シリーズ人体 プロローグ「神秘の巨大ネットワーク」|NHKスペシャル

NHK総合テレビの「NHKスペシャル」シリーズ人体 プロローグ「神秘の巨大ネットワーク」が放送されました。かつては想像するしかなかった身体の中の世界を最先端の技術でありありと映し出せるようになりました。その結果、思いもよらない人体の本当の姿が浮かび上がってきました。これまでの人体のイメージといえば脳が体全体の司令塔となり、他の臓器はそれに従うというものでした。ところが、最新科学はその常識を覆しました。なんと、体中の臓器が互いに直接情報をやり取りすることで私たちの身体は成り立っているという驚きの事実が明らかになってきたのです。このいわば臓器同士の会話を知れば私たちの身体の若々しさや美しさを保つ秘訣も分かってきます。さらに深刻な病気の多くは臓器同士の会話で間違った指令が送られるなどの異常によって引き起こされていることが分かりました。その結果、今医療の世界に大革命が起きています。がんや認知症、高血圧、メタボなど悩ましい病気を臓器の会話を操ることによって治すという全く新しい治療法が成果を上げ始めました。

 

世界初の映像でとらえた驚きの体内ワールド

ハワードヒューズ医学研究所に顕微鏡開発でノーベル化学賞を受賞したエリック・ベツィグさんがいます。彼が作り出した新時代の顕微鏡に世界が驚きました。格子光シート顕微鏡を使ってミクロの細胞を丸ごとスキャンしコンピューター上に立体的に再現すると言います。100分の1ミリにも満たない免疫細胞が躍動的に動き回る姿がとらえられました。もっと拡大すると免疫細胞の表面にあるとげとげした構造まで立体的にとらえることができます。さらにすごいのが1つの細胞をその中身まで透かして好きな角度から見られること。誰も目にしたことのない戦う免疫細胞のドラマチックな姿が世界で初めてとらえられました。

日本でも体内の世界を映し出す世界初の挑戦が始まっています。特別に開発した顕微鏡にハイビジョンの16倍も高精細な8Kカメラをとりつけ、生きた体の中を映し出そうというのです。従来の顕微鏡撮影では体の中のごく狭い範囲しか観察することができませんでした。ところが、8K顕微鏡を使うと鮮明な映像で16倍もの広い範囲を一度に見渡すことができます。

こうした技術革新によってとらえられたのが臓器同士の会話。つまり、ある臓器が別の臓器にメッセージを送る決定的瞬間です。衝撃の映像が撮影されたのは腸の中。最新式の内視鏡で腸の壁の部分を観察すると絨毛という1ミリ程の小さなヒダが密集しているのが分かります。腸の細胞からミクロの物質が噴き出している映像がとらえられました。大きさは10万分の1ミリ。腸の細胞から放出された物質は血液にのって全身に運ばれます。そして、脳や胃や膵臓など他の臓器に腸からのメッセージを伝える特別な働きをします。つまり、この腸の細胞の映像は腸が他の臓器と会話をしようとメッセージを発信している瞬間をとらえたものだったのです。

 

がんの転移を防ぐ!「メッセージ物質」驚異のパワー

腸の細胞が発するメッセージは臓器同士の会話のほんの一例にすぎません。実は、全身のあらゆる臓器からメッセージを伝えるメッセージ物質が放出されています。それを別の臓器が受け取り様々な反応を起こすというのです。そんな全く新しい人体の世界観への扉を開いたのは日本人科学者が成し遂げた大発見でした。国立循環器病研究センター研究所長の寒川賢治(かんがわけんじ)さんは、体の中を分子レベルで解析する研究の世界的な権威です。かつて医学界ではメッセージ物質を出すのは脳などごく限られた臓器だけというのが常識でした。脳が出すメッセージ物質はホルモンと呼ばれています。ところが、あるとき心臓の細胞からもホルモンが入っているカプセルのようなものが見つかりました。寒川さんがカプセルを調べたところ、脳が出すホルモンと同様他の臓器にメッセージを伝える物質が入っていました。この心臓が出すメッセージ物質はANPと名付けられました。

何らかの原因で血圧が上がり心臓に大きな負担がかかると、心臓の細胞はメッセージ物質ANPを大量に放出します。これはいわば「疲れた」「しんどい」という心臓のつぶやきです。ANPは血管を通じて全身に運ばれます。これを受け取るのは腎臓です。腎臓の細胞にはANPをキャッチする装置があります。ANPをキャッチすると腎臓は尿の量を増やします。身体の水分を外に出して血液の量を減らし、ポンプである心臓の負担を軽くするためです。こうして速やかに血圧を下げることで心臓をらくにします。脳とはいっさい関係なく心臓と腎臓が直接会話しながら助け合っていたのです。

