113番元素はこうして作られた|サイエンスZERO

2015年の大晦日、日本の研究グループに周期表113番目の元素の命名権が認められました。

 

この世界を形作る物質は全て元素からできています。ところが、周期表にはまだ空欄があります。それを発見した人に与えられるのが命名権。実はこれまで欧米の国以外に命名権が与えられたことはありませんでした。つまりアジア初の快挙なのです。

 

元素の番号は陽子の数で決まります。113番元素は、陽子の数が113個あるということです。これは2つの元素をぶつけ陽子の数が113個になれば作れるのです。今回は30番目の亜鉛と83番目のビスマスを使って作られました。

 

 

宇宙初!?113番元素の合成に挑む

113番元素が作られたのは、理化学研究所仁科加速器研究センターです。中にあるのは巨大な装置。たった1個の新元素を作るために、70mに渡る巨大な装置が必要だったのです。

 

発射させる部分には30番元素・亜鉛が入った塊が取り付けられました。これに高速の電子を衝突させることで1秒間に2.4兆個の亜鉛原子を打ち出すのです。

 

一方、ぶつける相手の83番元素ビスマスは円盤の端に薄膜として貼られました。円盤は回転するようになっています。これは1秒間に2.4兆個もやってくる亜鉛の原子が一点に集中しないための工夫です。打ち出された亜鉛がビスマスにぶつかって核融合を起こせば理論上113番元素ができます。しかし、それは簡単なことではありません。

 

亜鉛の動きが遅い場合、原子核同士が反発してしまうためにぶつかりません。一方、速すぎた場合にはうまく核融合せずに2つに分解してしまいます。速すぎず遅すぎず、ちょうどいい速度にしなければならないのです。そのために重要な役割を果たすのが加速器です。全長40mの加速器を通ることで亜鉛をちょうどいい速度に調整するのです。

 

亜鉛の原子を詳しくみると、原子核の周りに複数の電子が回って雲のような状態を作っています。原子核は陽子と中性子でできているため電気的には+です。その周りにある電子は-なので全体的には中性です。しかし、亜鉛は打ち出される時には電子の一部がはぎ取られます。すると、加速器にやってくるときには全体が+になっています。

 

加速器の中にはチューブがあり+と-が交互に切り替わる高周波の電気が流れています。ここに+の亜鉛がやってくると、まず-になったチューブに引っ張られ次に+の部分と反発して押し出されます。これを繰り返すことで加速していきます。この切り替えの速さや強さを変えることで、亜鉛を核融合に最適な速度にまで加速させるのです。

 

113番元素を作るために必要な速度は光速の10%、このハイスピードで亜鉛をビスマスにぶつけることで113番元素の合成に挑戦したのです。

 

113番元素を検出せよ!

たくさんの亜鉛の中にまぎれているたった1つの新元素を取りだすための装置が、GARIS(ガリス)です。実は、大量の亜鉛を取り除くのはそれほど難しいことではありません。

 

飛んできた原子に磁力をかけると進行方向が変わります。30番元素の亜鉛と113番の新元素では電荷も質量も全く違うために新元素だけを取り出すことができるのです。こうして残った113番元素がこのまま検出器に入れば何も難しいことはありません。実は難しいのはここからなのです。

 

通常、原子は陽子と同じ数の電子を持っています。つまり電荷は0です。しかし、核融合で作られる新元素はビスマスの薄膜から飛び出す時にいくつか電子を奪われます。その数はそのつど違うのですが、実はこれが大問題。電荷によって働くローレンツ力も変わってしまうからです。

 

例えば同じ113番元素でも電子が一つ少ない電荷+1の場合と、2つ少ない+2ではローレンツ力が変わるため進む方向が変わってしまいます。そうなると、せっかくできた新元素を取り逃がしてしまう可能性があるのです。

 

そこで磁石の中をヘリウムガスで満たすという方法をとりました。ヘリウムは2つの電子を持っています。113番元素はヘリウムガスの中を通るうちにヘリウムの電子をとったり逆にとられたりします。そうして進むうちに、新元素が最初にいくつ電子を持っていたとしても電荷が平均で+12になることが分かりました。電荷が変われば、磁石を調整することで検出器めがけて飛ぶように設定することができます。

 

こうして2001年に新元素を検出する準備が整いました。実験は24時間体制で行われました。そして2004年7月23日、ついに新元素が検出されました。

 

さらに大きな元素に挑む!

現在、さらに先の119番、120番の元素を作る準備を進めています。しかし、119番以降の元素は今のGARISの性能では粒子が重すぎて検出器に導くことができないと考えられています。

 

そこで新しく作ったのが、より強力な磁石をそなえ性能が1.7倍にアップしたGARIS-Ⅱ(カリス2)です。周期表に日本2つ目の元素を載せることを目指し、一丸となって研究を進めています。

 

「サイエンスZERO(ゼロ)」
祝!命名権獲得 113番元素はこうして作られた

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