1995年7月30日、事件当日のスーパーナンペイは混んでいました。その日はセール最終日とあって特に盛況だったのです。しかも、週末で銀行が開いていないため店には3日分の売り上げが集まっていました。
午後4時46分、やってきたのは夏休みに入ったばかりの女子高生・矢吹恵(やぶきめぐみ)さん(17歳)その2分後、パート従業員の稲垣則子(いながきのりこ)さん(47歳)が友人の村上さんに送られて来ました。パート終了後に馴染みの飲食店へ行く約束をして2人は別れました。
早番の従業員と交代して矢吹さんと稲垣さんが働き始めたのは夕方5時。この時点で、従業員は2人だけになっていました。
午後6時30分、スーパーナンペイのわきの公園で盆踊り大会が始まりました。なぜ犯人は人手の多いこの日を選んだのでしょうか?
午後7時、アルバイトの女子高生・前田寛美さん(16歳)が店に顔を出しました。彼女が店を訪ねたのはシフトの確認と友人の矢吹さんに会うためでした。その楽し気な様子を客が目撃しています。
午後8時、稲垣さんは1台のレジを締め、現金の入ったトレーを抜き2階の事務所へと向かいました。ナンペイの建物は、人目に触れる外階段を利用しなければ事務所に入れない構造でした。さらに、事務所の鍵は普段から施錠されておらず、この日も開いたままだったと言います。売上金は金庫の中へ。
午後8時53分、高校生の2人は店内で買い物をしていたことがレジの記録で分かっています。8時56分、最後の買い物客が店を出ました。閉店したのは9時6分。近隣住民が明かりが消えるところを目撃しています。
3人は事務所へ上がると残りの売上金をしまい金庫を締めました。これで全ての業務は終わりです。稲垣さんは約束通り友人へ電話をかけました。通話記録から判明している時刻は9時15分。友人の村上さんが店舗わきの駐車場に着いたのは9時20分でした。
そのまま稲垣さんが出てくるのを待ちましたが、なかなか出てこず、女性が中で着替えている可能性も考え村上さんは9時44分に一度店舗を離れました。そして10時に行く予定だった店の女将を連れて再びナンペイへ。2人で2階事務所へ。ドアの鍵は開いたままでした。村上さんは第一発見者となりました。
事件現場の様子
女子高生2人は、入り口から6メートルの位置で寄り添うように亡くなっていました。背中にはリュックサックを背負っていました。お互いの手は粘着テープで繋がれていました。前田さんの手には自転車の鍵が。一方、稲垣さんはなぜか一人壁にもたれるようにこと切れていました。
3人は一度事務所を出ました。9時15分に稲垣さんがセキュリティシステムを起動させたことが分かっているからです。しかし、そこで迫る犯人に3人は事務所に押し戻されたとみられています。根拠は防犯システムの履歴にありました。解除されたのは9時16分。出たばかりの3人が押し戻された証拠でした。
捜査員によれば、室内には被害者の足跡が多く残っていた場所があると言います。それが右奥のスペース。3人は犯人から逃げるように事務所奥へと移動したと考えられます。追い詰められた先が右奥だと考えると、色濃く残った足跡が理解できると言います。金庫には1発撃たれた跡が残っています。そして、跳ね返った弾は事務机の下から見つかっています。
女子高生2人の口には粘着テープが巻かれていました。そのテープには犯人ではなく女子高生たちの指紋が残っていました。犯人は、2人に互いを縛り合うように指示したとみられます。また、手の粘着テープには女子高生の指紋はなく、犯人が自ら縛ったとみられています。稲垣さんはなぜか縛られることなく壁際へと追い詰められました。
女子高生たちは、後頭部から右上方へ向け脳幹部を狙われたことが分かっています。こうした角度で人間を撃ち抜くには、四つん這いのような姿勢を取らされていたのではないかと考えられます。そして犯人は続けざまに2人を射殺しました。
3人を殺した目的は何だったのか?
