地球の表面積の約7割は水で覆われています。水中に暮らす生物は数百万種。その種類や生息域は、多くが謎に包まれています。
しかし、その謎を明らかにする革新的な技術が生まれました。環境DNAです。実は水中には、生物の体から出たDNAが存在します。そのDNAを調べることで、そんな生物がどのくらいいるか明らかにすることが出来るのです。
環境DNAで絶滅危惧種を発見
2015年5月、ニホンウナギを調べるため日本大学のグループによる大規模な調査が行われました。ニホンウナギは漁獲量が減り続け、2年前には絶滅危惧種に指定されています。ニホンウナギはこれまで完全養殖の研究が続けられてきましたが、卵が孵化しても成長するのはごくわずかでした。実は、どのような環境で卵を産み、何を食べて成長するのか詳しい生態が分かっていません。
そこで注目されるのが産卵場所です。日本で育ったウナギはある程度成長すると川を下って海へ出ます。そして南へと移動。日本から2500km離れたマリアナ諸島の周辺で産卵すると考えられています。しかし、詳しい位置や環境などは分かっていません。
そこで2015年、研究チームはマリアナ諸島付近で調査を敢行しました。この時に使われたのが環境DNAの技術です。
研究チームは1400k㎡の調査エリアを設定。19kmおきに9つのポイントを作りました。そして、そのポイントごとに深さ1000mまで100m間隔で水を採取。こうして90のポイントで採取した水を環境DNAの技術を使って分析しました。
その結果、1つのポイントの水深400mの部分からニホンウナギのDNAが検出されたのです。今後、この地点で産卵環境を調べることで念願だった完全養殖の研究が前進するのではと期待されています。
水中のDNAを検出する仕組みとは?
水の中のDNAを調べるためには、特殊な作業が必要です。まず、採取した水からDNAを抽出していきます。しかし、このままではDNAの数が少なすぎて分析できません。そこで使われるのが調べたい生物のDNAを増やすための特殊な試薬です。
DNAは同じ構造を持つ2つの部分が結合しています。そこでまず結合を切断。この切断したDNAに結合するプライマーと呼ばれる短いDNAを加えていきます。すると、不思議なことにDNAが修復。つまり1本だったDNAが2本になるのです。このステップを繰り返すことで目的の生物のDNAを100万倍にも増やすことが出来ます。こうして、目的のDNAが微量であったとしても検出することが出来るのです。
さらに、複数の種類の魚を同時に検出する方法が開発されました。開発したのは千葉県立中央博物館 生態・環境研究部の宮正樹(みやまさき)部長です。これまでの環境DNA分析には、大きな弱点がありました。
実はDNAを増やすためのプライマーは、それぞれの生物によって全て異なります。つまり、特定の生物のDNAしか増やせなかったのです。そこで、宮さんは多くの種類のDNAを同時に増やす技術を開発しようと考えました。
目をつけたのは、全ての魚類に共通するDNAの塩基配列です。そこで、その塩基配列と結合する特殊なプライマーを開発。このプライマーを使うと、まず共通する塩基配列に結合します。その後、DNAを修復する過程で、それぞれの魚に固有のDNAの部分も修復します。こうして1種類のプライマーであらゆる魚類のDNAを増幅することが可能になったのです。
こうして1度に多くの種類の生物を特定する方法を「メタバーコーディング」と言います。メタバーコーディングを使うことで、水を調べればそこにどんな魚がいるかを瞬時に特定することが可能になったのです。
環境DNAでわかる生物の○○○!
京都府舞鶴湾で環境DNAを使った新たなプロジェクトが始まっています。環境DNAを使って舞鶴湾のどこにどのくらいマアジが生息しているか、その量を調べようとしています。
水槽にマアジを1匹入れると、一定量のDNAを放出します。ここに同じ条件のマアジをもう1匹加えるとDNAの量も倍に増えていきます。このように水中の生物量に対応してDNAの量も増えていく関係があります。その結果をもとに舞鶴湾での実験に取り組んでいます。実験では湾内の47地点で環境DNAを使いマアジのDNAの量を測定しました。
「サイエンスZERO」
水の生態調査の革命!環境DNA
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