完全養殖マグロ 大量生産に挑む|サイエンスZERO

NHK・Eテレの「サイエンスZERO(サイエンスゼロ)」で完全養殖マグロ大量生産に挑む!が放送されました。日本で完全養殖されているのはマダイ、ヒラメ、ブリ、トラフグなど。特にマダイとブリは1960年代に完全養殖に成功していました。しかし、クロマグロとウナギは長い間、完全養殖できていませんでした。普通の養殖は、天然の幼魚を獲ってきて育て出荷しますが、完全養殖は卵から育てて成魚になったらまた卵を産ませます。そのため天然資源が減りません。ただし完全養殖は難しく、特にクロマグロは赤ちゃんの生態がほとんど分かっていませんでした。クロマグロの完全養殖に成功したのは2002年ですが、生存率は0.1%でした。しかし、今では毎年10万匹もの稚魚を養殖業者に出荷できるまでになりました。

 

クロマグロが卵を産むのは主に梅雨明けから夏にかけて。クロマグロの卵は直径1mm、一度に数十万から数百万粒の卵を産みます。近畿大学水産研究所は世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功した研究所です。クロマグロの赤ちゃんは仔魚(しぎょ)と呼ばれます。ヒレなどが完成しておらず、泳ぐ力がとても弱いです。勝負は孵化からの10日間だと言います。泳ぐ力の弱い仔魚はエアポンプの影響で押し上げられ、表面張力などに邪魔され潜れなくなって浮上死してしまいます。この理由に気づいて近畿大学水産研究所がとった対策が魚油。水面に油の膜をはることで表面張力を弱めることに成功しました。しかし、孵化の3日目くらいから夜間に発生するのが沈降死と呼ばれる現象です。夜間に遊泳活動が弱まった仔魚が、水槽の底で体を傷つけて死んでしまうと考えています。そこで水面に風を送る装置で油膜を一箇所に集めました。こうすることで仔魚が空気を吸い込み、浮き袋が膨らみ浮力が強くなり底まで沈みにくくなります。しかし、油膜がないと浮上死が起こってしまいます。この矛盾を解決したのは飼育員たちの観察力でした。仔魚が浮き袋を作るタイミングを見抜き、3日目だけ油膜を外し4日目からはまた魚油をはることで浮上死も沈降死も大幅に減らすことに成功。最も困難な孵化後の10日間を乗り越えることで10年前0.1%だった生存率は10%にまで上がりました。

 

しかし、ふ化後14日目くらいから起こるのが共食い。ふ化後14日目くらいだと他の魚は動物プランクトンを食べる時期ですが、マグロは魚を食べます。そこで、たくさん卵がとれるマダイやイシダイの仔魚を与えることで共食いを防ぎました。また25日目以降に起こるのが衝突死。これは夜の間にいけすに車のライトが当たることで驚き衝突してしまうことが原因でした。そのため逆に光をつけることで解決したと言います。さらにクロマグロの完全養殖はエサにも苦労したそうです。他の魚は配合飼料を与えて育てます。しかし、マグロは生の魚でないと育たないのです。その理由はクロマグロの驚異的な成長力にありました。マダイと比べてみるとクロマグロは成長が10倍近く速いです。もちろん餌も10倍以上必要です。この成長を支えるのがクロマグロが持つ幽門垂(ゆうもんすい)という器官。胃と腸の間にある巨大な消化器官で酵素を大量に分泌し、消化効率を大幅にアップさせます。ただし幽門垂はふ化後60日まで完成しません。つまり若い稚魚の消化能力はまだあまり高くないのです。通常の配合飼料は生のエサに比べて消化吸収率が劣ります。これは配合飼料を加工する工程で乾燥のために加熱するのが原因です。主成分のたんぱく質が熱変性するので消化しにくくなるのです。このデメリットが幽門垂が未熟なクロマグロの稚魚には大きな壁になっていたのです。そこで研究チームは海外から酵素処理魚粉を取り寄せました。魚粉の主成分のたんぱく質に酵素を使い、加熱する前にあらかじめ分解しておきます。すると、加熱しても消化吸収率はあまり下がらないのです。実際に酵素処理魚粉で作った配合飼料を与えたところ、生のエサに遜色のない成長率を達成しました。