めの良い場所で食事を楽しみ、キリンは煩わしい寄生虫から解放され、ギブアンドテイクがうまく成立しているようにみえます。しかし、時には勢いあまってウシツツキがキリンの皮膚の傷をつついてしまうことがあります。
首が長くなった本当の理由?
キリンのツノは頭蓋骨から突き出た骨の部分が毛で覆われたものです。オス同士の戦いでは重要な役割を担います。キリンの社会では、オス同士の戦いに勝った者だけがメスを手に入れることができます。
キリンが現在のように首が長く進化した理由は、食べ物を得るためだけでなく、メスを獲得する戦いのためだったという説があります。すなわち、メスをめぐるオス同士の戦いでは、より首が長く頭が硬い方が武器として有利です。戦いに勝ったオスの特徴のみが子孫へと受け継がれ、やがてキリン特有の長い首に進化したというのです。
オス同士の戦いで相手を殺したり大きな傷をおわせたりすることはありません。そこに至る前にどちらかがギブアップします。それもまた子孫を絶やさないための知恵なのかもしれません。
GIRAFFE- UP HIGH AND PERSONAL
(オーストリア 2015年)
「地球ドラマチック」
キリン アフリカの不思議な巨人
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