宇宙では全てものが何かの周りを回っているように思えます。惑星は恒星の周りを、衛星は惑星の周りを回っています。月も衛星の一つです。衛星の中にはたびたび噴火するもの、厚い氷や海に覆われたものがあります。宇宙はどのように成り立っているのでしょうか?
火山や氷 環境はさまざま
太陽系には地球を含む8つの惑星が存在します。8つのうち、水星と金星を除く6つの惑星には周囲を回る衛星があります。衛星とは惑星や小惑星の周りを公転する天体です。その数は太陽系全体で300以上。衛星には1つとして同じものはなく、それぞれに特徴があります。
地球の衛星である月には、大気がほとんどありません。しかし、太陽系の他の衛星には海や大気に覆われたものがあります。また、激しい火山活動で地形が変化し続ける衛星や、宇宙空間に氷を吹き上げる衛星もあります。
土星と木星は、水素やヘリウムなどで出来た巨大なガスの惑星です。どちらにも60以上の衛星があります。土星の衛星であるイアペトゥスは、表面は白と黒のまだらの模様をしています。オレンジ色のタイタンは土星最大の衛星です。氷に覆われたエンケラドゥスは、宇宙空間に氷を吹き上げています。
共通点 惑星を周回
見た目も性質も様々な衛星ですが、一つだけ共通した特性があります。それは引力によって惑星の周りを回っていることです。衛星には惑星の公転や自転を安定させ、太陽系のシステムを円滑にするという役割もあります。
衛星は自然の法則にのっとった動きをする一方で、驚くほど不規則な動きもします。天体の衝突などにより予想外の現象が起きるからです。
特徴をもたらすもの
衛星は宇宙空間のガスの雲が密度を増す過程で生まれました。誕生したばかりの星の周りには、大量の塵やガスが散らばっています。塵の粒子はゆっくりと結合し岩の塊になります。岩同士がぶつかったり引力で引き合ったりして、塊は徐々に大きくなっていきます。降着(こうちゃく)と呼ばれるプロセスです。
2003年、国際宇宙ステーションで降着という現象の仕組みを解明する実験が行われました。無重力空間でプラスチックの袋の中に塩と砂糖を入れます。すると、バラバラの粒子が結合し始めました。これが降着です。降着によって太陽系には8つの惑星と、大小何百もの衛星が誕生しました。しかし、誕生のプロセスは同じでも衛星の姿は様々です。
木星の2つの衛星カリストとガニメデは、木星が誕生して間もない頃に木星を取り巻く塵から生まれました。ガニメデが誕生したのは木星に近い塵の多い空間でした。塵が大量にあったため、一万年ほどで素早く形成されました。温度が高いためにガニメデの表面は岩と氷の2つの層に分かれました。
一方、カリストは木星から遠い塵や熱の少ない空間で誕生しました。ガニメデよりも形成されるのに時間がかかり、しかも短時間で冷却されたため岩と氷が分離しませんでした。カリストの表面はガニメデよりも均一です。
誕生した衛星が安定した軌道に乗れるかどうかは形成される場所によります。惑星に近すぎると、その引力によって粉々にくだけてしまいます。木星が誕生して間もない頃、多くの衛星が木星の引力に引き込まれ消えていったと考えられています。巨大な木星は今も周りの衛星を引き寄せています。今ある衛星もいつかは木星に飲み込まれるかもしれません。
引力による影響
木星の周囲には60以上の衛星があります。中でも大きな4つ衛星は、17世紀に天文学者ガリレオによって発見されたころから、ガリレオ衛星と呼ばれます。
ガリレオ衛星の中で木星に最も近いのはイオで、木星から約42万キロ離れた所を周回しています。これは地球と月の距離にほぼ匹敵します。しかし、イオの表面には月面のようなクレーターが見当たらず、比較的新しい地層ばかりです。これはイオの表面には噴火する何十もの火山があるからです。
イオは巨大な木星と、近くを通る衛星の双方の引力に引っ張られ常に揺さぶられています。この潮汐力(ちょうせきりょく)と呼ばれる力によって、イオの内部には歪みと猛烈な熱が生じているのです。イオの内部の温度はどんどん上昇し、ついには溶岩を大噴火させます。流れる溶岩は古い地層の上に堆積します。イオの表面にクレーターがなく滑らかに見えるのはそのためです。
