植物 生き残り大作戦|地球ドラマチック

熱泉に耐えろ!

地球上のあらゆる場所に植物は生育しています。火山地帯、砂漠地帯、川の河口、寒冷地帯、そして都会まで。植物は動くことができませんが、代わりに様々な生殖方法を編み出し、過酷な場所でも根をはれるよう進化を重ねてきました。

 

約4億6000万年前、植物が陸上に登場し始めた頃の地球は酸性で高温の温泉に覆われていました。過酷な暑さにも関わらず植物が育っています。ダイカンテリウムの根には菌類が生息しています。ダイカンテリウムは根に生息する菌類の力を借りることで、高温に耐えていることが研究によって明らかになりました。温泉の近くに生育する植物の根は地表を這うように伸びます。酸素を最大限とりこむ為です。有害物質にさらされても生き延びることができます。

 

寒さも平気!

植物は太陽の光エネルギーを使って炭水化物を合成します。これを光合成と言います。藻類は地球に生命が誕生した頃に現れた最初の植物で、水中で光合成を行います。温度が下がると藻類は寒さで凍らないように光合成によって炭水化物を生成します。中には微生物に飲み込まれることで、厳しい寒さから身を守るものもいます。

 

みんなで乗り切れ!

グリーンランドに近いスピッツベルゲン島では、短い夏の間は24時間太陽が沈みません。雪が解けたむき出しの大地には養分はほとんどないため、育つ植物は限られ生育する密度もまばらです。寒く不毛な大地で生き延びる鍵はグループを作ること、つまり群生することです。植物はそうして過酷な環境にも定着してきました。

 

ここには100年以上生き延びている植物もいます。植物が群生するのには2つの意味があります。1つは風や寒さに耐えられるということ。2つ目は枯れて養分になるということです。植物は枯れると土となり次に育つ植物に養分として受け継がれます。

 

毛で身を守る

シオガマギクの仲間の中にはフワフワの毛で寒さをしのぐものがあります。細かい毛は断熱材の役割と共に、有害な紫外線を遮る役割も果たします。エーデルワイスの仲間など、多くの植物が寒さにじかに晒されることを避けています。

 

一方、砂漠に生育するサボテンなどの植物もこのテクニックを使って熱から体を守ります。毛は水をせきとめる役割も果たします。水滴を受け止めやすいようにイカリのような形をしている毛もあります。毛の形はそれぞれ周囲の環境に完璧に適応しています。

 

不毛の地も平気

切り立った崖にも植物は生育しています。地衣類は一部がバラバラになることで増殖します。1平方センチメートル広がるのに約50年かかります。地衣類は藻類と菌類が結びついた共生体です。菌類は水分とミネラルと住処を、藻類はエネルギーをもたらすことでお互いを支えあっています。

 

虫大好き!食虫植物

養分の乏しい環境で生き抜くため、別の解決策を編み出した植物もあります。ハエトリグサが自生しているのは、アメリカ南東部のノースカロライナ州とサウスカロライナ州の州境だけです。面積にして40平方キロメートルほどのエリアです。

 

ハエトリグサは食虫植物の仲間で、葉が罠を仕掛けるための特殊な形に進化しています。食虫植物は約5000万年前に偶然誕生しました。植物の進化史上における突然変異です。

 

栄養の乏しい環境に育つ植物が突然変異によって特有の進化をとげ昆虫を捕まえられるようになり、昆虫から栄養を直接摂取できるようになったのです。食虫植物には筋肉も神経もありません。どのようにして昆虫を捕まえるのでしょうか。

 

ハエトリグサは蓄えた水のエネルギーを利用しています。水を一気に送り出すことで罠を閉じ、再び水を蓄えて罠を仕掛け直します。葉を閉じるための水は罠の蝶番の部分の細胞に蓄えられています。小さな毛は罠を作動させる引き金です。獲物が20秒以内に2回毛に触れると葉が素早く閉じます。毛を1回だけつついても何も起こりません。また毛は雨が当たっても反応しません。

 

