実は今、温泉が発電の分野で脚光を浴びています。温泉の熱を利用して電気を生み出しているのです。支えているのはバイナリー発電という技術。鍵を握るのは低温でも沸騰する低沸点媒体です。この技術を使えば、海水でも発電に使えると言います。
温泉が電気を生む!バイナリー発電
小浜温泉では2013年、地元の旅館などが協力して温泉を使った発電所をオープンさせました。全体で最大150kW(320世帯分)の電気を作ることが可能です。一体どういう仕組みで発電しているのでしょうか?
装置の中には代替フロンという液体が入っています。ここに温泉を使って温めたお湯を接触させると代替フロンが加熱されて蒸気に変化。この蒸気がタービンを回転させることで電気を生み出します。代替フロンの蒸気は、冷たい水で冷やせば再び液体に戻ります。この循環によって発電し続けるのです。
代替フロンは低温で沸騰するのが特徴です。沸点は15.3℃。このように低い温度で沸騰する物質を低沸点媒体と言います。ちなみに発電に使っている温泉の温度は約99℃。十分な温度があるので代替フロンが沸騰しタービンが回るのです。
バイナリー発電のカギ 低沸点媒体とは?
バイナリー発電機は約50年前にアメリカで誕生した後、日本でも開発が進みました。当時使われていた低沸点媒体はフロンです。主に使われていたのはCFC-11という種類。23.8℃で沸騰する性質を持っています。
水の場合、液体の時は分子が互いに強く結合し密な状態になっています。ここに熱が加わり100℃に達すると分子はバラバラに離れて気体に。これが沸騰です。水は一つの分子が持つ酸素原子と別の分子が持つ水素原子が強く引き合っています。これが分子同士の結合力を生み出すのです。この結合力の強さは分子にとって異なります。そして結合力が強いほど沸点が高く、逆に弱いほど沸点は弱くなります。
CFC-11の場合、分子同士の結合力が水に比べずっと弱くなっています。そのため23.8℃で沸騰し気体に変わるのです。またフロンは熱を伝えやすいという性質もあるため冷蔵庫やカーエアコンの冷媒などに使われました。
ところが1980年代に入り、フロンに含まれる塩素がオゾン層破壊の原因になることが分かり、使用が厳しく規制されることに。こうした中、急ピッチでフロンに変わる物質の研究が進みました。そして80年代の終わりに代替フロンが誕生。塩素を含まない代替フロンが現在では広く普及しています。
アンモニアを使ったバイナリー発電
大阪府池田市にある下水処理施設では、処理の途中で出る汚泥を燃やす時、約75℃の排気ガスが発生します。この熱を使ってバイナリー発電を行っています。低沸点媒体として使っているのはアンモニア。純粋なアンモニアは沸点-33℃です。
アンモニアは水に溶かして使うことが出来るため水の量を変えれば沸点を自由にコントロールできるというメリットがあります。その反面、毒性や可燃性があり取り扱いが難しい物質です。使用にあたっては厳重な安全対策が必要です。そのため温泉地などのバイナリー発電では、扱いやすい代替フロンが広く使われているのです。
海水の熱でもバイナリー発電
海洋温度差発電実証設備は、沖縄県が佐賀大学などと共同で建設し、2013年から発電を行っています。発電の基本的な仕組みは温泉を使うバイナリー発電と同じです。熱源は太陽で温められた海の表層水。温度は約30℃です。この熱で媒体を蒸発させ電気を作ります。媒体の冷却には深さ600mからくみ上げる深層水を使います。こちらは8℃ほど。
この方法は、熱源となる表層水の温度が低いため温泉などと比べると発電の効率は悪くなります。しかし、海水の量は膨大。このスケールメリットを生かすことで大きな電力を生み出そうとしています。
「サイエンスZERO(ゼロ)」
温泉が電気を生み出す!注目の低熱発電
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