その後、メッセージ物質ANPのさらなる働きが判明しました。それが意外にもがん治療の世界に革命をもたらしつつあります。今、心臓が出すANPが新しい薬として利用されています。がん手術のさい、患者にANPを投与するとがんの再発や転移を抑えられることが明らかになってきたのです。この劇的な効果、ANPが腎臓以外のある場所にも作用した結果だと言います。心臓から出たメッセージを受け取るもう一つの場所は全身の血管です。実は、血管の細胞にもANPを受け取る装置があります。血管の壁には所々傷んでささくれた場所がありそこで血流が滞ると心臓に負担をかける原因となります。ところがANPを受け取ると血管はささくれを速やかに修復。心臓をらくにします。心臓と血管で密かに交わされている会話を利用することでがんの転移を防ぐことができるというのです。がんの手術をした直後はわずかながらがん細胞が血液中に流れ出し全身を巡っています。これらは数日で死ぬため普通は問題になりません。ところが、血管に傷んだ場所があるとそこからがん細胞が入り込みやすくなります。そうして起こるのががんの転移です。そこでANPを薬として血液中に投与すると、心臓からのメッセージが来たと感じた血管は傷んだ壁を修復します。こうしてがん細胞の付け入る隙がなくなりがんの転移を防ぐことができます。

そして今や心臓だけでなく様々な臓器や細胞からもメッセージが発信され私たちの体に大きな影響を与えていることが明らかになってきています。例えば腎臓が酸素が足りない時に出すメッセージ物質EPOはアスリートの持久力をアップさせる重要な働きをしています。さらに、ただの脂だと思っていた脂肪もメッセージ物質レプチンを放出。それが脳に働きかけて食欲や性欲をコントロールしていることも分かってきました。人体はまさに様々なメッセージ物質のやり取りによる臓器同士の会話によって成り立っていたのです。

 

人体は巨大なネットワーク

人体をネットワークという新たな見方でとらえなおすことによって様々な病気の治療戦略にも革命が起きつつあります。その最前線を行くのがアメリカ国防高等研究計画局です。今、世界トップクラスの大学と共同で人体ネットワークの全容に迫ろうとしています。臓器たちの会話を解き明かすことで全く新しい薬の開発が可能になるというのです。

 

1滴の血液で丸わかり!13種類のがんを早期発見

日本でも2017年7月、がん研究の分野で新たな成果が発表され世界中の注目を集めました。これまでのがん検診はがんの種類ごとに異なる方法で調べなければならず、負担が大きいうえ早期発見が難しいことも少なくありませんでした。それがたった1滴の血液を調べるだけで13種類ものがんを早期発見できる画期的な検査手法を生み出したのです。しかも、正しく判定できる精度は95%以上。実は、この検査で調べるのも血液中をめぐるメッセージ物質です。メッセージを発しているのはがん細胞だというのです。エクソソームと呼ばれる直径1万分の1ミリ程の小さなカプセル。がん細胞はこのカプセルの中にあるメッセージ物質を隠して全身に送り出します。エクソソームはがんが体に広がるための重要な武器であることが突き止められました。例えば乳がんはなぜか通常はがんができにくい脳に転移します。その理由もエクソソームの働きにあります。もともと脳の血管の壁には厳重なバリアがあり、がん細胞は脳の中に入れません。そこで乳がんの細胞はまずエクソソームを血液中に放出し、血管の壁の細胞へと送り込みます。血管の壁はこれをがん細胞からのものとは知らずに開封。すると、中にあるメッセージ物質が仲間のふりをして「バリアをゆるめて」と語りかけます。その結果、血液に乗って流れてきた乳がんの細胞はバリアが緩んだ部分から脳の内部に侵入。転移を果たすのです。私たちの身体には悪意に満ちたウイルスメールのようなメッセージも飛び交っていたのです。でも、このがん細胞のメッセージを逆に利用しようというのが血液1滴から様々ながんを見つける最新検査です。実は、がん細胞が出すエクソソームはがんの種類によって中に含まれる物質が異なることが分かっています。それを調べれば体内にどんな種類のがん細胞が潜んでいるかが分かるというのです。3年後の実用化を目指して急ピッチで研究が進められています。

 

撃退!免疫の大暴走 人生を変える最先端治療

関節リウマチの国内患者数は70万人。全身の関節に激しい痛みや腫れが起こり、やがては骨が変形してしまう病気です。症状が進むと骨と骨の間が狭くなり、ついには密着。激しい痛みに襲われるようになります。関節リウマチも体内のメッセージ物質のやりとりの異常が原因の一つになっていることがつきとめられました。異常を起こすのは免疫細胞です。免疫細胞は本来、病原菌などの外敵をやっつけて私たちの体を守る強い味方です。ところが、免疫細胞が出す謎のメッセージが病気を引き起こすというのです。TNFαは「敵がいるぞ」という警告メッセージを伝える物質です。それを受け取るのは仲間の免疫細胞たち。すると、次々に増殖して臨戦態勢に入ります。そして、警告メッセージをさらに拡散していきます。しかし、実際には外敵などいません。関節の組織を敵と勘違いし、デマ情報をふりまいているのです。デマがあふれた関節の中は大炎上状態に。免疫細胞は破骨細胞と呼ばれる新たな細胞に変身し骨をどんどん破壊。関節リウマチの原因のいったんはこんなデマ情報の大炎上にあったのです。この仕組みの解明によって新しい薬が開発されました。開発された薬は血液にのって関節の内部に到達します。異常にとびかっているメッセージ物質TNFαにくっつき誤ったメッセージが伝わらないようブロックする働きをします。




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