ハエトリグサの罠は獲物を捕まえる口の役割と共に胃の役割も果たします。酵素を出して獲物をドロドロに溶かすのです。食虫植物は獲物の肉しか消化しません。そのため、後には昆虫の外側の部分だけがそのまま残されます。ハエトリグサが獲物を完全に消化するのには3~5日かかります。ハエトリグサの罠は3~4回獲物を捕らえた後は黒くしなびてしまいます。

 

武器はネバネバ

食虫植物の多くは沼地に生えています。モウセンゴケは食虫植物の中でも最も原始的なものの一つです。ネバネバした罠から、より複雑な罠まで、食虫植物は少なくとも5~6回大きな進化を遂げてきました。つまり、モウセンゴケは原始的な食虫植物であり、そこからアジアに生息するウツボカズラやハエトリグサが進化したということです。

 

原始的とはいえモウセンゴケのネバネバした罠は非常に効果的です。強力な粘液が含まれる玉は、露にようにきらめき昆虫を惹きつけます。一度くっつくと逃げ出すことは出来ません。捕らえられた昆虫は酵素によって分解されていきます。

 

武器はツルツル

より進化した食虫植物の中にツボのような葉をつける種があります。様々な方法で昆虫をひきつけたり捕えたり消化したりします。サラセニアには下を向いた毛が生えています。昆虫はこの毛を滑るようにツボの中に落ちとらわれます。

 

サラセニアの袋の内側はきめ細かなロウのような物質で覆われています。そのため昆虫は滑り台を滑るように袋の底に滑り落ち消化されるのです。毛の代わりに小さなタイルのようなものを並べて、昆虫を捕まえやすくしているものもあります。食虫植物は、獲物の大きさや種類に合わせて様々に進化をとげてきました。

 

水中の食虫植物

沼地に生息する食虫植物は500種類以上。中には水中に生育しているものもいます。タヌキモの仲間です。タヌキモの仲間は袋状の罠を使って動物性プランクトンを捕まえます。袋には弁があり、一秒の100分の1程の速さで閉じます。捕まえると地上の食虫植物と同じように消化液を出して獲物を溶かし栄養を吸収します。

 

一方、タヌキモの仲間が自分よりも小さい原生動物の力を借りて獲物を分解してもらっているという説もあります。この説によると、タヌキモの仲間は獲物を与えることで原生動物を養い、原生動物はタヌキモの仲間が消化できるように獲物を分解し提供していると言います。本当であればミクロの世界での共生関係です。

 

葉の役割

生きるために葉を使って昆虫を捕まえる植物もあれば、水を捕まえる植物もあります。木の上に生息するチランジアは、雨水から水を得ています。葉の表面を覆う小さなカップで水を受け止めます。根を持たないチランジアは根で水を吸い上げる代わりに、カップで捕らえた雨水を蓄え、必要な水分やミネラルを吸収します。周囲の環境に適応するための方法です。

 

一方、オジギソウは雨や天敵を避けるために葉を閉じます。葉が水滴などで刺激されると葉の付け根にある赤く膨れた部分がエアバッグのように反応して葉を閉ざすのです。

 

進化する葉脈

植物の葉には葉脈が張り巡らされています。葉脈の形状は人間の指紋のようにそれぞれ異なります。イチョウは地球で最も古くからある植物の一つです。イチョウの葉脈はとても原始的な形状をしています。今ではほとんどの植物がより複雑で機能的な葉脈を持っています。

 

約2億年前、イチョウは地球の陸地の大半を覆うほど広く生育していました。しかし、より効果的に光合成をすることができる他の植物に打ち負かされていったのです。イチョウの葉脈は原始的で真っ直ぐにしか伸びていないため、葉に穴が開くと傷ついた部分から先に水分を届けることができません。そのため葉の一部が死んでしまいます。

 

一方、より進化した植物の場合、葉脈は網目状になっているため水分は傷ついた部分を迂回して葉全体に運ばれます。これは植物が傷ついた場合でも生き残るためにとってきた秘策なのです。この網目状の葉脈によって効率的に水や養分を運び、あらゆる状況に適応することができるようになりました。

 

子孫を残せ!

