「一角獣を抱く貴婦人」は、22歳の若さで描いたラファエロ・サンツィオの初期の傑作です。女性のポーズ、背景の作り方、視線などレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」とそっくりです。
レオナルド・ダ・ヴィンチが描きたかったものは影ですが、ラファエロは光そのものを描きたかったのです。ラファエロはこの1枚をきっかけに天才に学ぶことを掴みました。
ラファエロがフィレンツェにやってきたのは、1504年頃のことです。8歳の頃に母を、11歳の時に画家だった父を亡くしたラファエロは、ペルジーノの工房で働き画家とし独立後、放浪の旅を続けました。そして21歳の時にフィレンツェに辿り着きました。
「モナ・リザ」との出会い
ちょうどその頃、レオナルド・ダ・ヴィンチはサンタ・マリア・ノヴェッラ教会の一室を工房にして「モナ・リザ」の制作に取り組んでいました。その工房を訪ねたラファエロは、途方もない衝撃を受けました。目撃したのは完璧な美。そして、ラファエロは「一角獣を抱く貴婦人」を描くことになったのです。
「モナ・リザ」との出会いによって、ラファエロはスフマートと呼ばれる技法を取り入れています。レオナルド・ダ・ヴィンチが研究を重ねて編み出した、輪郭や色の境界をぼかして描く技術を、ラファエロは瞬く間に会得してしまったのです。
さらに、「一角獣を抱く貴婦人」の明るさと輝きには別の技法が隠されています。
4分の3正面観
ラファエロは多くの肖像画を描いています。そのほとんどが「モナ・リザ」と同じポーズ。これは「4分の3正面観」と呼ばれています。レオナルド・ダ・ヴィンチから学んだラファエロは、肖像画の一つのスタイルを確立していました。「一角獣を抱く貴婦人」はその原点とも言うべき作品なのです。
ラファエロは、他の画家の作品の優れたところを見つける能力に長けていました。彼はそれを単に模倣するのではなく、さらに進化させてより美しく魅力的に変えてしまうのです。ラファエロはレオナルド・ダ・ヴィンチの4分の3正面観を使いつつ「モナリザ」を超えようとしていたのです。
80年程前まで「一角獣を抱く貴婦人」は「アレクサンドリアの聖カタリナ」というタイトルがつけられ別の画家の作品とされていました。なぜなら、現在のような姿ではなかったからです。
1930年頃、美術史家が随所に不自然なところが見られ何者かによって描き加えられていると主張。そして洗浄してみたところ、現在の姿が浮かび上がってきました。ではなぜラファエロの作品だと認められたのでしょうか。理由は筆使いと描き方にあると言います。
ヴェラトゥーラ
ラファエロは、ヴェラトゥーラという油で薄めた絵具を色調を変えながら何度も塗り重ねていく技法を使っています。
最初に塗るのは一番明るい色。十分乾燥させた後、1回目より少し暗い色で上塗りしていきます。色を徐々に暗くしながら塗り重ねていくのです。丁寧に根気よく上塗りを重ねていくと画面全体が透き通った空気感に包まれ、衣装には絶妙な質感が表れていきます。
若きラファエロは「モナリザ」のポーズを借り、レオナルド・ダ・ヴィンチを脅かすほどの技術で「一角獣を抱く貴婦人」を描き上げたのです。
何のために描かれた?
一角獣にはどんな意味があるのでしょうか?一角獣は清らかな心を持った女性のみが手なづけることが出来るとされてきました。つまり純潔の象徴なのです。
「一角獣を抱く貴婦人」は、おそらく女性の結婚祝いのために描かれた作品だと思われます。
「美の巨人たち」
ラファエロの「一角獣を抱く貴婦人」
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