バミューダ・トライアングル ~科学で迫る魔の海域~|地球ドラマチック

1945年12月、アメリカ海軍の飛行編隊がフロリダ沖で消息を絶ちました。同じ海域で1918年には大型貨物船が行方不明に。

 

長い間、この海域で多くの船舶や航空機が忽然と姿を消し、謎や伝説、恐怖の源となってきました。フロリダ半島とプエルトリコ、バミューダ諸島を結ぶ魔の海域バミューダ・トライアングルです。

 

船の墓場

アメリカの東1000kmの海上にあるバミューダ諸島は、古くから大西洋を横断する船の寄港地として知られてきました。しかし、周辺の海域には恐ろしい危険が潜んでいます。バミューダの名は船乗りたちを怖気づかせ、悪魔の島と呼ばれるようになりました。

 

フィリップ・ルージャは、バミューダの海域に沈む歴史的な船を把握し、常に監視しています。この辺りには300隻ともいわれる難破船が沈んでいます。透明度が高く陸地から近い海でなぜそれほど多くの船が遭難する運命になったのでしょうか?

 

マリーセレスティア号は、鉄でできた蒸気船で19世紀半ばの南北戦争時代に物資を運んでいました。マリーセレスティア号は岸からほんの800mの地点で悲劇に見舞われました。それも波のない穏やかな日にです。普通なら考えにくいことです。

 

船体は水深15m程の浅瀬に横たわっています。沿岸には多くの難破船が沈んでいます。記録によると数多くの難破船や墜落機体がバミューダの島々を取り囲むようにして沈んでいます。一体ここで何が起きたのでしょうか?

 

海底を探る新技術

海底の調査は、ソナーマッピングという技術によって飛躍的に進みました。海底に向けて音波を発し、反射された音波から地形や深さを読み取ります。

 

魔の海域で数百もの船が難破した原因もソナーマッピングの技術でつきとめることが出来るかもしれません。

 

海底に巨大な山が!

大西洋の中ほどに、海底からそびえたつ高度4000mの山があることが分かりました。巨大な山の頂上、海面にわずかに姿を現しているのがバミューダ諸島です。なぜ、このような地形が生まれたのでしょうか?

 

バミューダ諸島は、海洋プレートの比較的孤立した場所にあります。大西洋が形成されて間もない頃、この場所で火山が大噴火しました。火山活動は数百万年も続き、ついに山頂が海面に突き出ました。

 

約3000万年前に火山活動が停止すると、山は風による侵食で平坦な大地へと姿を変えました。その後、氷河時代が終わると海面は上昇し、バミューダは山の頂上にのった小さな島となりました。

 

今、太古の火山の斜面にはサンゴ礁が広がっています。

 

サンゴ礁に潜む危険

サンゴ礁は自然の要塞のように島民を守ってくれますが、船乗りにとってはやっかいな存在です。

 

サンゴ礁に育つ藻の仲間や軟体動物は死後、堆積して非常に硬い石灰岩を形成します。硬い岩の塊は海底から何メートルも盛り上がり、時には海面に突き出して船を傷つけるもととなるのです。島の人たちはこの岩を「ブレイカー」と呼んでいます。鋭利な岩に船底を切り裂かれ、数分で沈没してしまうことさえあると言います。

 

しかも、海が凪いでいる時こそ危険性は高くなるのです。ブレイカーは波が激しい時の方が見つけやすいためです。海面に波が立たない穏やかな日こそ最も危険です。

 

マリンセレスティア号の難破は、ブレイカーによるものと考えられています。バミューダの周囲の海に潜む脅威の正体の一つはブレイカーでした。

 

バミューダ諸島は、広大なバミューダ・トライアングルの一部にすぎません。魔の海域は南はプエルトリコ、西はフロリダ海岸にまで及びます。

 

フロリダ 消えた飛行編隊

1945年12月、フロリダ沖でアメリカ海軍の飛行編隊が全て消失するという事件が起きました。

 

1945年12月5日、アメリカ・フロリダの海軍航空基地を5機の軍用機が編隊を組んで出発しました。フライト19と呼ばれた編隊は定期的な飛行訓練のために大西洋の沿岸を飛行していました。指揮官はチャールズ・テイラー海軍大尉。飛行経験豊富な人物でしたが、このときの飛行コースには慣れていませんでした。

