近年、全国各地で相次ぐ火山の噴火ですが、それらを遥かにしのぐ大噴火が超巨大噴火です。一度起きると大地を変形させ地球規模での気候変動を引き起こす大災害です。
日本列島ではこの超巨大噴火が繰り返し起きてきました。そこで、次の噴火にそなえて超巨大噴火の全貌を解明するための調査がすすめられています。
VEI(火山爆発指数)は、噴出物の量で火山の規模を表します。2015年に全島民が避難した口永良部島の噴火はVEI1、2011年に起きた新燃岳の噴火はVEI3でした。それに対し、超巨大噴火はVEIが7~8。噴出物の量が100立方キロメートル以上で、琵琶湖の貯水量の3倍以上のマグマが出るような噴火です。
日本列島では過去10万年程の間に平均して1万年に1回、超巨大噴火が起きています。最後に起きた超巨大噴火は7300年前です。超巨大噴火の中でも一番注目されているのは、鹿児島県の薩摩硫黄島の周辺です。
超巨大噴火とは?
薩摩硫黄島では、今も島のあちらこちらで火山の活動が続いています。山腹からはガスが噴き出しています。海底からは様々な性質の温泉がわき出しています。かつてこの場所には今よりもさらに大きな島があったと考えられています。しかし、7300年前の超巨大噴火でその大部分が消え去りました。一体何が起きたのでしょうか?
ここには地下にマグマだまりを持つ大きな島がありました。7300年前、超巨大噴火が始まりました。すると地下のマグマが徐々に減り、マグマだまりに空洞が生まれました。空洞が広がったマグマだまりは地盤を支えきれなくなり陥没。こうして出来た窪みの地形をカルデラと言います。薩摩硫黄島はこのときの陥没で残ったカルデラの一部分だったのです。
この薩摩硫黄島を含む巨大な海底火山を鬼界カルデラと言います。鬼界カルデラの大きさを物語るのがカルデラ壁と呼ばれる壁です。噴火の衝撃で元の島が大きく陥没した跡です。カルデラ壁の先に広がる海に、巨大な鬼界カルデラが眠っているのです。
鬼界カルデラの全貌をとらえたのが、九州大学大学院理学研究院の清川昌一(きよかわしょういち)さんです。清川さんは、これまで何度もダイビングを行い、巨大な火山の構造などを調べてきました。
清川さんは2010年から2ヶ月半をかけて海底地形を調べました。海底に向かって音波を発射し、はね返る速度の違いなどから海底の凹凸を読み取ります。こうして海底の地形図を作りました。鬼界カルデラの火口の直径は約20kmであることが分かりました。
超巨大噴火 その時何が!?
超巨大噴火とは一体どんな噴火だったのでしょうか?東京大学地震研究所の前野深さんは、地層から読み解こうとしています。
堆積物をみれば、過去に何が起きたのかを推測することが出来ます。見えてきたのは白い巨大な壁。噴火によって出た軽石や火山灰などの噴出物です。その層は20メートル以上に渡っていました。170立方キロメートルにおよぶ噴出物が出たと推測されています。
超巨大噴火は海を越えて被害をもたらしました。鬼界カルデラから北に50kmにある南大隅町で、北海道大学大学院理学研究科の宇井忠英(ういただひで)さんは地層の中から噴火の痕跡を見つけました。火山灰や軽石を含んだ火砕流の堆積物が、鬼界カルデラからもたらされたものだと分かりました。
火砕流は、火山灰や軽石などが火山ガスと共に斜面を流れ落ちる現象です。平成3年の雲仙普賢岳の噴火では、火砕流が頻発し死者・行方不明者が44人にのぼりました。宇井さんは鬼界カルデラの火砕流の到達範囲を調査。その結果、火砕流は海を渡って100km以上離れた場所にまで到達していました。火砕流はなぜ海を渡ることができたのでしょうか?
宇井さんは火砕流の性質が関係していると言います。火砕流は密度が水よりも軽く、水の上は平らなためでこぼこの陸上よりも走りやすいのです。マグマが発砲することで出来た軽石は空洞が多く、密度が小さいため水に沈みません。そのスピードは時速100km。噴火から1時間以内に大隅半島に達したと考えられています。
人間社会を襲った火砕流
火砕流が到達した地域では、縄文人が絶滅に近い状態になっていたことが分かってきました。超巨大噴火の前は、周囲の豊かな森で採れる木の実を主食として、石器でどんぐりを割ったりすりつぶしたりしていました。
ところが7300年前、超巨大噴火の火砕流に襲われ、木の実がなる森は焼き尽くされ縄文人もほとんど死に絶えたと考えられています。この地に再び縄文人が暮らし始めたのは、噴火から数百年も後のこと。
生活も大きく変わっていました。火砕流で失われた豊かな森は回復せず、食べ物を得るために動物を追いかける狩猟生活に変わらざるおえなかったのです。
超巨大噴火の前兆をつかめ
2015年12月から鬼界カルデラで初めてボーリング調査が始まりました。地下25メートルまで掘り進めたところで地層に変化があらわれました。地下25メートル付近までは超巨大噴火の後にでた軽石などが堆積していましたが、その下の地層には流紋岩が堆積していました。流紋岩は規模の大きな噴火によって地表に出てくる溶岩です。
これらの調査から、超巨大噴火の前には溶岩流を出す噴火があったことなどが少しずつ分かってきました。
「サイエンスZERO」
超巨大噴火の脅威 ~薩摩硫黄島~
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