イオの次に木星に近いガリレオ衛星エウロパの表面は非常に低温で、温度は氷点下160℃以下で厚い氷の層に覆われています。しかし、イオと同じようにエウロパの内部もまた木星の引力によって熱せられています。氷の一部は溶けて水になっていると考えられています。エウロパは地球以外で生物がいる可能性が高い場所の一つです。近い将来、地球から送られた探査機によってエウロパの海の謎が解明されるかもしれません。
木星から遠く離れた場所を周回する衛星は、木星の引力が弱いため内部で発熱する量もわずかです。しかし、荒涼としたそれらの衛星にも興味深い痕跡が発見されました。それは無数の衝突の跡です。天体同士の衝突が特徴ある衛星の体系を生み出したと考えられています。
土星の環 誕生の謎
太陽系の惑星で最も特殊な衛星の体系があるのは土星です。土星の周りを回る天体は広範囲に広がり、その数は10億個以上あります。大きさは様々で、多くは小さな岩や氷の欠片です。それらが円を描くように集まり、土星の環を構成しています。例え小石ほどの大きさでも、惑星を周回する限り衛星と変わりません。土星の環がどのようにして出来たのかは天文学における長年の謎でした。
1990年代、土星探査機カッシーニが打ち上げられました。7年後にカッシーニは土星の軌道に到達しました。土星の環は、約40億年前に土星が誕生したさいの氷の欠片で出来ていると考えられています。しかし、それだけ古ければ通常は宇宙の塵に覆われているはずです。土星の環がなぜ真新しいもののように明るく光っているのかは長い間謎でした。
謎を解明するため、カッシーニは土星の環に接近し多くの画像を撮影。画像には氷の欠片が衝突と崩壊を繰り返す様子が捉えられていました。衝突によって氷が削られ光沢のある綺麗な表面が保たれていたのです。
初期の土星に環は存在せず、多くの衛星が周回していたと考えられています。ある時、氷に覆われた彗星が接近し衛星の一つに衝突。彗星は粉々に砕け散りました。衛星もぶつかった衝撃で土星の方へ押しやられ、土星の強い引力によって崩壊。衛星の欠片と彗星の氷は宇宙空間で混ざり合い徐々に土星の引力に繋ぎ止められ、土星の環となったのです。
衛星の成り立ちには引力が不可欠です。引力は衛星の周回を助け、熱エネルギーを生み出すもととなり、衛星を崩壊させる力となります。さらに、引力は彗星や小惑星をつかまえ新たな衛星を誕生させることもあります。
引力によって衛星に
太陽系の衛星の多くは、惑星が誕生した時に残った破片が集まったものです。しかし、中にはまったく違う過程を経て誕生したものもあります。惑星の引力にとらわれたものです。
宇宙を漂う彗星や小惑星は本来、太陽の周りを公転する天体ですが、何らかの要因で軌道を外れ別の惑星の引力に捕まることがあります。惑星の引力が弱ければ再び離れ、引力が強すぎれば惑星に衝突します。引力がちょうどつりあう時、彗星や小惑星は衛星の仲間入りを果たします。
火星の衛星フォボスとダイモスは、火星の引力に捉えられた小惑星です。ダイモスは公転しながら次第に火星から遠ざかっています。一方のフォボスは、少しずつ火星に近づいているため、最終的に火星に衝突すると考えられています。
地球の第二の月とも言われる小惑星クルースンは、地球を公転しているわけではありませんが、その軌道は地球の引力の影響を大きく受けています。クルースンは1986年に発見されました。直径5kmのクルースンは数千年前まで太陽の周りを公転していました。しかし、地球の引力によって徐々に軌道がそれ始めました。クルースンの軌道は、地球からある程度の距離を保ち地球の後を追うようにして太陽を公転しています。
小さな惑星が、さらに小さな天体をとらえることもあります。1993年、木星探査機ガリレオが小惑星イダの近くで発見した衛星は直径が800mしかないものでした。捕獲された衛星の中には、かなり大きなものもあります。その代表格がトリトン。海王星の衛星で直径が2700kmあります。
トリトンの軌道は通常の衛星とは異なっています。多くの衛星は惑星の自転と同じ方向に公転しますが、トリトンは海王星が自転する方向と逆向きに公転しています。このことは、トリトンが海王星が誕生した時の塵から出来たものではないことを意味しています。