 

訓練の中ほどで問題が生じました。テイラー大尉はコンパスの不調を報告しています。天候は一気に悪化し通信は途絶えました。捜索と救難のために水陸両用のマリナー飛行艇が出動。しかし、連絡が1度あったきりでマリナー飛行艇からの通信も途絶えました。6機全てが忽然と姿を消したのです。これが有名な消えた飛行編隊事件です。

 

この事件については、これまで宇宙人や電磁波によるものだという様々な超常現象説が取りざたされてきました。しかし、最も合理的な説明は飛行編隊が方向を見失い、燃料が尽きて墜落したというものです。場所はバハマ周辺の海ではないかと言われています。

 

バハマ 怪物の海

バミューダ・トライアングルの海には、いくつもの奇怪な伝説があります。バハマの海域も古くから恐れられてきた場所の一つです。そこには人や船を襲う怪物がすみついていると言われてきました。現代の科学はこの海に隠された真実を解明しつつあります。

 

バミューダ・トライアングルの西の端、フロリダから80km程の沖合に700以上の島々からなるバハマ諸島があります。海岸線や海底の地形は複雑です。辺りの海には人や船を飲み込む、大きな渦が生じるという古くからの言い伝えがあります。

 

バハマ諸島は、海底からそそり立つ大地の上に位置しています。グレートバハマバンクと呼ばれる大陸棚です。大陸棚の端は深い海峡へと落ち込み、5000m級の崖を形作ります。高さはグランドキャニオンの3倍です。

 

バハマには海にまつわる神話や伝説が数多く存在します。バハマ諸島の中でもアメリカ大陸に近い北ビミニ島の辺りは、数世紀前まで海賊が暴れまわる悪名高い海域でもありました。

 

バミューダ・トライアングルの神秘的な謎の一つは、北ビミニ島を舞台にしています。北ビミニ島の沖合、水深5mの海底に不思議な構造物があります。石畳の石のようなものが海底に伸びているのです。この構造物はビミニロードと呼ばれ、長い間なんであるかが議論されてきました。一部の研究者はビミニロードは人工的に作られたものであり、消えた伝説の都市アトランティスの痕跡だと主張しました。

 

しかし、その後の調査によってビミニロードは石灰岩でできた自然の産物であることが証明されました。アトランティス伝説の舞台ではなかったのです。

 

バハマの海の不思議はビミニロードだけではありません。より南のロング島にはさらに奇妙なものが存在しています。

 

不思議な水中洞窟

ロング島の森を進んでいくと鍾乳洞があらわれます。この鍾乳洞は非常に珍しい特徴があります。バハマ諸島で発見されている無数のブルーホールの一つで、もともとは地中に陥没してできた穴だと考えられています。内陸部にあるにも関わらずブルーホールの水は海水と淡水が混ざり、エビなど多くの海の生物が生息しています。海水はどこから来るのでしょうか?

 

バハマ諸島最大のブルーホールは、ロング島の海岸から数メートルのところにあるディーンズ・ブルーホールです。開口部の直径は約30メートル。深さは最大で数百メートルあると言われています。ブルーホールには恐ろしい言い伝えがあり、島の人々は長い間この場所に近づきたがりませんでした。

 

バハマ諸島にはブルーホールにまつわる言い伝えが沢山ありますが、その一つがブルーホールの底に潜むラスカという怪物の話です。ブルーホールに水が出入りするのはラスカが水を吸い込んだり吐き出したりするためだと言われてきました。また、ブルーホールに近づいた船がラスカが作った渦に吸い込まれたという言い伝えもあります。

 

動く水の秘密

ブルーホールの水が動いていることは経験的に知られてきた事実です。潮の干満の影響は明らかですが、渦が吸い込まれるのはブルーホールの奥深くに何か別の要因があるからだと考えられます。研究者たちは実際に潜って内部を調査しています。ブルーホールは珍しい地形ですが、研究が進み成り立ちの謎はほぼ解明されています。

 

最後の氷河時代、海面は今より低く、ブルーホールを形成する石灰岩は全て地上にありました。酸性雨が石灰岩に染み込み、侵食作用によって大きな空洞がいくつも作られました。やがて、天井部分が崩落しボトルのような洞窟が形成されました。そして氷河時代の終わりに海面が上昇し、ブルーホール全体が海に沈んだのです。

 

水深36m付近には数本のトンネルがあり、水が強力に吸い込まれています。このようなトンネルが島の随所にあるブルーホールをつなぎ、内陸部にまで海水や海の生物を運んでいると考えられています。

 

ブルーホールの水を操るのは不気味な怪物ではなく、自然が生んだ独特な構造でした。

 

消えた輸送船はどこへ?

