ビーバー大活躍!よみがえる水辺|地球ドラマチック

北アメリカやヨーロッパの森林地帯に生息するビーバーは、近年科学的な調査によって森の生態系にとって重要な存在であることが分かってきました。かつて厄介者として嫌われていたビーバーが、特殊な能力のおかげでヒーローとして見直されようとしています。

 

 

泳ぎの達人

ビーバーはげっ歯類というネズミの仲間で、成長すると体長は1m以上にもなります。森に生息し皮などを食べ、水辺に巣でもあるダムを作ります。

 

ビーバーは水中での生活に適した身体をしています。後ろ足には水かきがあり、水中を自在に泳ぐことが出来ます。鼻と目と耳は水面から出るように頭の上の方についています。まるで潜水艇のように水に潜り、鼻と耳の弁が閉じ目には透明な膜がはり水中眼鏡のように目を保護します。大きくて平たい尾をヒレのように動かし素早く移動します。

 

ビーバーは水をせきとめてダムを作り、周囲の環境を自分たちのために作りかえます。このように環境を変える能力は、人間以外の動物には滅多にみられません。

 

北米 絶滅の危機も

北アメリカの開拓が始まった頃、ビーバーはいたるところにいました。熱心にダムを作って川の水をせき止めるビーバーは勤勉さの象徴でした。

 

やがて、ビーバーの毛皮で作った帽子が大流行し、19世紀には乱獲され絶滅寸前に追いこまれました。

 

その後、毛皮の需要が減りビーバーは再び増え始めましたが、問題も生じました。ビーバーが築くダムによって洪水が起きたのです。

 

農場ではやっかい者

カナダのサスカチュワン州の農場では、ビーバーは厄介者です。ここではビーバーを捕獲すると報奨金を貰えます。ビーバーのダムを壊すため爆薬も使われます。

 

しかし、捕獲して数を減らしダイナマイトでダムを破壊しても、その場しのぎにしかなりません。

 

水をためる天才

ビーバーが水をせきとめるのは動物としての習性です。そして実は、この珍しい習性にこそ人とビーバーが共に生きるためのカギがあることが分かってきました。

 

カナダのエルクアイランド国立公園では、19世紀の半ばにビーバーは一匹残らず捕獲されました。新たにビーバーが放されたのは1941年です。国立公園には詳細な記録が残されています。ビーバーが棲みついた池の変化を公園のスタッフが観察し地図に書き記していたのです。

 

54年分の記録を分析した結果、興味深い事実が浮かび上がりました。ビーバーが活発に活動している池は、ビーバーがいない池に比べて9倍の量の水を蓄えていることが分かったのです。

 

ビーバーの数が増えたことで、エルクアイランド国立公園には豊かな湿地帯が広がりました。ビーバーが活動する池の底には深い溝が沢山あり、複雑に入り組んでいます。池は深いほど多くの水を蓄えられます。つまり、ビーバーは自分たちに好都合な深さになるまで池の底を掘り続け、周辺からより多くの水を取り込んでいるのです。

 

ビーバーのダム作りは、材料の枝を集めることから始まります。そして、小さな枝をひとまとめにして泥でかためます。こうして丹念に作られたビーバーのダムは、水をせきとめ小さな小川を巨大な貯水池に変えるのです。

 

よみがえる小川

アメリカ・ネバダ州エルコは、200年前にはビーバーの住む湖や湿地が沢山ありました。しかし、乱獲と牧畜業の広まりによってビーバーと水辺は姿を消しました。

 

再び緑溢れる土地にするため、アメリカ農務省林野局のスザンヌ・ファウティーさんはビーバーの力を借りようと考えています。ビーバーたちはダムを作ってせっせと水を溜め自分だけでなく、あらゆる生き物に水を提供してくれるのです。

 

大迷惑!ビーバーダム

ビーバーを好きになるか嫌いになるかは立場によって異なります。

 

ビーバーは常にダム作りに励みます。そこがたまたま排水溝だったら大問題が起こるのです。しかし、中にはビーバーの習性をいかして人間との共存に成功している場所もあります。

 

共存は可能か?

カナダのガティノー公園は、北アメリカでも有数のビーバーの生息地です。ガティノー公園管理事務所のミシェル・ルクレールは、30年前からビーバーのダム対策に知恵をしぼってきました。

 

最大の問題は道路の冠水です。ビーバーのダムが水をせきとめ水圧が強くなりすぎると、突然ダムが決壊し大量の水で道路が冠水し通れなくなってしまうのです。

 

かつては、ダムを破壊する以外に対策はありませんでした。しかし、一晩のうちにビーバーがダムを修復していることも度々ありました。

 

公園内の水辺に罠を仕掛け、年に1000匹のビーバーを駆除した年もありました。しかし、捕獲作戦は効果がありませんでした。ビーバーを駆除しても、すぐに別のビーバーが入り込んできたからです。

 

発見!音に反応

ある時、ルクレールは実験によってビーバーの面白い習性を発見しました。ビーバーのダムの真上に水の流れる音が出るCDプレーヤーを置くと、翌朝CDプレーヤーは泥に埋もれていました。ビーバーは水の流れる音を聞くと枝や泥でダムを作るのです。一体なぜでしょうか?

 

水が音を立てているということは、沢山の水が流れ出していることを意味します。水が流れ出し池の水位が下がると、天敵のクマやコヨーテなどに狙われやすくなります。そのことがビーバーを慌てさせるのかもしれません。

 

ダム被害〝音″で解決

ルクレールは、ビーバーの水の音に反応する習性を利用してダムを作る場所を変えさせようと考えました。

 

そして、排水溝から5m程離れた場所に杭を何本か立てて水の音がするようにしました。結果は大成功。ビーバーは杭のそばにダムを作り、排水溝がつまることはなくなりました。

 

サケの川を取り戻せ

アメリカのカスケード山脈では、ビーバーを環境保全に役立てようという試みが始まっています。若い科学者たちが中心になり、ビーバーを別の地域から連れてきて水辺の自然を豊かにしようとしているのです。

 

サケの孵化場もこのプロジェクトに期待しています。魚の孵化には山からの冷たいキレイな水が欠かせません。しかし、ビーバーの数が減るにつれ、そうした川が減っています。

 

まずはビーバーのつがいを作らなくてはいけません。到着したビーバーは3週間水槽で過ごし、その後自然の水辺に放されます。これまでに森の26か所でビーバーのつがいを放しましたが、用意した巣にとどまったケースは50%以下です。ビーバーを定着させるのは簡単ではないのです。

 

ビーバーが活躍する水辺では、水が浄化され周辺の生態系が豊かになります。しかし、ビーバーだけで破壊された環境を修復することは不可能です。

 

ビーバーは洪水を引き起こす厄介者か、それとも自然環境を守るヒーローか。それを決めるのは人間の知恵と工夫次第です。

 

The Beaver Whisperers
(カナダ 2013年)

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