科学者たちは、太陽の周りを公転していたトリトンが海王星の巨大な引力にとらわれたと考えています。トリトンは今も少しずつ海王星に引き寄せられています。遠い将来、海王星の引力によって砕け散ると考えられています。宇宙空間に飛び散ったトリトンの欠片は、海王星の環へと姿を変えるかもしれません。
月 誕生の秘密
長い間、月は地球が誕生した際の塵から形成されたと考えられてきました。しかし、現在は根本的に異なる説が有力になっています。月は惑星同士の巨大な衝突、ジャイアント・インパクトから生まれたという説です。
1969年、アポロ宇宙船の飛行士が人類史上初めて月面に降り立ちました。アポロ計画のミッションの一つは、月の岩石を地球に持ち帰ることでした。分析結果は驚くべきものでした。月の岩石は地球の地殻とそっくりで、かなりの熱にさらされた痕跡がありました。誕生したての地球に何かが衝突し、はがれて飛んだ岩石が軌道にのって月になったのです。月は地球の岩石の残骸なのです。
地球と惑星の衝突は46億年前に起こりました。ジャイアント・インパクトです。その頃、太陽系はまだ混沌とし、太陽の周りには今よりもずっと多くの惑星が回っていました。その中にテイアと呼ばれる火星ほどの惑星があり、その軌道は地球の軌道と交わっていました。地球とテイアは時速何千キロものスピードで衝突。テイアは完全に崩壊し、地球も一部を失いました。
衝突によって宇宙に飛び散った岩石は、やがて地球の引力に引き寄せられ地球を回る軌道に乗ります。月という地球の衛星が生まれたのです。これが月誕生の有力な説です。
現在、月は地球から38万キロ離れた所を回っています。しかし、誕生したばかりの月と地球の距離は約2万キロしかありませんでした。かつて地球の自転は今よりもずっと速く、一日は6時間しかありませんでした。月の引力は地球の自転にブレーキをかける役割を果たしました。
現在、1日が24時間あるのは地球の自転速度が徐々に遅くなった結果です。さらに、月の引力は潮の干満をたらしミネラルや栄養分の豊富な海を作り出しました。地球上に生命が誕生したのは、月という衛星が偶然生まれたおかげなのです。
衛星に生命はいるか?
宇宙探査が進むにつれ、衛星にはそれぞれ特徴があることが分かってきました。いくつかの衛星には、生命の源である有機化合物が豊富に存在することも分かってきました。多くの衛星は一見、生命が育つのに適した環境ではありません。
土星の衛星エンケラドゥスは直径50km、表面が厚い氷に覆われ宇宙空間で常にキラキラと輝いています。2005年、土星探査機カッシーニがエンケラドゥスの表面から噴き出す氷を撮影しました。内部で発熱し、氷の下に温かな海があるようです。
氷が噴き出すのは土星の引力によるものです。土星の引力によって衛星内部が発熱し、氷の下の水が膨張して外へ出ようとします。水は冷えて氷の結晶となり、宇宙空間へ噴出されます。太陽系におけるもっとも壮大な噴火の一つです。
カッシーニの探査によって、エンケラドゥスの噴出物から塩と有機化合物が検出されました。つまり、氷の下の海には生命の源となる栄養素が含まれていることになります。
エンケラドゥスの他にも生命が存在する可能性が高いのが、土星の衛星タイタンです。2005年、カッシーニから送り出された小型探査機ホイヘンスが初めてタイタンの表面の撮影に成功。タイタンの表面には雨が降っていたのです。雨粒は地球の2倍の大きさで、その成分は水ではなくメタンでした。地球ではメタンは気体ですが、タイタンは気温が低いためメタンが液体で存在しています。
メタンの湖に生物が存在することは地球上の常識では考えられませんが、科学者たちはタイタンなどいくつかの衛星がソリンという有機化合物で覆われていることに注目しています。ソリンには生命を誕生させる化学成分が含まれ、微細な生物が育まれる可能性があるのです。
地球にはソリンは存在しませんが、タイタンの表面にあるのと同じ気体を使って人工的にソリンを作り出すことができます。太陽系のどこかの衛星で生命はすでに誕生しているのかもしれません。それがどのようなものかは誰にも分かりません。
HOW THE UNIVERSE WORKS:MOONS
(アメリカ 2010年)
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