金庫には鍵がささっていました。おそらく犯人に脅された稲垣さんが開けようとしていたのではないかと考えられます。この日、金庫には526万4608円の現金が入っていました。
稲垣さんは、日頃からナンペイのセキュリティの甘さを人前でも吹聴していたと言います。犯人はそんな情報を知っていたのではないか、こうして強盗目的の容疑者が浮上していきました。
事件の5か月前から都内で強盗事件が多発。犯行グループは拳銃を躊躇なく発砲することから関連性が疑われました。さらに、カナダに住む中国人男性がナンペイの実行犯を知っている可能性があり、日本に移送されたこともありました。しかし、どちらも事件への関与は裏付けられず強盗に関する捜査は行き詰りました。
指紋の男 追跡
2015年2月18日、事件現場で発見された指紋が酷似していると指摘された中村稔(仮名)という男が浮上しました。
実は犯人が現場に持ち込んだ粘着テープには、使い始めの部分に指紋が検出されていました。その指紋と中村が以前窃盗事件を起こしたさいに採取された指紋の特徴点が一部一致していたのです。
中村の指紋とナンペンの事件の指紋は当初4点の一致しか確認できませんでした。しかし、最新技術で復元してみると8点まで一致。完全な証拠能力はないものの、警察も中村の捜査を続けたと言います。中村は長男が起こした事故の賠償金で金に困っていたと言います。
実は犯行の30分前に1台の白い不審車両が目撃されていました。運転手は徐行しながら店内をのぞき込んでいたと言います。目撃された白い車にも中村との接点が浮上しました。中村は当時白い型の古いチェイサーに乗っていたのです。
さらに、中村の知人・小林和夫(仮名)の存在もありました。小林は当時、「ピストルならいつでも用意できる」と言っていたそうです。
小林は事件への関与は否定。しかし、自分のもとにも何度か捜査員が来たことは正直に語りました。
小林は過去の拳銃所持は認めたものの、事件で使用されたものとは何ら関係ないと言います。さらに、事件当日は2人とも会社の打ち上げに参加していた可能性があり、小林も事件への関与を否定しました。
そもそも捜査員の中には強盗犯説に強い疑いを持つ者もいたと言います。その根拠は犯人が金目のものを物色した形跡がなかったこと。デスクには金庫の番号が挟まっていましたが、開けられた形跡はありません。さらに、稲垣さんのセカンドバッグも物色された形跡が全くありませんでした。女子高生のリュックや財布もです。
犯人の動機は一体何だったのか?
稲垣さんは10cm程の距離から銃で撃たれていた可能性があると言います。さらに、稲垣さんはその一発だけでなく頭頂部からももう一発の弾丸が撃たれていました。
つまり、犯人は目の前10cm程の距離から弾丸を放ち、さらに念を押すように頭頂部からも1発、計2発を頭に撃ち込んでいました。このことから、個人的な恨みや怨恨の可能性があると言います。
稲垣さんがよく通っていたというスナックMは今も営業を続けています。文枝ママ(仮名)によると、稲垣さんは忘れようにも忘れられない客だったと言います。
常連客までもがそんな気性の荒さを覚えていると言います。
複数の男性とトラブルがあったという稲垣さん。そんな噂となった酒井さん(仮名)という男性がいると言います。
稲垣さんは、事件の1年前までスナックを経営していました。噂となった男性の一人が常連客の酒井さん(仮名)でした。稲垣さんに入れあげた酒井さんは、いつも多額の金を貢いでいたと言います。
しかし、捜査員によれば酒井さんはすでに捜査線上からは外れていると言います。
事件から22年…事件現場は今…
現在、スーパーナンペイがあった場所は駐車場になっています。そして、多くの証言者がすでに亡くなっています。
「報道スクープSP激動!世紀の大事件Ⅴ」
八王子スーパーナンペイ殺人事件
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