老人漂流社会 親子共倒れを防げ|NHKスペシャル

今、働き盛りの世代が高齢の親の収入に頼って同居するケースが増えています。国は親と同居する中年の子供の数を調査しました。1980年には39万人だったのが、今では305万人に増えています。こうした人たちの失業率は10.4%と同世代の平均の2倍以上になることも分かりました。

 

 

北海道札幌市はバブル崩壊以降、就職難が続き若者が仕事を求めて東京や大阪などに流出してきました。古い団地が立ち並び高齢化が急速に進む厚別区は、これまでにない事態が起きています。仕事を失った中高年の子供が親を頼って戻り始めているのです。

 

安田義昭さん(80歳)は45歳の息子が戻ってきたため生活が苦しくなりました。高校卒業後、親元を離れ職を転々としていた安田昭男さん(45歳)は勤め先をリストラされ去年の12月、父親と同居を始めました。食べていくだけでやっとの暮らしです。今、昭男さんは荷物を運搬する日払いの仕事をしていますが不定期で収入は安定しません。

 

息子と同居する前、義昭さんは月9万5000円の年金だけでは余裕がなく生活保護で家賃や医療費の免除を受けていました。しかし、息子が戻ってきたことで状況は一変。生活保護の打ち切りが決まったのです。

 

働く世代の子供と同居していると生活保護は原則受けられません。生活保護が廃止されたことで免除されていた家賃や医療費を負担しなければならなくなりました。新たに増えた負担は合わせて3万円。市営住宅の家賃2万円は4月から滞納していると言います。

 

義昭さんは定年までタクシー運転手をしていました。妻と離婚し男手一つで息子を育てあげ、老後は息子がいれば心配ないと思っていました。4年前に脳梗塞を患った義昭さんは再発を防ぐために血圧を下げる薬を毎日飲む必要があります。医療費は1ヶ月3000円ですが支払う余裕はありません。昭男さんが同居を決めたのは失業だけが理由ではなく、父親の体調を心配したからです。

 

家族4人で暮らす掛川幸子さん(66歳)の夫婦の年金は合わせて月12万円。夫の善治さん(69歳)は定年後も働き続け、30代の子供2人を養っています。共働きで子供たちを育てあげ、子供が自立した後は穏やかな老後が待っていると思っていました。しかし、30代後半になった2人の子供は結婚せず非正規の仕事をしています。

 

娘の真由美さん(36歳)はスーパーで午前中だけアルバイトをしています。一人暮らしをする経済的余裕はなく親元を離れることはできません。37歳の息子は東京で失業した後、親元に戻り今は新聞配達をしています。いつまで今の仕事を続けられるか分からない子供たち。収入が絶たれれば親の負担は大きくなります。

 

国は2015年4月、生活困窮者自立支援制度をスタートさせました。全国各地の自治体で中高年も対象に、これまで行き届かなかった就労支援などをすすめています。しかし、こうした対策は始まったばかりで現状に追いついていません。待ったなしの対応が迫られる福祉の現場では模索が続いています。

 

地域包括支援センターで親子が同居したままでは救済できず命に関わる恐れがある場合に行っているのが世帯分離という手段です。働ける年齢の子供と同居していると、子供の収入が少なく生活が厳しくても生活保護はなかなか受けられません。そこで、親に高齢者施設などに移ってもらい親子の世帯を分離。働くことが難しく収入も見込めない高齢者の場合は生活保護を受けられます。一方、子供には就労支援をして自立を促すのです。

 

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