オレキシンとナルコレプシー「睡眠の悩みを解く発見」|夢の扉+

眠りに悩む日本人は5人に1人。眠りの謎が解ければ日本中の誰もが安らかに眠れると、国をあげての一大プロジェクトがスタートしています。そのキーマンがテキサス大学・筑波大学教授の柳沢正史(やなぎさわまさし)さんです。

時と場合を選ばず居眠りを一日に何回も繰り返してしまうナルコレプシーという病気の患者数は全世界で350万人。日本にも20万人の患者がいます。

120年もの間、解明されていないナルコレプシーに挑んでいるのが柳沢正史さんです。研究拠点はアメリカです。

眠りには脳が休息する眠りノンレム睡眠と脳が活動しているレム睡眠があります。ナルコレプシーの患者は眠りのリズムがまったく違います。通常はノンレム睡眠とレム睡眠が90分周期でおとずれますが、ナルコレプシーはその周期がとても不規則に。そのため脳が休息できず疲れがたまってしまうのです。なぜこんな眠りになるのでしょうか?

柳沢正史さんは眠りの謎を解く鍵は脳内物質と考えました。そして3年という歳月をかけ、脳から分泌されているオレキシンをつきとめました。オレキシンは眠りをコントロールする脳内物質。人が生涯に分泌する量はごくわずかですが、オレキシンが足りないとナルコレプシーを引き起こしてしまいます。眠りの謎を解く大発見と柳沢正史さんはノーベル賞候補にも挙がっています。

柳沢正史さん

柳沢正史さんは人と違っていることを恐れることなく、誰も手を出さない未知の領域に挑んできました。その片鱗は科学番組が大好きだった少年時代からあらわれていました。小学校では授業をまるで聞かず好き放題。

しかし、ある日先生が柳沢正史さんに「この問題、図書室で調べてきてよ」と意外な注文をしました。担任の山岸先生は柳沢正史さんの個性をいかそうと課題を与え自由に勉強させました。これが功を奏し、学力はぐんぐん伸びていきました。

大学院2年生の時、高血圧の原因物質を発見。その2年後、テキサス大学で働いて欲しいと手紙が届きました。差出人はノーベル医学・生理学賞を受賞したマイケル・ブラウン博士とジョセフ・ゴールドシュタイン博士でした。

オレキシンの発見

渡米して7年、柳沢正史さんはまたもや大発見をしました。それがオレキシンです。当初は肥満を抑制する物質だと考えました。その肥満抑制効果を調べるため、マウスにカロリーの高い脂肪食を半年以上与え続ける実験を行いました。すると、普通のマウスは肥満になりましたが、オレキシンを投与したマウスは体重の変化がほとんどありませんでした。オレキシンを使えば肥満の治療薬が作れると研究チームは色めき立ちました。

しかし、柳沢正史さんは一人違うことを考えていました。オレキシンは脳の中でも根源的な欲求を司る部位から分泌されます。ならばもっと重要な役割を果たしているのではないかと考えたのです。

柳沢正史さんがマウスの異変を発見したのは4週間後。てんかんのような症状が出ていたのです。マウスの脳派データを見直しましたが、千時間に及ぶデータをいくら調べてもてんかんを表す兆候は見られませんでした。

柳沢正史さんは、マウスはもしかしたら眠っているのでは?とひらめきました。そしてオレキシンは肥満を抑制するだけではなく、睡眠を司る物質であることを発見したのです。

人は昼間や空腹時、脳内にオレキシンが分泌され目を覚まします。夜や満腹の時にはオレキシンの分泌量が減少。これが眠りの合図になります。

ナルコレプシーの患者は、オレキシンが極端に少ないということを柳沢正史さんは突き止めました。

ナルコレプシーの治療薬の開発

今、睡眠に悩む日本人は5人に1人。睡眠の問題による経済損失は3兆5000億円という試算もあります。

2010年、柳沢正史さんは日本にも拠点をおきました。自らが発見したオレキシンを使いナルコレプシーの治療薬を開発しようというのです。100億円を投じる国家プロジェクトで、総勢100人におよぶ研究者を世界中から集め、眠りの真実に迫ろうとしています。

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人はなぜ眠る?睡眠の悩みを解く発見

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