いつ襲ってくるか分からない巨大地震。グラッとくる直前に流れる緊急地震速報ですが、今よりも最大で30秒も早く流し、津波が何分後に到達するのか、その時間や高さまでも正確に知らせる、そんな夢の防災システムを実現しようとしているのが防災科学技術研究所の金沢敏彦(かなざわとしひこ)さんです。
そのカギは海底に5700kmに渡って張り巡らせる世界最大級の地震津波観測網。金沢さんをつき動かしているのは2011年の東日本大震災。巨大津波が街を襲う18分前、その姿を捉えていた手元のデータをいかせなかった悔しさです。
太平洋沖200kmの位置にプレートの境界にそって走る日本海溝があります。この周辺は東日本大震災をはじめ多くの地震の震源となってきました。そこに総延長5700kmの光ケーブルと150の観測装置を設置するプロジェクトが日本海溝海底地震津波観測網、通称S-net(エスネット)です。
ケーブルは青森~千葉間の5つの陸上局に繋がれ海底のデータが24時間リアルタイムで気象庁と防災科学技術研究所に届きます。2011年に始動した総予算324億円の一大国家プロジェクトです。その責任者が金沢敏彦さんです。金沢さんはこのプロジェクトで防災を大きく変えようとしています。
日本海溝周辺で地震が起きた場合、地震や津波の警報を出すには陸の地震計のデータが使われています。地震が起きると最初に小さな揺れP派を陸の地震計がとらえ、大きな揺れS派が来る数秒前から数十秒前に緊急地震速報を出しています。S-netなら観測装置が海底でいち早くP派をキャッチするため今より最大で30秒も早く緊急地震速報を出すことが出来ると言います。また津波の予測にも威力を発揮します。東日本大震災の時、気象庁は地震直後に岩手沿岸の津波の高さを3mと予測しました。
しかし、その後6mに修正するなどギリギリまで正確な情報を伝えられませんでした。日本海溝周辺で津波が起きた場合、陸に到達する20~30分前にS-netの水圧計がそれをキャッチ。その後、津波が来る正確な時間や波の高さをはじき出します。その情報は観測装置の上を津波が通るたびに更新されるためリアルタイムでより精度の高い予測が可能になると言います。
今よりも最大で30秒早く地震を知らせるS-netですが、この30秒が身を守るのにとても貴重だと言います。30秒あればどんな地震への備えが出来るのでしょうか?
- 家具の下などより安全な場所へ避難できる
- 高齢者や子供に安全な体勢を取らせる など
1970年代、東京大学地震研究所で地震の研究に没頭した金沢敏彦さん。当時使っていたのは自己浮上式海底地震計。金沢さんは装置を海底に沈め数週間観測したのち、タイマーで浮上させてデータを回収しに行くという手間のかかる作業を繰り返し行っていました。
この観測を推し進めていたのは金沢さんの恩師である浅田敏(あさだとし)教授。世界に先駆け海底から地震を紐解こうと考えていた浅田さんに金沢さんは多くのことを学びました。ある日、観測装置の部品を買い出しにいった時にこと、恩師が「金沢くん、我々がやるべきことは研究ではなく探求なんだよ」とポツリと言いました。その言葉は金沢さんの指針になりました。
その後、金沢さんは地震や津波をリアルタイムで観測できる画期的なシステムを作り上げました。まさに探求の賜物でした。
1996年、その観測装置を釜石沖の海底2か所に設置。24時間リアルタイムでデータをとり始めました。その15年後、沿岸の街を巨大津波が飲み込みました。釜石沖に設置した金沢さんの観測装置はその姿をとらえていました。
しかし、津波到達18分前のデータが当時警報や予測にいかされることはありませんでした。行政の防災システムと連動させていなかったためです。そして金沢さんが探求の末にたどりついたのがS-netでした。S-netは2017年に全面運用開始を目指しています。
「夢の扉+」
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