無届け介護ハウス|NHKスペシャル

今、全国で無届けの介護施設、いわゆる無届け介護ハウスが急増しています。法律で定められた届出をしないと罰則がありますが、今まで適用されたことはないと言います。高齢者の行き場がなくなりかねないからです。

 

 

無届け介護ハウスの実情

名古屋市の住宅街にある無届け介護ハウス。経営者の岩本智秀さんは、こうした施設がなければ高齢者の行き場がない実情を知って欲しいと取材に応じました。

 

空き家だった一軒家を改築することなくそのまま使っています。一階の和室にはベッドが4つ並んでいます。有料老人ホームに対する国の指針では個室にしなければなりませんが、ここでは相部屋です。2階にはベッドが3つ。老人ホームに義務付けられているスプリンクラーはなく、消火器しかありません。

 

月々の利用料は食費もこみで約10万円ほど。一般の有料老人ホームの平均より15万円安くなっています。利用料を安くできるのは介護保険から支払われる訪問介護の報酬も得ているからです。1人につき毎月20万円~30万円程が自治体から支払われます。

 

通常の訪問介護はヘルパーが利用者の家を訪ね、介護サービスを提供することで報酬を受け取ります。一方、無届け介護ハウスの多くは高齢者を同じ建物に住まわせ、そこに訪問介護をするという形をとることで報酬を得ているのです。施設を始めて4年、常に満員です。

 

入居者

西村光子さん(84歳)は、歩くことが難しくなり2年前に入居しました。夫は国家公務員で転勤で全国を転々とする暮らしを送ってきました。老後は月24万円の年金で2人で十分暮らしていけると考えていました。しかし、思い描いていた通りにはなりませんでした。

 

夫が認知症を発症、さらにがんを患い入院したのです。月8万円の医療費がかかるようになりました。

 

退院したら2人で公的な介護施設、特別養護老人ホームに入りたいと考えましたが5年待ちだと告げられました。

 

自宅で暮らすことが難しくなった人の受け皿となる特別養護老人ホームは公的な施設のため利用料は年金額などに応じて約3万円~14万円です。ただ入居待ちが全国で約52万人います。

 

一方、民間の有料老人ホームは利用料が月に約25万円かかります。一般的な年金の平均額を大きく上回るため入れない人が少なくありません。

 

西村さんの場合、年金から夫の医療費を差し引くと残るのは月16万円。結局入れたのは無届けの施設だけでした。

 

無届け介護ハウスは、自宅での介護に限界を感じた人たちにとっても必要な存在になっています。3年前、母親を入居させた中垣恵介さん(66歳)母親は10年程前から認知症の症状が出始めました。家での介護が難しくなり施設を探しましたが、受け入れてくれるところが他にありませんでした。

 

施設が足りない

15年前に始まった介護保険制度は、社会全体で高齢者の介護を支えることが目的でした。国民は保険料を支払う代わりに必要な介護サービスを受け、安心して老後を送れるはずでした。

 

サービスの柱は在宅介護と施設での介護です。国は高齢者が自宅で暮らし続けられるよう在宅での介護を重視。整備に多額の費用がかかる施設の数は抑えてきました。

 

しかし今、介護の必要な高齢者が想定外に急増。核家族化や単身化も進み、在宅の介護サービスだけでは自宅に暮らし続けられない高齢者が増えています。一方で施設の数は抑えられてきたため、多くの高齢者が行き場を失うことになったのです。

 

無届け介護ハウスを経営する岩本さんのもとには、高齢者を受け入れて欲しいという相談が絶えません。特に増えているのが病院からの依頼です。背景にあるのは、入院期間を短くして医療費の伸びを抑制しようという国の政策です。

 

病院は患者の入院期間が短いほど多くの診療報酬を得られる仕組みになっています。そのため転院や自宅、施設への退院を促すことで入院期間を短くしてきました。さらに、去年からは高齢者のリハビリなどにあたる病院が患者の7割以上を自宅などに退院させれば診療報酬が増えるようになったのです。

 

国の対策

高齢者の受け皿をどう確保するのか、国は対策をうちだしています。

 

安倍総理大臣は介護離職ゼロを掲げ、そのために高齢者の施設も増やしていく方針を示しました。特別養護老人ホームなどの整備を進め、2020年代初めまでに50万人分以上を新たに確保したいとしています。

 

しかし、施設を増やすだけでは受け皿として機能しないことが分かってきました。

 

岐阜県にあるベッド90床の特別養護老人ホームでは、210人が入居を待っています。去年、自治体から7600万円の補助金を受け取りベッドを増やしましたが、10床があいたままになっています。

 

この施設では4月以降3人の介護職員が退職。長時間労働などに耐えかねて退職する人が相次ぎ、高齢者を受け入れられない状態が続いているのです。

 

「NHKスペシャル」
調査報告 介護危機 急増“無届け介護ハウス”

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