ヘンデルの「ハレルヤ・コーラス」|ららら♪クラシック

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルは、ドイツ生まれでイタリア・オペラの巨匠、そしてイタリアの国民的作曲家。芸術家というより、国際的なやり手ビジネスマンエンターテイナーでした。フリーランスの作曲家として巧みに立ち回り、ロンドンのショービズ界を築いた型破りな男です。

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル

音楽で億万長者!ヘンデルのビジネス・スキル

バロック時代の音楽家たちは、宮廷や教会に所属するのが普通でした。しかし、ヘンデルは全く違う方法で稼ぎ、億万長者になった勝ち組音楽家なのです。

抜群の行動力

ヘンデルはドイツのハレで生まれ、外科医の父に逆らって子供の頃から音楽家を目指しました。18歳でオペラ作曲家になるため家を飛び出しました。向かった先はハンブルク。歌劇場に潜り込んでオペラのイロハを徹底的に学び、作曲家として独り立ちしました。

しかし、3作つくったところでさらなる上を目指しオペラの本場イタリアへ。社交界に潜り込んだヘンデルは4人もの貴族から援助をとりつけ、本場の技術を身に着けました。

3年がかりで完成したオペラは大ヒット。27回連続公演というイタリアで前例のない成功をおさめました。しかし、この程度でヘンデルは満足しませんでした。

イタリアで成功するというよりは、もっとビッグなどこかの大きな国だとか、そういう仕事を求めていたんじゃないかと思っています。(ヘンデル研究家 三ヶ尻正さん)

鋭い嗅覚

ヘンデルのビジネスの嗅覚がとらえたのはロンドン。当時、世界一の経済都市でしたが文化はまだ発展途上でした。劇場はイタリア・オペラを上演したいのに、いい作曲家がいないという状況でした。

25歳のヘンデルはそこに乗り込み、すぐさま作曲家として雇われました。2週間で新作オペラを書き上げ、上演は全て満員御礼。イギリスデビューも大成功をおさめたのです。

柔軟な社交性

ヘンデルはフリーランスの作曲家であることを貫きました。売れると見極めれば政治や思想など関係なく何でも手掛けました。

ある時は王様の依頼で舟遊びのBGMを作曲。一方で王室への批判を込めて、反体制派が企画したオペラにも作曲。行動力、嗅覚、社交性、優秀な音楽家というだけでなくビジネススキルを持ったヘンデルだからロンドンで花開くことができたのです。

単なる音楽家ではない、ビジネスマンでもあり、芸術に関することは審美眼があってしかし、すごく毒舌で金儲けもぬかりなく、でも慈善活動もする。大食漢で美食家でワインも飲んで人生も楽しむ。(ヘンデル研究家 三ヶ尻正さん)

こうしてヘンデルはロンドンで37本の新作オペラを書き上げ、30年に渡ってオペラ界に君臨したのです。

骨の髄までエンターテイナー

ロンドンオペラ界のトップを走り続けて30年、ヘンデル56歳の頃、オペラブームは去り歌劇場から客足が遠のきつつありました。

オペラに未来はないと思ったヘンデルは潔く引退を決意。しかし、転んではただでは起きないのがヘンデル。実は10年近く前から新たな音楽ビジネスとして次の一手を計画していたのです。

それはオラトリオ。オペラのような演技や舞台装置はなく音楽だけで物語をかたる音楽劇です。その渾身の一作こそが「ハレルヤ・コーラス」を含むオラトリオ「メサイア」です。

選んだ題材はイエス・キリストの生涯。イギリス人なら子供から大人まで誰もが知っている物語です。

キリストの誕生を爽やかな女性合唱で祝福。人々を救う救う姿は落ち着いたアルトの歌声で表現。十字架にかけられやがて復活する奇跡を壮大な合唱で歌い上げました。全曲通すと2時間半。美しい音楽が次々とあらわれる一大エンターテインメント作品に仕上げたのです。

オラトリオは、もともとイタリアで出来た音楽でイタリア語ときどきラテン語で、それまでのオラトリオは小さい作品が多く数人のソリストだけで室内楽で演奏するのがオラトリオだった。それをヘンデルがソリスト数人に大合唱、大オーケストラをつけて、オペラと同じように三部構成の長い作品として作った。ヘンデルはオペラとオラトリオを融合させて、新しいスタイルのオラトリオを作った。(ヘンデル研究家 三ヶ尻正さん)

「メサイア」は大ヒット。その理由は老若男女誰もが楽しめる題材。歌詞は英語、そしてオペラより格段に安い入場料。家族みんなで楽しめる新しい娯楽として大成功をおさめたのです。

その後、16年間で23作ものオラトリオを上映。その中には「見よ勇者は帰る」という有名曲も。この曲を聴いた友人は「音楽的にはたいした曲じゃないね」と言いました。それに対しヘンデルは…

「私もそう思う。でもきっと聴衆にウケると思う」

と答えました。

ヘンデルはいい曲である、音楽家としてすばらしい曲であることと、聴衆に受ける曲との違いをしっかり理解していたんだと思います。(ヘンデル研究家 三ヶ尻正さん)

芸術よりも大衆にうける音楽を。それがヘンデルの哲学でした。

「ららら♪クラシック」
ヘンデルの「ハレルヤ・コーラス」
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