オキシトシン~愛を操る神秘のホルモン~|サイエンスZERO

NHK・Eテレの「サイエンスZERO(サイエンスゼロ)」で心と体を支配する!神秘のホルモン②~オキシトシン~が放送されました。人と人との絆はある化学物質によって操られています。その物質とはホルモンの一種オキシトシン。オキシトシンが脳に作用し私たちの人間関係に影響を与えていることが最新研究から分かってきました。

 

スイスのチューリヒ大学では男女のカップルを集めてある実験を行っています。実験に使うのがオキシトシン・スプレー。オキシトシンは鼻から吸うと脳にまで届きます。オキシトシンがカップルの行動にどんな影響を与えるか調べようというものです。50組のカップルを2つのグループに分け、一方はオキシトシンなし、もう一方はオキシトシンを吸った後で実験を行います。実験では現在2人が抱えている問題について真剣に話し合ってもらいます。その様子を研究者が別室で見守ります。目を合わせる、相手に触れる、理解を示す発言など愛情は感じさせる言動は+ポイント。逆に意見の相違や攻撃的な発言、相手を侮辱する言動などは-ポイントとします。こうした実験を50組のカップルで行ったところ、オキシトシンを吸わなかった半数のカップルは平均点がマイナスでしたが、オキシトシンを吸った半数のカップルは平均点がプラスになりました。

 

チューリヒ大学のベアーテ・ディッツェン博士によるとオキシトシンは脳に作用して人間同士の心の交流を深める働きがあると言います。カップルや家族を結びつける生物としての根源的な仕組みだと言えるのです。

 

ドイツのマックスプランク研究所で2年前、オキシトシンについて大発見がありました。それまでオキシトシン細胞は体の中に向けてだけオキシトシンを放出していると考えられていましたが、脳にもオキシトシンを放出していることが分かったのです。脳に放出されたオキシトシンはどこでどんな働きをしているのでしょうか?その答えを教えてくれたのはハタネズミ。山に住む山岳ハタネズミのオスとメスはいつも別行動でペアを作ることはありません。しかし平原に住む平原ハタネズミはオスとメスはいつも一緒で生涯同じ相手と添い遂げるという全く違う習性があります。子育てもオスとメスが協力し合って行い、夫婦や家族間の強い愛着行動が特徴的です。この2種類のハタネズミは同じ種なのに何故こんなに違うのでしょうか?エモリー大学のラリー・ヤング博士は2種類のハタネズミの脳を徹底的に調べました。すると山岳ハタネズミに比べ平原ハタネズミの脳では側座核と呼ばれる場所に多くのオキシトシン受容体が集中していることが分かりました。側座核は脳の「報酬系」と呼ばれる部位で、ここにオキシトシンが作用すると神経細胞が興奮し相手に対して執着を持つようになるのです。

 

最近、ドイツのボン大学で興味深い研究が行われました。実験に参加したのは既婚男性30人で、独身女性に近づいてもらい、違和感を感じる距離を測定する実験です。15人の男性の平均は55cmでした。残りの15人にはオキシトシンを吸ってもらい同じ実験を行いました。結果は平均70cmになりました。レネ・ハールマン博士によると、男性はふつう魅力的な女性にアプローチしようとするものですが、すでにパートナーがいる場合オキシトシンがその行動意欲を奪うのだと言います。オキシトシンは「仲間」と「部外者」を見分ける作用を握っているのです。これは記憶を司る海馬が関わっていると考えられています。常日頃放出されるオキシトシンは海馬にも届いています。そして配偶者や恋人との愛情の記憶を日々脳に深く刻み付けているのです。吸い込んだオキシトシンによってパートナーへの愛情の記憶が呼び覚まされ、これが他の女性に対する脳の興奮を抑え女性を遠ざけようとしたと考えられるのです。

 

スウェーデンにあるカロリンスカ研究所にはスウェーデン国民30万人分の遺伝子情報が保管されています。2年前、この遺伝子バングを使って行われたある調査に世界の注目が集まっています。解析されたのはオキシトシンに関わる10種類ほどの遺伝子。実はこれらの遺伝子がある特定のタイプだとオキシトシンやそれを受け取る受容体が減ることが分かっています。調査の結果、こうしたオキシトシンの働きが弱い遺伝子タイプを一つ以上持つ人が全体の4割を占めていたのです。調査を行ったハッセ・ワラム博士は生まれつきこの遺伝子タイプを持つ既婚者に対し夫婦生活に関するアンケート調査を行いました。その結果、夫婦生活の満足度や夫婦の協調性などの項目で、この遺伝子タイプを持つ人の方がいずれもポイントが低いことが分かりました。さらに過去1年間で離婚の危機があった人もこの遺伝子タイプを持つ人の方が5%多かったのです。オキシトシンや受容体が少ない人は人間関係を重視しない傾向があります。社会的な交流が苦手な場合も多いのかもしれません。

 

オキシトシンを増やす方法を研究しているのがクレアモント大学のポール・ザック博士。博士はいろんな行動をした前後で血液中のオキシトシンがどれだけ増えるか調べています。その結果、オキシトシンが増えたのがハグ、相手の目を見る、相手の立場や気持ちを想像する、スポーツやゲームなど一緒に何かをする、映画や本で感動するなど。人間は動物と違って自らホルモンの働きを変え、なりたい自分になることが出来るのです。