クライオ電子顕微鏡で新薬誕生!?|サイエンスZERO

NHK・Eテレの「サイエンスZERO(サイエンスゼロ)」でノーベル賞2017 クライオ電子顕微鏡で新薬誕生!?が放送されました。

クライオ電子顕微鏡をうまく使うと、これまで見るのが難しかった細胞の膜タンパク質を詳細に解析することができます。膜タンパク質は細胞への物質の出入りをコントロールしているので、薬のターゲットとして重要なのです。今、日本でも新薬の開発を目指した研究が進んでいます。

電子顕微鏡は元々金属の原子構造を見るのに最適な装置です。しかし、たんぱく質のような生体試料を解析するのはほとんど不可能と言われていました。これを可能にしたのがクライオ電子顕微鏡です。

 

電子顕微鏡でタンパク質の構造解析に挑戦!

イギリスMRC分子生物学研究所のリチャード・ヘンダーソン博士は電子顕微鏡を使ってたんぱく質の構造解析を世界で初めて成功させました。1970年代、ヘンダーソン博士は細菌の表面にある膜タンパク質バクテリオロドプシンの構造解析をX線で行おうとしていました。膜タンパク質は細胞の表面に存在しています。これを取り出して結晶を作ろうとしましたが、どうやっても解析に必要な大きな結晶が作れませんでした。そこで、共同研究者と共に電子顕微鏡を使うことに挑戦したのです。ヘンダーソン博士はバクテリオロドプシンを膜のまま電子顕微鏡で観察することにしました。これが壊れない程度の電子線を当てると一つのタンパク質からはぼんやりした画像しか得られません。しかし、たんぱく質は沢山あるために同じ画像が数多く得られます。これらの画像を平均化すれば鮮明な画像が得られると考えたのです。しかし、電子顕微鏡にはもう一つ問題がありました。実は電子顕微鏡を使う時には観察する部分を真空にする必要があります。そうすると試料が干からびてしまうのです。そこで、ヘンダーソン博士たちは試料をブドウ糖の溶液で覆い解析しました。こうした研究を元に1975年に科学誌「ネイチャー」に成果を発表。世界で初めて電子顕微鏡を使って膜タンパク質の構造が解析されたのです。

「クライオ電子顕微鏡法が知られることをみんなとても喜んでいると思います。この方法はとても優れているのでタンパク質だけではなくウイルスや細胞小器官などほぼすべてが解析できるようになるのです。」(リチャード・ヘンダーソン博士)

 

ばらばらのタンパク質も解析できる!?

アメリカ・コロンビア大学のヨアヒム・フランク博士は1970年代から細胞内に存在するリボソームというタンパク質とRNAからなる物質を電子顕微鏡で解析することに挑んでいました。まず、沢山のリボソームを生成します。そして、酢酸ウランという物質で覆い真空中でも干からびないように保護し電子顕微鏡で解析しました。フランク博士は画像を自動的にコンピューターで切り出し形ごとにグループ化するプログラムを作りました。

試料には沢山のリボソームが閉じ込められています。これを電子顕微鏡で解析すると影が画像としてとらえられます。試料が様々な向きに存在するため影の形もバラバラです。コンピューターはこの中から同じ形のものを抜き出します。同じように撮影した何百枚もの画像からも同じ処理を行い平均化することで、より鮮明な影が得られます。この画像を元にリボソームのどの面が写っていたのかをコンピューターで計算。その情報からリボソームの3次元構造を再構築するプログラムをフランク博士は開発しました。こうして結晶を作らなくてもタンパク質の三次元構造解析ができることを示したのです。

 

創薬に重要な構造を解析する

名古屋大学細胞生理学研究センターの大嶋篤典(おおしまあつのり)教授は細胞同士を繋いで物質の受け渡しをしているイネキシンという膜タンパク質の研究をしています。構造を調べるためには大量のイネキシンが必要です。そこで、イネキシンを作る遺伝子を導入したウイルスを用意。それを細胞に感染させると細胞がイネキシンを大量に作るのです。その細胞から膜だけを取り出し、さらにその膜からイネキシンだけを生成します。これをクライオ電子顕微鏡で見られるようにします。

「このタンパク質は16個の膜タンパク質からなっていることがわかりまして、それが細胞同士をつなげているのですが、細胞間をトンネルのように穴を開けて貫通しているということが構造からわかってきました。細胞の内側の構造が今回のクライオ電子顕微鏡の構造解析で初めて明らかになった部分です。あれくらい細かい部分が見えることで初めてどこにどのような分子が結合しているかという情報を得ることができますので、そういったことが今後創薬においては薬を設計する情報として役立つと考えています。」(大嶋篤典さん)

 

クライオ電子顕微鏡でドラッグレスキュー

試料の温度が低ければ低いほど、電子線を当てても壊れにくくなりより鮮明な画像を撮ることができます。そこで、名古屋大学の藤吉好則客員教授は通常より低温にできる液体ヘリウムを使っています。今、この装置を使って解析しているのはアクアポリン4という膜タンパク質です。細胞の表面にあり水を通す働きをしています。実は、ラットを使って実験でアクアポリン4は脳に水が溜まる脳浮腫という症状と密接に結びついていることが分かっています。アクアポリン4の働きを阻害できれば脳浮腫が起こらないので、世界中で化合物探しが行われています。そこで候補にあがってきたのがアセタゾラミドという化合物。ラットに効果はあるもののヒトへの効果を巡っては意見が対立し、薬として使える可能性が低くなっていました。藤吉さんたちは、なぜ効果が出たり出なかったりするのかを調べるためにラットとヒトのアクアポリン4を生成。そこにアセタゾラミドを加えて分子の結合状態をクライオ電子顕微鏡で詳しく調べました。すると、微妙な構造の違いによってヒトへの結合が弱くなっていることが分かりました。こうした結果から、アセタゾラミドはラットでは効果が出るのにヒトへの効果はほとんどないことが分かったのです。




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