1918年3月、アメリカ海軍の大型輸送船サイクロプス号が大西洋を北上していました。8000トンのマンガン鉱石と乗組員309人を乗せてアメリカに戻る途中でした。サイクロプス号は、バミューダ・トライアングルの中でも水深が最大の海域に到達。その後、忽然と姿を消し巨大な船と乗組員の消息はいまだに分かっていません。

 

この事件に人々は想像力をかきたてられてきました。ワシントンの新聞には船が乗っ取られ、アマゾンで海賊船として暴れまわっているという記事が大々的に掲載され、ドイツの潜水艦に捕まえられたという説や巨大な海洋生物に襲われたという説まで登場し、想像図を掲載した新聞が出回りました。

 

サイクロプス号は、当時アメリカ海軍が保有する最大級の輸送船でしたが底が平らだったため横揺れしやすい弱点がありました。そのような大揺れが続けば大参事が起きても不思議ではありません。

 

異常な大波の原因

荒れ狂う大波が突然襲い掛かってくるという体験を昔から多くの船乗りが語り継いできました。暴れ波です。こうした暴れ波のような現象も現代の技術で観測することが可能です。

 

バミューダ・トライアングルは、定期的にハリケーンに襲われ赤道付近やメキシコ湾からの嵐にも見舞われます。海域は非常に不安定になり、異常な波が発生することがあります。

 

サイクロプス号は異常な大波によって海に沈んだのでしょうか?

 

海底からガス放出!?

船を転覆させる原因として別の可能性も指摘されています。嵐ではなく海の底に原因があるというのです。

 

バミューダ・トライアングルの海底の一部には、光沢のある白い物質が堆積している場所があります。メタンハイドレートと呼ばれる天然ガスを含んだ物質です。メタンハイドレートが堆積している海底では、天然ガスのメタンが海底の隙間に充満している場合があります。

 

1981年、南シナ海で海底を掘る船がガスだまりを壊しました。ガスの噴出によって海面は突然波立ち船が転覆する事態を招きました。地震や地滑りなど海底で大規模な変動があれば、メタンハイドレートの塊が崩れガスが爆発的に放出されることも考えらえます。

 

サイクロプス号はバミューダ・トライアングルの海底にあるメタンハイドレートのせいで転覆したのでしょうか?実際に船に何が起きたのかは残骸が見つかるまで分かりません。

 

深さ8000メートルの海溝

サイクロプス号が遭難したのは出港の翌日で、プエルトリコの北西にいたと考えられます。プエルトリコの海にサイクロプス号が沈んだとすれば、船体を回収することは難しいかもしれません。そこには深さが8000メートルもあるプエルトリコ海溝が存在しているからです。バミューダ・トライアングルの最深部、大西洋全体の中でも最も深い地点です。

 

近年、研究者たちはプエルトリコ海溝の地形にある大きな危険が潜んでいることを発見しました。地殻変動によって、壊滅的な威力の津波が発生する恐れがあるのです。調査はまだ始まったばかりです。プエルトリコ海溝の果てしない深さを考えると、バミューダ・トライアングルで消息を絶った船や飛行機が発見されずにいるのも驚きではありません。

 

数々の船や飛行機を飲み込んだ魔の海域バミューダ・トライアングル。その謎と伝説は今も根強く残っています。しかし、この海域でもたらす脅威が超常現象によるものでないことは解明されました。伝説の奥に隠された事実を引き出したのは科学的な調査の積み重ねでした。私たちが恐れを抱き備えるべきものは、大自然の力そのものなのです。

 

DRAIN THE BERMUDA TRIANGLE
(イギリス/カナダ 2014年)

この記事のコメント