老人漂流社会 ~老後破産の現実~|NHKスペシャル

今、ひとり暮らしの高齢者が600万人にせまる勢いで急増しています。その多くが自分の年金収入だけを頼りに暮らしています。

 

年金収入が年間120万円未満の人は単身高齢者のうち46%にのぼります。そのうち生活保護を受けているのは約70万人。残りの200万人余りは生活保護を受けずに暮らしています。その中には貯蓄が少なく医療や介護を十分に受けられない老後破産の高齢者が数多くいます。

 

港区 高齢者の生活調査

東京都港区がひとり暮らしの高齢者の生活実態を調査し始めたのは3年前。孤独死が急増し、深刻な問題となっていたからです。区の相談員はひとり暮らしの高齢者の自宅を訪れ、経済的に困っていることがないか聞き取り調査をしています。

 

 

区内の独居高齢者は約5700人。それに対して相談員は11人しかいません。増え続ける高齢者の数に対策が追いついていません。

 

年金10万 家賃6万

田代孝さん(83歳)の年金は月10万円。アパートの家賃6万円を払うと残りは4万円しかありません。家賃の安い住宅に移りたくても引越し代がないと言います。1日500円以下の切り詰めた生活を続けてきましたが、電気代も払えなくなりました。

 

月10万円の年金収入があるのは国民年金に加え、企業で働いていた時に加入していた厚生年金があるからです。

 

ビール会社で正社員として23年間働いた田代さんは、40代半ばで独立し飲食店を経営してきました。しかし、店は赤字が続き倒産。貯金もなくなりました。

 

仕事一筋で結婚をしなかった田代さんには頼る家族もいません。働いていた頃、老後のことは心配したことがなかったと言います。

 

ここ数年、具合が悪くなっても病院にはいっていません。節約のため十分に食事も摂れていません。かつて社交的だった田代さんは、今の暮らしを知られたくないと人付き合いを避けるようになりました。

 

港区の相談員は田代さんに生活保護をすすめ、彼は生活費の不足分について保護を受けることになりました。

 

港区のように行政が積極的に相談員を派遣して、ひとり暮らしの高齢者の実態を把握しようという取り組みは他の自治体ではあまり行われていません。

 

国民年金制度

国民全員が加入する国民年金制度ができたのは、今から50年以上前。高度経済成長の時代でした。子供や孫と同居するのが当たり前の時代に作られた制度でした。

 

しかしその後、同居率は下がり続け今は13%です。さらに、働く世代の暮らしも厳しさを増し、離れて暮らす子供には頼れないという高齢者も増えています。

 

年金 月2万5000円

高齢化率が31.6%と全国で最も高い秋田県。その中でも高齢化が急速に進んでいるのが湯沢市です。米農家をしていた西館ヨシさん(84歳)は、農作業が続けられなくなり田んぼは親戚に任せています。

 

農家や自営業の人の多くは国民年金で暮らしています。40年間保険料を払えば月6万4000円貰えますが、払えない時もあると減額されます。そうした人は少なくありません。西館さんの年金も月2万5000円です。

 

夫は15年前に病気で亡くなりました。夫は心筋梗塞で倒れ、10年余り入退院を繰り返しました。医療費の支払いで家計は赤字続き、年金の保険料を払う余裕がなかったのです。

 

コツコツと貯めてきた預金も医療費の支払いでなくなりました。故郷を離れ嫁いでいった娘に頼ることも出来ません。

 

湯沢市のひとり暮らしの高齢者は約3000人。若者の流出が続き、この10年で2倍に増えました。西館さんは食費にまわすお金がほとんどないため、おかずの材料は自分で野山に採りに行きます。光熱費を払うと手元に残る生活費は1万円程です。そのため、食費は毎月4000円しか使わないと決めています。

 

今、最も不安なのが心臓に狭心症の持病があり、発作がいつ起こるか分からないことです。発作をおさえるには薬が欠かせず医療費が重い負担となっています。生活保護を受ければ医療費は免除されますが、田んぼや自宅を持っていると受けることが出来ません。西館さんは先祖代々の田んぼを守りながら、この土地で暮らしていきたいと考えています。

 

年金 月8万円

宝槻とき子さん(82歳)は、月8万円程の年金で暮らしています。リウマチが悪化し足の関節がむくみ歩くことが出来ない程の痛みがあると言います。毎朝1時間、掃除や洗濯などの介護サービスを利用しています。費用は1割負担で月3万円です。

 

生活費に余裕がなくなったのは2年前、夫が亡くなってからでした。

 

夫が生きていた頃、国民年金は2人分合わせて13万円。生活に困ることはありませんでした。しかし、夫が亡くなったあと国民年金は6万円あまりに減りました。

 

頼りにしていた一人息子は、7年前に病気で亡くなりました。息子が生きていた頃、老後のことは心配したことがなかったと言います。

 

今、国は年金を毎年少しずつ引き下げています。宝槻さんは年間6000円ほど引き下げられました。宝槻さんの1ヶ月の収入は国民年金6万1950円、遺族年金1万7500円の合計7万9450円です。

 

一方、家賃は1万円、光熱費1万円、生活費4万円、介護利用料3万円、配食サービス2万円と支出は11万円にもなります。月3万円ほどの赤字は預金を切り崩してきましたが残り40万円ほどになりました。

 

こうした老後破産に陥った高齢者に対して、国は税金や保険料の免除や減額といった対策をこうじています。その一方で、国は少子高齢化に合わせて年金の給付水準をいっそう引き下げざるおえないとしています。

 

超高齢社会をむかえ、ひとり暮らしの高齢者が増える中、老後破産に陥る高齢者の急増をくいとめるのは容易ではありません。

 

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老人漂流社会~老後破産の現実~

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