植物は進化の結果、独創的な生殖行動をとるようになりました。自分で動かなくても、あらゆる環境に生育地を広げることが可能になりました。植物の生殖には3つの方法があります。

 

  1. 体の一部から新しい個体を作り出す「栄養生殖」
  2. 自分の花粉を受粉させる「自家受粉」
  3. 花粉を飛ばすことで遠くにいる相手と受粉する「他家受粉」

 

精細胞は花粉という入れ物で守られ。、花から花へ昆虫や鳥・動物などの力を借りて運ばれます。自分自身で花粉を運べないなら誰かの力を借りる他ありません。植物は運んでもらう報酬として花の蜜を提供します。

 

厳しい自然条件のもとでも花粉は数日間生き延びます。内部の水分を保つ力があるからです。花粉は折り紙のように折りたたんで中を密閉し、長い距離を移動しても水分が失われないようにしているのです。

 

スミレは1m以上、種を飛ばすことができます。キュウリの仲間には10m近く種を飛ばすものもいます。種が生き延びるためには親から離れる必要があります。距離が近すぎると光と水を奪い合うことになり成長しにくくなってしまうからです。

 

キンミズヒキの仲間やゴボウの仲間は、動物に運んでもらうため、ある策を講じました。電子顕微鏡で見ると種の先端が鍵づめのようになっています。種が動物の毛にくっつきやすくなっているのです。一方、オランダフウロの仲間は尾を回転させながら種を地面にねじ込みます。タンポポは、より確実な方法で種を飛ばします。動物などをあてにしていたら環境によって運命を左右されてしまいますが、風はたいてい吹くからです。強い風が吹けば種をはるか遠くへ運んでくれます。

 

多くの植物が風を使って種を飛ばしますが、風に乗る方法は様々なです。パラシュートのようなものもあればヘリコプターのようなものもあります。植物は種や花粉を分散させることで生育地を広げてきました。行きつく先が都市であっても同じことです。

 

ニューヨークには、アメリカ北東部に生育する植物の種類の55%が確認されています。ロンドンではイギリス全土の60%です。ひっそりとたくましく、植物は都市に根付いているのです。

 

有害物質で侵略

遥か遠くからやってくる植物もいます。飛行機や船に乗ってやってくるのです。グローバル化によって、植物はそれまで到達できなかった地域にまで生育地を広げるようになりました。

 

ヨーロッパでは、イタドリはもとからの植物の生態系に影響を与える典型的な侵略的外来種です。イタドリの地下茎は、とても丈夫で成長が速く、1年に数メートルも伸びます。また、地下茎の一部からでも新しい株が育ちます。さらに、イタドリは他の植物にとって有害な物質を土の中に分泌します。もとからある植物は有害物質に侵され成長が遅くなります。その間にイタドリがとってかわるのです。

 

日本では周囲の植物が時間をかけてイタドリの有害物質に適応してきました。イタドリは自然界の敵が少ない都市部で急速に増えています。さらに、他の侵略的外来種との結びつきも確認されています。ヨーロッパで問題となっている侵略的外来植物はイタドリだけではありません。中にはニワウルシのように巨大に育つものもいます。ニワウルシの木は高さ30mに達し、枝もどんどん広がります。しかし、ニワウルシの最大の特徴は他の植物や昆虫、菌類、バクテリア、ウイルスなどを殺す様々な有害物質を持っていることです。

 

都市に進出

植物はどれもその美しさで人間を魅了します。緑に飢えている都市部の人は、植物が都市に根付くのを手助けしています。都市に植物を増やそうと活動している人々がいます。無機質なコンクリートの壁にも花を咲かせようとしているのです。看板や車にまで花を咲かせ、緑だらけにしようとしています。

 

植物は壁やコンクリートに生えることはありますが、アスファルトに定着することはありませんでした。しかし、それを実現させようとしている人たちがいます。

 

緑の壁は空気を浄化します。空気と水、植物、そしてバクテリアを含んだ土があれば作ることができます。二酸化炭素は植物に取り込まれます。このたぐいまれな能力が人々が植物を都市に根付かせようとする理由です。ニューヨークでは屋根が植物に覆われたバスが走っています。

 

INVISIBLE NATURE COLONISING PLANTS
(フランス 2012年)

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