おさかな予報 宇宙から漁場を予測するシステム|夢の扉+

漁師の経験と勘が頼りだった漁業に革命をもたらそうとしているのが、北海道大学大学院教授の齊藤誠一(さいとうせいいち)さん。開発したのは宇宙から魚の居場所を見つけるシステムです。

齊藤誠一さんのいうスマート漁業の舞台は北海道・函館。函館は古くからスルメイカ漁が盛んな猟師町です。そもそも漁師たちはどのようにして漁場を探しているのでしょうか?

ポイントは海水温潮流。魚は種類によって生息する水温が違います。また海流がぶつかる場所には魚のエサとなるプランクトンが運ばれます。そのような条件を満たす場所を漁師たちは長年の経験と勘を働かせて探します。

スルメイカ漁は船に明かりをともし、光に集まるイカの習性を利用して釣り上げます。電気を一晩中つけているため燃料を大量に使います。不漁が続くと操業しない方がマシだと海に出ない漁師も珍しくありません。

それはイカだけではありません。不漁になればいろいろな海産物の小売価格は上がり庶民の懐を直撃します。

そこで齊藤誠一さんが開発したのが宇宙から魚の居場所を探すシステム。それは衛星から送られる海洋データをもとに魚が集まる漁場を予測するというもの。天気予報ならぬ「お魚予報」です。

必要なのは水温植物プランクトンの量潮の流れ。まず衛星が海水温、潮の流れ、プランクトンの量を観測。それらのデータを重ね合わせることで浮かび上がってくるのが海の中の天気図。この図をもとに魚が集まる漁場を割り出すことができる。

齊藤誠一さんのお魚予報は漁業関係者から熱い視線を向けられています。

豊かな海の幸に恵まれてきた函館ですが、最近は漁師を目指す若者が減る一方。齊藤誠一さんはお魚予報で漁業の現状を変えたいと考えています。

齊藤誠一さんは大学院時代、宇宙から衛星を使って海洋環境を調べる研究に没頭しました。

ある時、齊藤誠一さんは人生を変える1枚の衛星写真と出合いました。そこに写し出されていたのは海の上に輝く不思議な光でした。それは操業中のサンマ漁船が放つ光。それを見て齊藤誠一さんは「漁船の位置と海洋情報を照らし合わせればサンマが獲れる場所があらかじめ予測できるはずだ」と思いました。齊藤誠一さんは漁場を予測するシステムを開発。この発明に多くの企業が可能性を感じ出資を申し出ました。

順風満帆の船出に思われましたが、漁場予測を使った漁師たちから思いもよらない声が上がりました。それは「魚なんかいない」「まったく使えない」というものでした。気がつけば全ての出資企業が撤退。それでも齊藤誠一さんは諦めませんでした。

齊藤誠一さんは改善策を模索し研究を続けました。そんな時、齊藤誠一さんのもとに飛び込んできたのが猟師町・八戸からのSOSでした。

八戸を支えているアカイカ漁ですが2010年、アカイカ漁がかつてない不漁にみまわれました。いつもの漁場でアカイカが全く獲れなくなったのです。八戸の漁師たちは「イカが獲れるならどんな情報でも欲しい」と齊藤誠一さんに言いました。

漁師たちの切実な声を聞き齊藤誠一さんは気づきました。これまで齊藤誠一さんは衛星写真から見た船の位置だけで漁場が予測できると信じていましたが、船の位置だけではどれだけ魚が獲れたか分からないと気づいたのです。

そこで齊藤誠一さんは漁師にとって企業秘密とも言える「どこでどれだけイカが獲れたか」の情報を求めました。それは漁師にとっては誰もが他人に教えたくない情報です。しかし、漁師たちは協力してくれました。

それから2年間、イカが獲れた時、獲れなかった時、その全てのデータをまとめて海洋データに重ね合わせました。するとアカイカの漁場が浮かび上がってきたのです。それは最大5日先の漁場まで予測できる画期的なお魚予報です。

2012年夏、齊藤誠一さんは祈るような思いでアカイカ漁の船を見送りました。1ヵ月後、船が八戸の港に帰ってきました。水揚げされたアカイカは大漁でした。齊藤誠一さんのお魚予報によって漁場を探す手間がはぶけ、燃料費も1割以上削減できたと言います。

日本の食卓に欠かせない魚。おさかな予報はきっと漁業の未来を明るく照らしてくれます。

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